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25話 19歳のかけっこ
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「リース、すまんが皆に配れるほどのポーションを卸してくれ」
「もしかして買い取ってくれるんすか」
「そうだ」
長もこんな有事の時に人がいいっていうかさ。
「金なんか持ってたって死んだら何にもならないから、今回のは金はいらないんで、生きて帰ってきたらその分値上げさせてください」
そう言って、ポーションの入った袋を亜空間からドサっと出した。
どうしても生きて帰るために、いろいろ隠すのはやめにしたんだ。
長が驚くかと思っていたけど、そんなに驚かれなかった。
何を言われるかと構えていた俺は、正直拍子抜けしてしまった。
「この小袋に10本ずつ入ってる。袋に軽量化の魔術を仕込んだから、軽量化の魔法を使いながら魔力の無駄遣いもしなくていいし、1人1袋800人分用意してある」
軽量化の魔法ってさ、常に魔力を垂れ流し状態で、魔力量の少ないヤツには使い続けられない不便さがあるんだよな。
「んで、ポーションに効用が書いてあるから、それに合わせて使ってもらえればいいかなと思う」
傷用。
痛み止め用。
体力回復用。
それをそれぞれ3本ずつ。
そして極め付けは蘇生用だ。
蘇生用は1人1本しか持たしてやれねえけど。
「リース、ありがとう。これなら皆に無理も言えるな」
☆
「皆、準備はいいな。ここの袋を1つずつ取れ。リースから譲ってもらったポーションが入っておる。中身は傷止め、痛み止め、体力回復とそれから蘇生薬だ」
蘇生薬と聞いて、場が騒めいた。
「この蘇生薬、寿命には効かんから持って帰っても意味はないわ。近くで死にかけておる者がいたら迷いなくかけよ」
生きてる帰れるとは思っていない中での村長の言葉に、少し場が和んだ。
「では全員、肉体強化したのち全力疾走で現場まで走り抜く。魔力の少ない者は軽量化をかけ、走る者にしがみつけ」
ん?どういうことだ?
「到着後、体力回復薬を飲めば元に戻る。それなら皆、多少無理をしても、大丈夫だな?」
無理を言うって、ソレかよ!!
「リース、俺にしがみついて。俺、ちゃんと落とさないで走りきるから」
アホか!!
「お前より俺の方が魔力多いって知ってるだろうが」
「えー」
えー、てお前、そんな恥ずかしいことできるか!!
意地でも走り抜くわ!
「あー、そこの新婚、いちゃつくのは寝所だけにしてくれるか」
「いちゃついてねえよ!」
「あはははっ!いや、悪い。イフトが珍しく浮ついてるからさ」
ザイドがイフトの肩を叩くとよかったなと一声かけた。
「リース、紹介しとく。こいつ、俺の嫁」
ザイドのとこは嫁さんも参戦するのか。
「よろしく、リース。旦那から噂は聞いてるわよ。私は違う狩り組に所属してるから、旦那をよろしくね」
「あ、はい」
奥さんと一緒に戦わねえんだ。
「あいつと一緒だと、多分俺の気が散るからな。俺に守られて戦うようじゃ、シシダリスの女として名折れだって言われたよ」
ふーん、心配性め。
お前こそ、ラブラブじゃねえかよ。
それにしても、みんな、死を覚悟してるのか。
俺は周りを見渡した。
ここには、俺の家族も、儀式が終わったばっかりの子供もいた。
その全員が、死んでも戦い抜くって決めてるんだ。
俺が1番守りたいのはもちろんイフトだけど、ここにいるみんなにも、そういう相手がいるんだろう。
誰が欠けても、誰かが悲しむんだろうな。
《あー、やっとリース見つけたー》
「ユキ」
なんかユキ、ふた回りくらい大きくなってねえか?
《ユキとヨイヤミも一緒に行くんだから、置いていかないでよ》
「いや、だってこれは人間の問題だろう?」
違うのか?
《人間だけじゃないよー。アレが暴れたら人も獣も生き物はみんないなくなっちゃう。だからユキも、行く》
それを聞くと、敵は随分恐ろしいんだなっていう認識になるな。
「そっか、わかった。一緒に行こう」
ユキとヨイヤミが弱くないことは、俺が一番知っている。
「ユキが来てくれるなら、心強いなあ」
《でしょー?》
でも、くふふと笑うユキのことも、守りたいよ。
そして、
「よし、出立!!」
長の号令に、一斉に走り出した。
☆
いつもなら1日かけて行くソチラノ村まで1時間。
驚いて顔を上げる村人に、見向きもしないで走り去った。
いつもなら5日もかけて到着する王都を、5時間で走り抜けた。
シシダリスの勢いを殺さぬよう、門は開放されていた。
そして10時間後、到着した西の森。
「皆、ポーションを飲んだか?」
「おお!いつでもいけるぜ!」
そこに走り寄るのは、煌びやかだったであろう騎士団の衣装を着た兵士。
その衣装はあちらこちら綻んでいる。
「連絡いたします!現在、国中の魔道具を設置し、魔を持つ獣を一定区画に閉じ込めております。ただ、魔石の魔力が切れると結界は保てません」
そして、もう1人の兵士が言葉を繋ぐ。
「ここより距離を置いた外周を一般の志願兵達が囲んでおります。漏れ出た獣は彼らが受け持ってくれます。そして騎士団及びシシダリス兵は結界より中、魔の獣と直接対峙していただくこととなります。団員は既に中で戦っております」
「心得た」
「…………っ!感謝する!どうか、御武運を!!」
それだけ告げると、結界の中へと走りゆく2人。
「皆、聞いたな!これより結界内へ突入する。それぞれの狩り組にて、準備を整えよ!」
「おう!」
「もしかして買い取ってくれるんすか」
「そうだ」
長もこんな有事の時に人がいいっていうかさ。
「金なんか持ってたって死んだら何にもならないから、今回のは金はいらないんで、生きて帰ってきたらその分値上げさせてください」
そう言って、ポーションの入った袋を亜空間からドサっと出した。
どうしても生きて帰るために、いろいろ隠すのはやめにしたんだ。
長が驚くかと思っていたけど、そんなに驚かれなかった。
何を言われるかと構えていた俺は、正直拍子抜けしてしまった。
「この小袋に10本ずつ入ってる。袋に軽量化の魔術を仕込んだから、軽量化の魔法を使いながら魔力の無駄遣いもしなくていいし、1人1袋800人分用意してある」
軽量化の魔法ってさ、常に魔力を垂れ流し状態で、魔力量の少ないヤツには使い続けられない不便さがあるんだよな。
「んで、ポーションに効用が書いてあるから、それに合わせて使ってもらえればいいかなと思う」
傷用。
痛み止め用。
体力回復用。
それをそれぞれ3本ずつ。
そして極め付けは蘇生用だ。
蘇生用は1人1本しか持たしてやれねえけど。
「リース、ありがとう。これなら皆に無理も言えるな」
☆
「皆、準備はいいな。ここの袋を1つずつ取れ。リースから譲ってもらったポーションが入っておる。中身は傷止め、痛み止め、体力回復とそれから蘇生薬だ」
蘇生薬と聞いて、場が騒めいた。
「この蘇生薬、寿命には効かんから持って帰っても意味はないわ。近くで死にかけておる者がいたら迷いなくかけよ」
生きてる帰れるとは思っていない中での村長の言葉に、少し場が和んだ。
「では全員、肉体強化したのち全力疾走で現場まで走り抜く。魔力の少ない者は軽量化をかけ、走る者にしがみつけ」
ん?どういうことだ?
「到着後、体力回復薬を飲めば元に戻る。それなら皆、多少無理をしても、大丈夫だな?」
無理を言うって、ソレかよ!!
「リース、俺にしがみついて。俺、ちゃんと落とさないで走りきるから」
アホか!!
「お前より俺の方が魔力多いって知ってるだろうが」
「えー」
えー、てお前、そんな恥ずかしいことできるか!!
意地でも走り抜くわ!
「あー、そこの新婚、いちゃつくのは寝所だけにしてくれるか」
「いちゃついてねえよ!」
「あはははっ!いや、悪い。イフトが珍しく浮ついてるからさ」
ザイドがイフトの肩を叩くとよかったなと一声かけた。
「リース、紹介しとく。こいつ、俺の嫁」
ザイドのとこは嫁さんも参戦するのか。
「よろしく、リース。旦那から噂は聞いてるわよ。私は違う狩り組に所属してるから、旦那をよろしくね」
「あ、はい」
奥さんと一緒に戦わねえんだ。
「あいつと一緒だと、多分俺の気が散るからな。俺に守られて戦うようじゃ、シシダリスの女として名折れだって言われたよ」
ふーん、心配性め。
お前こそ、ラブラブじゃねえかよ。
それにしても、みんな、死を覚悟してるのか。
俺は周りを見渡した。
ここには、俺の家族も、儀式が終わったばっかりの子供もいた。
その全員が、死んでも戦い抜くって決めてるんだ。
俺が1番守りたいのはもちろんイフトだけど、ここにいるみんなにも、そういう相手がいるんだろう。
誰が欠けても、誰かが悲しむんだろうな。
《あー、やっとリース見つけたー》
「ユキ」
なんかユキ、ふた回りくらい大きくなってねえか?
《ユキとヨイヤミも一緒に行くんだから、置いていかないでよ》
「いや、だってこれは人間の問題だろう?」
違うのか?
《人間だけじゃないよー。アレが暴れたら人も獣も生き物はみんないなくなっちゃう。だからユキも、行く》
それを聞くと、敵は随分恐ろしいんだなっていう認識になるな。
「そっか、わかった。一緒に行こう」
ユキとヨイヤミが弱くないことは、俺が一番知っている。
「ユキが来てくれるなら、心強いなあ」
《でしょー?》
でも、くふふと笑うユキのことも、守りたいよ。
そして、
「よし、出立!!」
長の号令に、一斉に走り出した。
☆
いつもなら1日かけて行くソチラノ村まで1時間。
驚いて顔を上げる村人に、見向きもしないで走り去った。
いつもなら5日もかけて到着する王都を、5時間で走り抜けた。
シシダリスの勢いを殺さぬよう、門は開放されていた。
そして10時間後、到着した西の森。
「皆、ポーションを飲んだか?」
「おお!いつでもいけるぜ!」
そこに走り寄るのは、煌びやかだったであろう騎士団の衣装を着た兵士。
その衣装はあちらこちら綻んでいる。
「連絡いたします!現在、国中の魔道具を設置し、魔を持つ獣を一定区画に閉じ込めております。ただ、魔石の魔力が切れると結界は保てません」
そして、もう1人の兵士が言葉を繋ぐ。
「ここより距離を置いた外周を一般の志願兵達が囲んでおります。漏れ出た獣は彼らが受け持ってくれます。そして騎士団及びシシダリス兵は結界より中、魔の獣と直接対峙していただくこととなります。団員は既に中で戦っております」
「心得た」
「…………っ!感謝する!どうか、御武運を!!」
それだけ告げると、結界の中へと走りゆく2人。
「皆、聞いたな!これより結界内へ突入する。それぞれの狩り組にて、準備を整えよ!」
「おう!」
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