上 下
25 / 40

25話 19歳のかけっこ

しおりを挟む
「リース、すまんが皆に配れるほどのポーションを卸してくれ」
「もしかして買い取ってくれるんすか」
「そうだ」
長もこんな有事の時に人がいいっていうかさ。

「金なんか持ってたって死んだら何にもならないから、今回のは金はいらないんで、生きて帰ってきたらその分値上げさせてください」
そう言って、ポーションの入った袋を亜空間からドサっと出した。
どうしても生きて帰るために、いろいろ隠すのはやめにしたんだ。

長が驚くかと思っていたけど、そんなに驚かれなかった。
何を言われるかと構えていた俺は、正直拍子抜けしてしまった。


「この小袋に10本ずつ入ってる。袋に軽量化の魔術を仕込んだから、軽量化の魔法を使いながら魔力の無駄遣いもしなくていいし、1人1袋800人分用意してある」
軽量化の魔法ってさ、常に魔力を垂れ流し状態で、魔力量の少ないヤツには使い続けられない不便さがあるんだよな。

「んで、ポーションに効用が書いてあるから、それに合わせて使ってもらえればいいかなと思う」
傷用。
痛み止め用。
体力回復用。
それをそれぞれ3本ずつ。
そして極め付けは蘇生用だ。
蘇生用は1人1本しか持たしてやれねえけど。

「リース、ありがとう。これなら皆に無理も言えるな」





「皆、準備はいいな。ここの袋を1つずつ取れ。リースから譲ってもらったポーションが入っておる。中身は傷止め、痛み止め、体力回復とそれから蘇生薬だ」
蘇生薬と聞いて、場が騒めいた。

「この蘇生薬、寿命には効かんから持って帰っても意味はないわ。近くで死にかけておる者がいたら迷いなくかけよ」
生きてる帰れるとは思っていない中での村長の言葉に、少し場が和んだ。

「では全員、肉体強化したのち全力疾走で現場まで走り抜く。魔力の少ない者は軽量化をかけ、走る者にしがみつけ」
ん?どういうことだ?

「到着後、体力回復薬を飲めば元に戻る。それなら皆、多少をしても、大丈夫だな?」

無理を言うって、ソレかよ!!

「リース、俺にしがみついて。俺、ちゃんと落とさないで走りきるから」
アホか!!
「お前より俺の方が魔力多いって知ってるだろうが」
「えー」
えー、てお前、そんな恥ずかしいことできるか!!
意地でも走り抜くわ!

「あー、そこの新婚、いちゃつくのは寝所だけにしてくれるか」
「いちゃついてねえよ!」
「あはははっ!いや、わりい。イフトが珍しく浮ついてるからさ」
ザイドがイフトの肩を叩くとよかったなと一声かけた。

「リース、紹介しとく。こいつ、俺の嫁」
ザイドのとこは嫁さんも参戦するのか。
「よろしく、リース。旦那から噂は聞いてるわよ。私は違う狩り組に所属してるから、旦那をよろしくね」
「あ、はい」
奥さんと一緒に戦わねえんだ。
「あいつと一緒だと、多分俺の気が散るからな。俺に守られて戦うようじゃ、シシダリスの女として名折れだって言われたよ」
ふーん、心配性め。
お前こそ、ラブラブじゃねえかよ。


それにしても、みんな、死を覚悟してるのか。
俺は周りを見渡した。
ここには、俺の家族も、儀式が終わったばっかりの子供もいた。
その全員が、死んでも戦い抜くって決めてるんだ。

俺が1番守りたいのはもちろんイフトだけど、ここにいるみんなにも、そういう相手がいるんだろう。
誰が欠けても、誰かが悲しむんだろうな。

《あー、やっとリース見つけたー》
「ユキ」
なんかユキ、ふた回りくらい大きくなってねえか?

《ユキとヨイヤミも一緒に行くんだから、置いていかないでよ》
「いや、だってこれは人間の問題だろう?」
違うのか?
《人間だけじゃないよー。アレが暴れたら人も獣も生き物はみんないなくなっちゃう。だからユキも、行く》
それを聞くと、敵は随分恐ろしいんだなっていう認識になるな。
「そっか、わかった。一緒に行こう」
ユキとヨイヤミが弱くないことは、俺が一番知っている。

「ユキが来てくれるなら、心強いなあ」
《でしょー?》
でも、くふふと笑うユキのことも、守りたいよ。


そして、

「よし、出立!!」

長の号令に、一斉に走り出した。





いつもなら1日かけて行くソチラノ村まで1時間。
驚いて顔を上げる村人に、見向きもしないで走り去った。

いつもなら5日もかけて到着する王都を、5時間で走り抜けた。
シシダリスの勢いを殺さぬよう、門は開放されていた。

そして10時間後、到着した西の森。

「皆、ポーションを飲んだか?」
「おお!いつでもいけるぜ!」

そこに走り寄るのは、煌びやかだったであろう騎士団の衣装を着た兵士。
その衣装はあちらこちら綻んでいる。

「連絡いたします!現在、国中の魔道具を設置し、魔を持つ獣を一定区画に閉じ込めております。ただ、魔石の魔力が切れると結界は保てません」

そして、もう1人の兵士が言葉を繋ぐ。
「ここより距離を置いた外周を一般の志願兵達が囲んでおります。漏れ出た獣は彼らが受け持ってくれます。そして騎士団及びシシダリス兵は結界より中、魔の獣と直接対峙していただくこととなります。団員は既に中で戦っております」

「心得た」

「…………っ!感謝する!どうか、御武運を!!」
それだけ告げると、結界の中へと走りゆく2人。

「皆、聞いたな!これより結界内へ突入する。それぞれの狩り組にて、準備を整えよ!」

「おう!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生した俺が触手に襲われるなんてありえない

西楓
BL
異世界に転生した俺は前世の知識を活かし充実した人生を送っていた。ある時呼ばれた茶会で見目麗しい男性達と出会う。どこかで見かけたような…前世でプレイしたゲームの攻略対象? ※後半触手によるRシーンありますのでご注意ください。

【完結】守銭奴ポーション販売員ですが、イケメン騎士団長に溺愛されてます!?

古井重箱
BL
【あらすじ】 異世界に転生して、俺は守銭奴になった。病気の妹を助けるために、カネが必要だからだ。商都ゲルトシュタットで俺はポーション会社の販売員になった。そして黄金騎士団に営業をかけたところ、イケメン騎士団長に気に入られてしまい━━!? 「俺はノンケですから!」「みんな最初はそう言うらしいよ。大丈夫。怖くない、怖くない」「あんたのその、無駄にポジティブなところが苦手だーっ!」 今日もまた、全力疾走で逃げる俺と、それでも懲りない騎士団長の追いかけっこが繰り広げられる。 【補足】 イケメン×フツメン。スパダリ攻×毒舌受。同性間の婚姻は認められているけれども、男性妊娠はない世界です。アルファポリスとムーンライトノベルズに掲載しています。性描写がある回には*印をつけております。

【完結】真実の愛の物語~転生先の女神の願いはおれと弟の子作りでした?~

べあふら
BL
「二人でじっくりと子作りしようね?」 ある日おれは、突然に、弟テオドールからそう告げられた。ダメだ。俺は弟テオドールのお願いに弱いんだ。 テオドールと血の繋がりは無い。だけど、おれはそれ以上の絆で繋がっていると思っていたのに!違う意味で繋がるなんて、そんなの全く想定外なんだよ!! この世界は、乙女ゲーム「育め!Love and Plant~愛と豊穣の女神に愛されし乙女~」の世界じゃなかったのか?!攻略対象者同士でBLしてるし、ゲームの主人公“恵みの乙女”は腐女子だし! もっとも、その世界そのままならおれシリル・フォレスターは死んでるけどね!?今世こそやりたいことをやるって決めたのに!!おれは一体どうしたらいいんだ!?!?! これは、おれと弟の、おれと弟による、おれと弟のための真実の愛の物語。………たぶん。 溺愛執着義弟(本来攻略対象者)×死亡フラグ回避済みの流され不憫な兄(転生者)の固定CP。 ※義弟ですが主人公のこだわりで弟と表記されています。 ※ときに虐待や残虐描写が入ります。

【完結/R18】俺が不幸なのは陛下の溺愛が過ぎるせいです?

柚鷹けせら
BL
気付いた時には皆から嫌われて独りぼっちになっていた。 弟に突き飛ばされて死んだ、――と思った次の瞬間、俺は何故か陛下と呼ばれる男に抱き締められていた。 「ようやく戻って来たな」と満足そうな陛下。 いや、でも待って欲しい。……俺は誰だ?? 受けを溺愛するストーカー気質な攻めと、記憶が繋がっていない受けの、えっちが世界を救う短編です(全四回)。 ※特に内容は無いので頭を空っぽにして読んで頂ければ幸いです。 ※連載中作品のえちぃシーンを書く練習でした。その供養です。完結済み。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

朝起きたらベットで男に抱きしめられて裸で寝てたけど全く記憶がない俺の話。

蒼乃 奏
BL
朝、目が覚めたら誰かに抱きしめられてた。 優しく後ろから抱きしめられる感触も 二日酔いの頭の痛さも だるい身体も節々の痛みも 状況が全く把握出来なくて俺は掠れた声をあげる。 「………賢太?」 嗅ぎ慣れた幼なじみの匂いにその男が誰かわかってしまった。 「………ん?目が冷めちゃったか…?まだ5時じゃん。もう少し寝とけ」 気遣うようにかけられた言葉は甘くて優しかった。 「…もうちょっと寝ないと回復しないだろ?ごめんな、無理させた。やっぱりスウェット持ってくる?冷やすとまた腹壊すからな…湊」 優しくまた抱きしめられて、首元に顔を埋めて唇を寄せられて身体が反応してしまう。 夢かと思ったけどこれが現実らしい。 一体どうやってこんな風になった? ……もしかして俺達…昨日セックスした? 嘘だ…!嘘だろ……? 全く記憶にないんですけど!? 短編なので数回で終わります。

召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり
BL
気が付いたら異世界で、エルヴェという少年の身体に入っていたオレ。 神殿の神官見習いの身分はなかなかにハードだし、オレ付きの筈の護衛は素っ気ないけれど、チート能力で乗り切れるのか? ご都合主義、よくある話、軽めのゆるゆる設定です。なんちゃってファンタジー。他サイト様にも投稿しています。 男性だけの世界です。男性妊娠の表現があります。

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。

mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】  別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

処理中です...