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16話 いじめに屈するような身分でも性格でもない

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「へえ、あの野郎がお気に入りって言うだけあって、上玉じゃん」
「あのいけ好かねえ平民が泣くとこ想像するだけで興奮するな」
無理矢理掴まれた手は痛いし、覆い被さる身体は大きくて怖い。

最近こんなことがちょいちょい起きるようになった。
今日の彼らはオースティンを面白く思わない連中で、昨日はオースティンを慕う人達の仕業だった。
オースティンを慕う人達については、そんなことしてもオースティンは僕のモノって思ってしまうというか。
僕の方が性格が悪いと思うから、言いたいだけ言わせておくけど、こいつらみたいにオースティンを害そうとするヤツらなら潰しておいた方がいい。

「……お前ら、僕が誰だかわかってるのか?」
「わかってるさ。家族から見捨てられてるビジジュール家の嫡男様だろ?」
「いくら公爵家って言ってもなー、むしろ俺ら感謝されるんじゃねえ?」
「ははは!それな!」
これもそれも全部父上が悪い、とは思うものの。

確かに父からは邪険にされているかもしれないが、家の体裁を考えればこのまま終わらせるわけがないんだけどな。
お前らの方こそ無事で済むわけないってわからないかな。
そんな簡単なこともわからないとか……待てよ?
こんなことができるくらいの、後ろ盾バックがあるのか?
だって、ほんとに最近、ちょっと異常だ。

僕は今、空き部屋に力づくで連れ込まれたところだ。
こんなのが将来市民を守る騎士団とか警らになるなんて、この国終わってるよなあ。

「オースティンに実力で勝てないからって……鍛錬して見返すとかじゃなくて、こんなことしか考えつかないとか馬鹿なのか?」
鼻で笑ってやるぜ。
性根が腐りすぎだろ。だから運すらもつかないんだよ。
「テメェ!!」
抵抗する僕を複数人で床に押さえつけ、服を引きちぎる。

「見ろよ。すっげえ乳首うっす。肌も白いな」
「めちゃくちゃスベスベだし、やわらっか!」
「お前が誰かに訴えてたりできないように、俺らの下で良がる様子をちゃんと映像に残してやるからな」
貴重な魔道具をそんなくだらないことに使うんじゃねえよ。

「オースティンが謝ってきたら、アイツにも貸してやってもいいよな」
「主人に突っ込む従者へいみんってか。外道らしくていいな!」

次々に引き裂かれる服の惨状に、僕は満足した。
このくらいはっきりした被害が有れば、証拠になるよな?
弱そうに見えても僕、成績優秀な魔導士だからね?
影に龍の幼生従えてる魔導士だからね?
って、まあコイツらがそんなこと知ってるわけないんだけど。

肌を這い回る手も気持ち悪いし、もういいよな。
おいコラッ、お前らに唇を許すわけないだろうが。
わっやめろ!お前らの汚いのなんか、触らせるんじゃねえよ!

僕は冷静に周りを見渡し、腕についている魔道具を起動した。
襲ってきた奴らの顔の辺りの空気から酸素のみを抜き出すという、捕獲用のエゲツない代物だ。
この辺りの知識は前世のおかげだよ、本当。
僕じゃ力で勝てないから、最近の物騒さにいろいろ作り溜めたのだ。

既存の魔道具だと国に使用申請が必要だし、使用料も取られる。新たに作り出して特許を取った方がいろいろと楽なんだ。
他人ひとの使用を許可するかどうかも、申請者が譲渡するか死ぬまで権利として持っていられるしな。

僕が複数の属性持ちだから新しく作れるってこともあるけど。
魔道具ってな、魔導師の持ってる属性以外の物は作れないんだよ。
違う属性の魔道具を、使うことはできるのにな。
不思議だろ?

彼らの動きが鈍くなくなってきたところで、両手足を魔力バウンドで縛り上げる。(これは既製品)
もちろん捕獲が済めばすぐに空気を元に戻してやるとも。別に殺したいわけじゃないからな。
まあ、多少の麻痺とかが残るかどうかは知らないけど。

あ、泡ふいてるし、漏らしてんじゃん。汚いなあ。
浄化もしとくか。
僕、人の尊厳は最低限守ってやりたい派なんだ。
そうしないと、悪役っぽくなる気がしてっていう理由でだ。
決して僕がいい人だからではない。

「クロシオ~、シラナミ~、縄取って」
『わかったにゅ』
『これでいいみゅ?』
「うん、ありがとう」
捕獲を完了した彼らの足に縄をつけ、廊下をズルズルと引きずり、後は騎士団に明け渡すだけである。

予想していたとはいえ、こうも露骨な嫌がらせが起こると腹が立つだろ。
僕が弱そうに見えて、オースティンの弱みになるとわかっているからこんなことが起きるのだ。
でなければ、僕に手を出そうなんて奴はいない。

僕、こう見えても結構身分高めの貴族なはずなんだけど。
こいつらより、僕の家格の方が上なんだけど。
まあ、僕が見捨てられた跡取りっていう噂があるのは知ってるんだけどさ。
あー、やっぱりコイツらだけの考えじゃないよなあ。
 
一応被害者らしく犯されかかりました感は出したまま、泡を吹いた騎士クラスの人間を(浮遊魔法陣を貼りつけて)3人引きずっていると、騎士クラスの先生が走ってきた。
額に汗をかいている。

「ナ、ナ、ナローエ様!!」
あれ、顔真っ青じゃん。
「あ、すみません。ちょっと襲われたので捕縛しました。ちゃんと罰していただけないようなら、次からはこちらで対処します」
同じことが起きたら、今度は僕の手で葬り去ってやる。

僕なりにオースティンを守らないといけないっていう使命感に溢れているのだ。
ちゃんと調べてね?
このアホ達がなんでこんなことしたのか、背後までちゃんと調べてね。
だって普通なら公爵家の人間に手なんか出さないだろ?

僕が罰を与えると大変なんだけどなー。
影部屋に入れたら死んじゃうんだけどなー、なんて、他の人間が知ってるわけはないんだけどさ。

僕はオースティンの方が大事だから、自分の手を汚す覚悟はできてるけど、できればしないほうがいいとも思っている。
命はそんなに軽くないって思ってるから。
でも、オースティンのほうが優先だ。
だから、もしもの時の判断は迷わないと決めている。

「ちゃんと罰しますよ!ナローエ様に何かあったら我々の首が飛びますから!」
首が飛ぶ?なんでだ。
僕の疑問がわかったのだろう。先生が言葉を付け足した。

「そんなことがお父上にバレたら、物理的にも我々の首が飛びます」
は?
「そんなこと、ないと思うけど」
王都にいたって滅多に会うこともないんだぞ?
別に今さら愛されたいなんて思いもしないけどな。

『あああ、やっぱり~。お父上に大切にされてるとは微塵も思ってないじゃないですか~』

急に廊下に蹲り、頭を抱え出した先生に戸惑う。
病気か?
大丈夫か?
この3人任せても、大丈夫か?



「今日、騎士クラスの人間に襲われたって聞いたんですけど」
「あ、うん」
「服を乱したまま、歩いたそうですね」
「あ、うん」
被害者っぽい方が信じてもらえるし、罪も重くなりそうだろ。

「そのせいで、一体何人の人間が貴方のことを想像したのかと思うと……ナローエ様」
なんか、黒いの飛んでる!
「ひゃ、ひゃい!」
「覚悟はお決まりで?」
え、えーと?

「俺に酷いことさせないでくださいって、意味、わかってます?」
「う、うん」
わかってる、つもりなんだけど。
「わかってないんですね」
あれ?

その紐、見たことある。

あれ?
「もしかして、ひどくされる方がお好みだったりします?」
「そ、そんなわけ、ないだろ」
「ふーん」
え?え?




「もう、動きたく、ない」
あらぬところを散々弄られて、メンタルが、崩壊している。

「ナローエ様、危ないところには行かないで、その前に逃げてください」
オースティンの裸の胸の上に頭を乗せてぐったりしてると、ゆっくり髪をかれるのが心地いい。
事後のダルさもあって、うっとりと目を閉じた。

「僕、さすがに近衛騎士とか上級騎士とかなら勝てないけどさ、ただの学生に遅れは取らないよ?」
頭の下でピクリとオースティンの筋肉が震えた。

「それでも!いつもバカ正直に正面からのケンカばっかりってわけにはいかないんですよ」
小さく唸るような声に、危機感知センサーが反応した。

「まあ、たしかに。人質とか、卑怯な手を使われたら、僕も躊躇してしまうかもしれないな。うん、ごめん」
ここは素直に非を認めよう。

「わかってくれたのならいいんですけどね。……本当に心配しました」
オースティンの声音が、ふっと落ち着いた。
正解だったらしい。
よかった。
オースティンのことは大好きだけど、限界はあるんだぞ。
今日はこれ以上は、ホント無理だから。

「うん、ごめん」
しばらくするとオースティンから小さな寝息が聞こえてきて、僕はそっと胸を撫で下ろした。


しかし、まるっきり守りに入るのが正解だとは思わないんだよな。
攻撃は最大の防御っていうか、舐められたままでは矜恃が許さないというか。
何しろ最悪は影部屋に逃げ込むっていう奥の手はあるわけだ。まだ入ったことないからどんなところかわからないけども。

問題は、僕がちゃんと戦えるって、どうやったらオースティンに認めさせられるかっていうことだ。
だってな、もし認められたらさ、オースティンと一緒に討伐とかも行けるかもしれないんだ。

ゲームの戦いを憧れた戦いを、間近で見たい、というのももちろんある。
ここが現実で、死んだら終わりの世界だってことも、わかっている。
誰かが死ぬかもしれない場所に行くことを、軽々しく考えたりなんかしていない。

ただ、そんな場所にオースティンだけを送り出すのが嫌なんだ。
行かなくても済むかもしれないけど、なんらかの強制力で引っ張られて、オースティンが討伐に行くはめになるかもしれない。

オースティンは主人公なんだから。

その時、僕も一緒に行きたいんだ。
治癒ならしてあげられる。
魔力は多いし、前世知識のエゲツない武器も思いつく。
なんなら、その場で必要な魔術を組むことだってできるはずだ。

君だけを危険に晒すなんて、僕だって耐えられないんだよ、オースティン。




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