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23話 19歳の決意
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「リース、話があるんだ」
最近考え込むようになっていたイフトの様子に、きちんと向き合おうと覚悟を決めた。
別れ話、とか?
俺が煮え切らねえから。
もし今言われたら、もう少し時間くれって泣きそうだな、俺。
イフトと離れたくは、ないんだ。
なら、答えは決まってるだろって思うのに、踏ん切りがつかない。
俺なんかじゃ、イフトに相応しくない、からさ。
「リースはさ、魔力過多症って知ってる?」
「魔力過多症?」
「うん、独立の儀でさ、魔力を大量に得た結果、記憶に障害が出る症状でさ、何年かに1人なるんだって」
「え?」
じゃあ、俺のコレ、俺だけのことじゃないの?
「儀式前の子供達が怯えるとダメだって、広くは知らされて無いんだけどさ、身体の大きい子供を持つ親とかには、儀式直前に知らされるって」
じゃあ、じゃあ、俺のコレって、そこまで変じゃない?
「リースのソレ、魔力過多症だと思う」
「そ、そうなんだ」
この症状にきちんとした病名?があったことに放心する俺とは対照的に、やたら緊張したイフトが深く息を吸い込んだ。
「でさ、魔力過多症の人ってさ、変わった魔術を世間に発表してさ、偉人って呼ばれるんだ」
「へ、へえ」
「その上、村から出ても魔力はなくならないみたいでさ」
マジか。
「みんな、街とか王都とかに出ちゃうんだって」
「そっか」
情報多すぎて、なんも考えたくないな。
嫌な気分ではないけど。
「でさ」
「ん?」
「リースもきっと行っちゃうと思うんだけどさ」
「なんで?」
「だって、リース、ここだと生きていきにくそうだから」
ポロポロと涙が流れるイフトに、そんなことあるわけねえだろって、なんか怒りみたいな感情が溢れてくる。
「だけど、その時は俺も連れて行って。何年かしたら魔力とか無くなって役に立たなくなるかもだけど、それでもリース、俺も一緒に連れて行って」
イフトお前、バッカだなあ。
「なんだよそれ。俺がここで生きていきにくいとか、勝手に決めてんじゃねえよ。俺だって……俺はお前がいるとこなら、どこでも楽しいよ」
「リース?」
こっち見んな。赤面してる自覚もあるわ。マジ恥じい。
「お前が俺のこと好きみたいに、俺だってお前のこと好きで、なにが悪いんだよ」
「リース!!」
「だから、もう少しだけ、待ってろ。ちゃんと、気持ちに整理つけるから」
今日の話聞いて、気持ちは落ち着いたから。
「うん、うん。待ってる、待ってるよ、リース」
☆
そんな風にして、何日か。
散々待たせたイフトに、今度はどうやって受け入れることを伝えようかと頭を悩ませている時にそれは起きた。
空気が、変わったのだ。
ねっとりと絡みつく、重い空気に。
みんなで雨が近いのかな、なんて話していて、だからそれを聞いた時に変に納得してしまったのだ。
「皆、聞いてくれ。西の方で、魔を持つ大きな獣が生まれた。まだ目覚めていないが、目覚めれば、この世界が終わる」
この村は、そういう有事の時のためにある。
そう、皆、知っている。
「目覚める前に叩きたい。既に国の騎士団達が他の小さな魔を持つ獣達を討伐し始めているそうだ」
世界が終わってもダメ。
この国が終わってもダメ。
どちらになっても、この村は終わる。
そう、知っている。
「討伐に向かう者は、全滅も覚悟してくれ。幼い子供を持つ母親ともう戦えぬ老人のみを残し、他は全員で出立する。準備期間は2日間だ」
誰も異をとなえなかった。
誰も恐怖を見せなかった。
今この時代に生まれたことを恨む者すらいない。
あまりにも違う価値観。
あまりにも違う世界観。
でも。
でもだからこそ、俺もここの住人なんだと、ようやく心から思えた。
だってそれをおかしいなんて全く思わないんだから。
前世の世界の住人でしかなければ、コレは怖いことで、俺だけ逃げてもいいって思ったはずだ。
なのに。
そんな気持ちには、全然ならないんだ。
集会所から出て帰る道中、イフトが立ち止まった。
「リース、リースは残る?」
だから、そんな不安な顔すんなって。
「こんな時にさあ、イフト」
「うん」
「こんな時になって思うよ」
本当、もっと早く気付けよ俺。
「俺、ここの住人だったんだなって。イフトと同じところで生きていたいなって。死ぬ時も、一緒がいいなって」
だからさ。
「籍入れてから、行こうぜ。俺、お前のもんになってから行きてえわ」
まだ往来に人もたくさんいるのに、大泣きしたイフトに抱き潰されて、それでもそれが嫌じゃねえとか、終わってるだろ。
☆
自分がこの世界の住人だと認めることができたら、不思議なほどストンと落ち着いた。
イフトとの関係も、あんなに周囲の目が気になっていたのに、普通のことだと受け入れられた。
普通に、イフトのことを好きでもおかしくないんだって。
でな、せっかく好きなヤツと一緒になったってのにだな。
むざむざ死ぬつもりで行くわけねえだろ。
イフトがでっかくなって狭くなったから買い替えようと思っていた寝具。
ひとまずそれを延期して、神具の方を買うことにするわ。
先ずは剣だろ。
それから矢が足りねえ。
打ち込んでから30秒は手元に戻ってこないから、20本ぐらい用意するか。
あと何日かかるかわからねえから、食い物もいるよな。
俺、思うんだ。
俺、このために生まれてきたんじゃねえのかなって。
このためにこの記憶が宿ったんじゃねえのかなって。
この記憶のせいで苦しんだけど、この記憶がなかったらこの戦いでイフトと簡単に死んでいたかもしれない。
この記憶があるから、勝とうと思えるんじゃないかって。
最強の装備と過去の偉人の戦い方と、ゲームとかの戦闘知識。
ここにないものいっぱい寄せ集めてさ、なにがなんでも勝ってやるって。
そんで、幸せになろうぜ、相棒。
最近考え込むようになっていたイフトの様子に、きちんと向き合おうと覚悟を決めた。
別れ話、とか?
俺が煮え切らねえから。
もし今言われたら、もう少し時間くれって泣きそうだな、俺。
イフトと離れたくは、ないんだ。
なら、答えは決まってるだろって思うのに、踏ん切りがつかない。
俺なんかじゃ、イフトに相応しくない、からさ。
「リースはさ、魔力過多症って知ってる?」
「魔力過多症?」
「うん、独立の儀でさ、魔力を大量に得た結果、記憶に障害が出る症状でさ、何年かに1人なるんだって」
「え?」
じゃあ、俺のコレ、俺だけのことじゃないの?
「儀式前の子供達が怯えるとダメだって、広くは知らされて無いんだけどさ、身体の大きい子供を持つ親とかには、儀式直前に知らされるって」
じゃあ、じゃあ、俺のコレって、そこまで変じゃない?
「リースのソレ、魔力過多症だと思う」
「そ、そうなんだ」
この症状にきちんとした病名?があったことに放心する俺とは対照的に、やたら緊張したイフトが深く息を吸い込んだ。
「でさ、魔力過多症の人ってさ、変わった魔術を世間に発表してさ、偉人って呼ばれるんだ」
「へ、へえ」
「その上、村から出ても魔力はなくならないみたいでさ」
マジか。
「みんな、街とか王都とかに出ちゃうんだって」
「そっか」
情報多すぎて、なんも考えたくないな。
嫌な気分ではないけど。
「でさ」
「ん?」
「リースもきっと行っちゃうと思うんだけどさ」
「なんで?」
「だって、リース、ここだと生きていきにくそうだから」
ポロポロと涙が流れるイフトに、そんなことあるわけねえだろって、なんか怒りみたいな感情が溢れてくる。
「だけど、その時は俺も連れて行って。何年かしたら魔力とか無くなって役に立たなくなるかもだけど、それでもリース、俺も一緒に連れて行って」
イフトお前、バッカだなあ。
「なんだよそれ。俺がここで生きていきにくいとか、勝手に決めてんじゃねえよ。俺だって……俺はお前がいるとこなら、どこでも楽しいよ」
「リース?」
こっち見んな。赤面してる自覚もあるわ。マジ恥じい。
「お前が俺のこと好きみたいに、俺だってお前のこと好きで、なにが悪いんだよ」
「リース!!」
「だから、もう少しだけ、待ってろ。ちゃんと、気持ちに整理つけるから」
今日の話聞いて、気持ちは落ち着いたから。
「うん、うん。待ってる、待ってるよ、リース」
☆
そんな風にして、何日か。
散々待たせたイフトに、今度はどうやって受け入れることを伝えようかと頭を悩ませている時にそれは起きた。
空気が、変わったのだ。
ねっとりと絡みつく、重い空気に。
みんなで雨が近いのかな、なんて話していて、だからそれを聞いた時に変に納得してしまったのだ。
「皆、聞いてくれ。西の方で、魔を持つ大きな獣が生まれた。まだ目覚めていないが、目覚めれば、この世界が終わる」
この村は、そういう有事の時のためにある。
そう、皆、知っている。
「目覚める前に叩きたい。既に国の騎士団達が他の小さな魔を持つ獣達を討伐し始めているそうだ」
世界が終わってもダメ。
この国が終わってもダメ。
どちらになっても、この村は終わる。
そう、知っている。
「討伐に向かう者は、全滅も覚悟してくれ。幼い子供を持つ母親ともう戦えぬ老人のみを残し、他は全員で出立する。準備期間は2日間だ」
誰も異をとなえなかった。
誰も恐怖を見せなかった。
今この時代に生まれたことを恨む者すらいない。
あまりにも違う価値観。
あまりにも違う世界観。
でも。
でもだからこそ、俺もここの住人なんだと、ようやく心から思えた。
だってそれをおかしいなんて全く思わないんだから。
前世の世界の住人でしかなければ、コレは怖いことで、俺だけ逃げてもいいって思ったはずだ。
なのに。
そんな気持ちには、全然ならないんだ。
集会所から出て帰る道中、イフトが立ち止まった。
「リース、リースは残る?」
だから、そんな不安な顔すんなって。
「こんな時にさあ、イフト」
「うん」
「こんな時になって思うよ」
本当、もっと早く気付けよ俺。
「俺、ここの住人だったんだなって。イフトと同じところで生きていたいなって。死ぬ時も、一緒がいいなって」
だからさ。
「籍入れてから、行こうぜ。俺、お前のもんになってから行きてえわ」
まだ往来に人もたくさんいるのに、大泣きしたイフトに抱き潰されて、それでもそれが嫌じゃねえとか、終わってるだろ。
☆
自分がこの世界の住人だと認めることができたら、不思議なほどストンと落ち着いた。
イフトとの関係も、あんなに周囲の目が気になっていたのに、普通のことだと受け入れられた。
普通に、イフトのことを好きでもおかしくないんだって。
でな、せっかく好きなヤツと一緒になったってのにだな。
むざむざ死ぬつもりで行くわけねえだろ。
イフトがでっかくなって狭くなったから買い替えようと思っていた寝具。
ひとまずそれを延期して、神具の方を買うことにするわ。
先ずは剣だろ。
それから矢が足りねえ。
打ち込んでから30秒は手元に戻ってこないから、20本ぐらい用意するか。
あと何日かかるかわからねえから、食い物もいるよな。
俺、思うんだ。
俺、このために生まれてきたんじゃねえのかなって。
このためにこの記憶が宿ったんじゃねえのかなって。
この記憶のせいで苦しんだけど、この記憶がなかったらこの戦いでイフトと簡単に死んでいたかもしれない。
この記憶があるから、勝とうと思えるんじゃないかって。
最強の装備と過去の偉人の戦い方と、ゲームとかの戦闘知識。
ここにないものいっぱい寄せ集めてさ、なにがなんでも勝ってやるって。
そんで、幸せになろうぜ、相棒。
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