彼はやっぱり気づかない!

水場奨

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54話 最終話

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「ああ、上手ですよ」
「う、はっ、んー」

俺の目の前で、睦み合う2人。
カランがサフィ様を上に乗せて、サフィ様が自分でいいところを探して動けるようになるまでになっていた。
この1年で、サフィ様は随分と積極的になった。

それが俺のためだと思えば、胸にくるものもある。

熱くなる体温も、荒くなる息遣いも、そんなサフィ様を見ると止めることなどできるわけがない。
そんな俺を知っていて、カランが見せつけるようにサフィ様を反転させた。
上体を起こしサフィ様の足を持ち上げると、入る様子が見えるように、ゆっくりと挿入した。

「リク」
「!はいっ」
「サリス様をお慰めしろ」

え、いいのか?
この1年、どんなに焦がれても夜の営みとしては触れることすら許されなかったのに。

「サリス様、リクが動けないようです。おねだり、できますね?」
そう言いながら、カランが強めに突き上げた。

「う、あぁっ。あ、リクっ、さ、触って」

サフィ様に、求められている。
サフィ様に、触れられる。

歓喜と、一瞬で真っ赤になった視界で、むしゃぶりついていた。

「リクっ。強、すぎっ!!」

「くっぅぅっ!はっ、サリス様が締めるから、もう出てしまいました。サリス様は、まだ、足りなさそうですね」
サフィ様が締め付けすぎたせいか、カランはそのまま中で果てていた。

ずるりとカランが抜かれると、白濁も垂れ落ちる。
サフィ様のソコが、ひくついて、俺は思わず喉を鳴らした。

「サリス様、気づいていますか?」
「な、に?」
「私としている間に、日付が変わりましたよ。お誕生日、おめでとうございます。さあ、どうします?……何を、誰を望みますか?」

…………カラン。

サフィ様の目も、驚きに満ちていた。

「カランが許してくれるなら、リクを、リクを伴侶に、望みたい」

「本当に、サリス様はおねだりが上手になりましたね」
柔らかく笑むカランがサフィ様に口付けた。

「リク、こちらへ」
言われた通り服を脱ぎ捨て寝台に上がれば、夢にまで見た、サフィ様の姿。

「カラン……感謝する」
俺を許して受け入れてくれることも、俺のせいで傷ついたサフィ様を守り続けてくれたことも。
今、この時を迎えることができるのは、カランのおかげだから。

「カラン、カランも一緒にきて」
カランが俺に場所を譲ろうとすると、サフィ様がカランの手を取った。

「カランとリクと、俺、2人が大好きだから。一緒がいい。2人で、して」

「サリス様のっっっおねだりっ!!」
「上手になり過ぎでしょう!!」



疲れ果てた2人はまだ寝ている。
俺は窓辺の椅子に腰掛けてあの日を振り返った。





急に視界が開けて前を見ると、あの日と同じ、兄上に切っ先が向けられていた。
兄上を守らなければ。
私は、そのために、遣わされたのだから。

走り、刺し、ふと見れば、同じく憎き元凶にとどめを刺したもう1人の兄がいた。

あまり話したこともない、たいして仲が良くもなかった兄。
どちらかといえば、血筋としては敵方だと思っていたくらいだ。

それなのに、何故だろう。
母の違う兄弟でも、志を共にすることがあると、直ぐに受け入れられた。
母の違う兄弟でも仲のいい、彼らを知っていたから。

彼らって、誰だ?

兄上達に倣い、事件を収拾すること1年。私の功績を、皆が称賛してくれた。
兄上の未来を輝かしいものとする。そのために1年、国を立て直すことに尽力した。
充分、それは充分な働きだったと、自分でもわかっている、のに、何かが足りない。

皆に称賛されても、嬉しくない。何かが違う。
本当に褒めて欲しいのは、あの人なのに。

……あの人って、誰だ?

「リキューリク、そんなに根をつめなくともいいんだよ。もっと我が儘になっていいんだ。お前は学院で、もっと楽しそうだっただろう?覚えてはいないかい?」

兄上は、心配そうにそれを口にした。

学院での記憶が、ない。
全てでは無いけれど、なぜあんなに競うように学んでいたのか、その理由が、なんであったのか。

「リキューリク、我が儘を言ってもいいんだ。お前には、どんな我が儘も受け止めてくれる、そんな人がいるだろう?」

俺の、我が儘を、全て受け止めてくれる人。

その言葉で、急に、鮮明になった。
目の前にかかる霧が晴れ、鮮やかにその人が蘇った。

どうして忘れていたのだろう。
なぜ、忘れていられたのだろう!

これほどまでに愛おしい、サフィ様のことを!!

「リキューリク。私はお前が幸せで有ればいい。お前は充分、私を助けてくれた。この国もだ。好きなように生きなさい。お前の行きたいところへ、行きなさい」

「兄上……!」

慌ててその場を辞して部屋へ走ったが、俺の大切なその人は既に学院にはいなかった。

もう、1年も経っていたのだ。
あれからもう、1年。

心当たりのある場所を順に辿って訪ねたけれど、そのどこにもサフィ様はいなかった。

時間が巻き戻って、あの時に戻れたら、もう一度サフィ様に拾ってもらえないだろうか。
こんなきちんとした服を着た俺ではなく、薄汚れた子供なら、あの人はもう一度拾ってくれないだろうか。

急に思いついた。

高価な服を脱ぎ捨て、ボロを纏い、泥にまみれた。

記憶を辿り、山へ行くと、そこにサフィ様はいた。
そして、喜びの気持ちのまま飛びついた。


けれど。


「リク。今頃なんの用だ」

そこに俺の場所は、もうなかった。
俺に気づいてくれたサフィ様を隠すように、カランは俺を拒絶した。
サフィ様がそれを止めることも、なかった。

「カラン?俺、サフィ様の」
側に戻りたい、と言う言葉は、言葉にならなかった。
カランが許さなかった。

2人は夫夫になったと。
だからここに、俺の帰る場所はないんだと。

それでも充分驚いたのに。

「サリス様は、お前がいなくなってから随分苦しんだ。だから、あれだけの恩を受けながらサリス様を捨てた薄情なお前を、私は受け入れることはできない」

「俺はサフィ様を捨てたりしていない!!」

捨てたりするわけがない!!

「馬鹿を言え!!なら、何故あれほどまでにサリス様が苦しんだんだ!!妻を傷つける敵から守るのは、夫の務めだ。私はお前を認めない」
「俺が、サフィ様の、敵?」

サフィ様を、傷つけた?
俺が?

俺が……サフィ様を?
そうなのか?
そうかも、しれない。

1年も、サフィ様を、忘れていたのは、俺だ。

案外、寂しがり屋なサフィ様を、俺は知っていたはずだ。

家から、家族から。
ポツリと呟くだけの本音を、俺は知っていたはずだ。

そんなサフィ様を、1年も放っておいて、ははははは。
寂しがり屋のあの人が、どれだけ辛かったかなんて。

ああ、そうか。
もう俺に、居場所なんかないのか。



「……とはいえ私の妻は美しいので、腕の立つ護衛の1人くらいは雇ってもいいかと思っております」

「え?」
今、都合の良い言葉が聞こえてきた、気がする。


「サリス様を守る者として、サリス様に仕えることができるなら」

「できます!!やります!!サフィ様の側に、置いてください」

どんな形でもいい。サフィ様の側に、いたい!

「サリス様、どうしますか?」
「カラン、いいの?」

「私は妻に弱いのでね。妻の願いはなんでも叶えてやりたいのです。サリス様の今年の誕生日は既に終わってしまいましたが、来年、サリス様が望むなら……彼を許し同じく伴侶の1人として迎えることも、やぶさかではありませんよ」

カラン……。
わかっている。
カランは俺を許したわけではなく、サリス様を思いやったのだと。

それでも、それでも!!

感謝する!
カラン、お前の寛大さに、感謝する。






ビアイラから移動すること3年。

「おーい。大丈夫か?」
この人は変わらない。

魔物を斬り捨てると、襲われていた子供に走り寄る。
「こんなところで何してたんだ?」
「お母ちゃんが病気だから、薬を採りにきたんだ」
「そっか、エライなあ。あ、そうだ。兄ちゃんいい薬持ってるから分けてやるぞ」
泣く子供を抱き上げて、サフィ様は歩き出した。

俺は、変わらないサフィ様を、立ち止まって眺めた。


「おい、リク行くぞ」
「はいっ」
もう俺は、この人に置いていかれることはない。
遅れても、こうして振り返り必ず手を差し伸べてくれるから。



これからも、沢山の賢人が、偉人が、この国を導くだろう。

それでも、道端でひっそりと死んでいくような小さな魂の隅々まで、手を差し伸べる人はきっと多くない。

そのことに、サフィ様は気づかないだろう。


城を出立する時、兄上が教えてくれた。
俺は入ったことがないが、城の奥には隠された部屋があるのだと。
そこは代を継承する者と、それに異を唱えた兄弟だけが呼ばれる場所で『欲にかられて国を動かせば天罰を受ける』という未来を見せられる部屋だとか。

『ベルフォンスも入っただろうな』と兄上は言っていた。ただ彼は、それをどうすれば天罰を受けずに国を掌握できるのか、と解釈したのではないかとも。

『私はそこで、リキューリク、お前とサリスフィーナを見たのだ。お前があれほどつらい5年を生きていたとは知らなかった。あのまま2人が出会っていなかったら、この星が崩れ落ちていた様を、私は見たよ。
それはとても……とても恐ろしい光景だった』


この国を救ってくれたのは、あの子なんだろうね、と。



まあでも、この国の、いや、この世界の危機を救ったのがサフィ様だということを、どれほど力説したところでサフィ様には響かない。
そんなことがあるわけないって、一笑されるのが簡単に想像できてしまうから。


だから、彼だけが気づかないのだ。

貴方が確かに、この世界の救世主だったということに。
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