彼はやっぱり気づかない!

水場奨

文字の大きさ
上 下
40 / 55

40話 研究の成果

しおりを挟む
「お、あったぞ」
「どれですか?」
魔道顕微鏡を覗き込んでいたのが魔術部3班所長ウィリアム、横から覗き込んだのはショッテル君だ。
1班2班が討伐などの実行組なのに対し3班は魔術の研究や魔道具の開発が主になる。
まあ、戦時には駆り出されるらしいが。

今のところ班に浄化魔法が使える人間は俺を含めて6人。
その中にショッテル君も入っている。
出来損ないだなんて言ってたけど、充分優秀だ。

その6人で、俺の浄化魔法を解析しているのだが
「もういいですか。シンドイです~」
いくらほんの少しだけ魔力を出せばいいと言っても、元々の魔力量がない俺には、出し続けるのはキツイ作業だ。

「そもそも洗濯玉って魔力を詰めたら出来上がりますよね」
取ってきた魔石に、俺の魔力を詰めたら簡単に洗濯玉になったけど。
「いやいや。洗濯玉というのは汚れを落とすための浄化魔法を刻み込んでいる物のことだからね。刻み込んで指定している汚れや臭い以外は取れないだろ?」
え、そうなの?

「でも俺、魔石に魔力を詰めて洗濯玉作ってましたけど」
リクに集めてもらった魔石に、俺が魔力込めて作ってたぞ?
「そりゃあ、サリス君は浄化の魔力持ちだからだよ」
「そうそう、他の人が何も刻まれていないその魔石に魔力を詰めたら、別の機能を持つ魔石になると思うよ」
はーなるほどー。

道理で買ってきた洗濯玉じゃないと、リクの魔力を詰めても洗濯玉にならなかったわけだ。
何が違うんだろうって思ってたぜ。
だから結局、リクは俺の魔力補充要員だったもんな。

「術式を刻まずにサリス君が作った洗濯玉は、癒し魔力も入ってるだろうからリラックス効果もあると思うんだよね。だからね」
あ、はい。
作れってことですね。お風呂で使ってるって言ったの俺ですもんね。
わかりましたよ。

しかし俺の作った洗濯玉が『浄化機能付バスク◯ン』になってたとは。
恐るべしクゥの魔力。


今、国が欲しているのは『瘴気』を浄化できる道具だ。
俺の浄化は瘴気まで浄化できて、彼らの浄化では瘴気までは浄化できない。
何かが違うのだが、それが何なのか。
きちんと術式に起こすことができれば、誰でも繰り返し使える『瘴気も浄化できる玉』が量産できるようになるはずなのだ。

俺は魔力の提供はできても、解析はできねえからな。
AとBが違うってのは見て分かっても、それを術式に起こす知識がない。
今更学習する気も、ない。

「こっからが大変なんだよなー」
「魔石は高価だもんな」
「無駄打ちできないから、納得できる術式ができるまで次の工程にはいけないなあ」

……つまり、俺がやれることないって感じか。

「模様は書き取れたから、もうサリス君のやれることはないなあ。ずっと魔力を操作していて疲れただろうし、外で散歩でもしてこい。サリス君、まだ王領の森は行ったことないんだろ?」

「あ、変わった薬草とか生えてますよ。サリス君、そういうの好きって言ってたよね」
あ、うん。食える薬草ヤツね。
……モズラでも引っこ抜いてくるか。


☆☆☆


そしてやってきました、王領の森。

んで今震えている俺だ。

なんでもない地面の上に、うつ伏せで転がる死体を見つけちまったんだけど……。
い、いや生きてるよな?
こんなところで俺1人しかいないのに、死体とコンニチハとか、マジこわいんですけど!

恐る恐る近づいて息をしているか顔の前に手をかざした瞬間、ぐるりと体勢がかわって男の下敷きになった。

びっ、びっ、びっ、びっくりしたー!!
よかった。生きてる人だった!

「これは驚いた。とうとう気配も殺せぬ暗殺犯を送ってくるようになったかと思えば、その服、とんだ天使な魔術師殿だったな」
は?暗殺者?
そういえば、着てるの騎士団の制服に似てるな。
狙われるくらい偉い人?もしくは目の上のタンコブ的な強い人?

「お兄さん、死んでるかと思ったんだぞ。なんでこんなところで寝てるんだよ」
本当に何もない、ただの森だぞ。
水辺とか、岩を背に森林浴とかならわかるけど。

「ああ、墓参りの帰りだったんだよ。俺は兄上に迷惑かけてるから、そのお詫びの報告をしに来たんだ。けどここまで来て、なんか急に帰りたくなくなってたっていうかな」
んで、こんなところで不貞寝ふてね

「ふーん。お兄ちゃんとケンカでもしてんの?」
「はは。いや、ケンカにもならないかな」
「なのに帰りたくないの?」
なんていうか、拗ねてんの?大人なのに?
「嫌われてるとわかってるのに、会うのは嫌だろう?」
そう言うお兄さんの顔がやけに切なそうで、なんか放っておけん。
お節介してやるか。どうせ暇だしな。

「兄弟仲わりいのか?」
「んー、悪くはないけど、母親が違うとなあ。やっぱりそうなるだろ?」
おうふ、兄ちゃんと母親違うのかー。でも。
「嫌われてるって思ってる理由、それだけ?ちゃんと兄ちゃんに聞いてみたか?」
「聞いたことはないけどね。わかるだろ、そういうのってさ」
なんだよ、決めつけんなよ。
聞いてもみないで、勝手にへこんでんじゃねえよ。
きっとお兄ちゃんは悲しいと思ってるぞ。

「違うかもしれないだろ。俺も腹違いの弟いるけどさ。最初はお互い嫌なヤツって思ってたんだ。でも今は仲いいぞ。向こうの母親には嫌われてるけどな、俺。弟はかわいいもんなの。いて言えば、俺よりデカいのが腹立つてのはあるけど」
「……そういうもんか?」
「そういうもんだって」
だから勇気を出して聞いてみろ。

「決めつけないで、頑張れって。ちゃんと兄ちゃんに好きって言えって」
「くふふっ、好きって言うのか?今更?」
「おう。んでお前が兄ちゃんに嫌いだって言われたら、俺が慰めてやるからな」
まあ、好きって正面から言われて嫌いって言えちゃうお兄ちゃんなら、いない方がいいし。
そしたら傷心の責任とって慰めてやらんと。焚きつけたの俺だしな。

「…………それもいいかもね」
なんか納得したっぽい?

「ところで、天使はここに何しにきたんだ?」
て、てて天使?
めっちゃ恥ずいことサラッと言うなよ。
俺、天使ってガラじゃねえからマジ恥ずいわ!

「俺、サリスフィーナっていうの!あんたは?」
「……俺のことを知らない?ふふ……道理で。あー、俺のことはダリアンって呼んでくれ」
ん?この言い方、もしかして有名な人だったか?

「俺は気分転換っていうかな。俺のやれるとこまでは終わったから、所長にここの散歩、勧められたんだ」
「へー、じゃあ仕事さぼり中か」
「まあ。っていうか、そろそろ重いんだけど」
重くはないけど、伸し掛かられたまま見上げて喋るの、ちと恥ずい。
なんかだんだん顔近くなってる気もするし。

「ああ……悪い。抱き心地がいいからつい。っしょっと、汚れたな」
そう言うと、ダリアンが腰に手を回して起こしてくれた。
仕草までイケメンかよ。
「大丈夫ー。ほらダリアンも『浄化』」
「ああ、もしかして……今噂の君かな?川を浄化したっていう」
あれ?俺のこと騎士まで広まってるの?
なんか秘密にしたそうだったのに。

「らしいな。全然自覚ないけど……ってそれなんだ?ビー玉?」
土を払って立ち上がった勢いで、コロンと何かが落ちてきた。
ダリアンの足元にガラス玉みたいのが落ちている。

「ああこれか。さっき町に出た時にもらったんだよ。子供の遊び道具だな。見たことないか?転玉といって名前の通り転がしてぶつけあって遊ぶんだよ」
へー。
ますますビー玉っぽい。
「平民でもわずかに魔力はあるだろ?少し魔力を込めて転がすと、動き方が変わって面白いんだ」

「え、マジで?魔力込めれるの?しかも玩具おもちゃっていうくらいなら、そんなに高くない?」
そしたら、試作するにはうってつけじゃね?
「ん、ああ。たくさんは無理だが、魔力は込められるぞ。付与程度だけどな。値段も1つ10カーネもしないと思うよ」
「マジかー!ダリアン、救世主だ!これで俺らの班の課題が進むよ!」
思わず抱きついて喜びを表しちまったぜ。

うーん。もうちとダリアンとお話ししたい。
ビー玉について教えてほしいし、ちょっとだけお礼もだな。
「なあ、時間ある?」
「大丈夫だよ」
「んじゃあ、ちょっと座ろうぜ。ゆっくりお話ししよ」
ちょうど小腹も空いたし。俺、暇だし。

カバンから懐かしの丸太机セットを取り出すと適当に並べる。
お茶菓子をセットして、よし!
「座ってよ。食べながら話そうぜ。……おーい?」
ダリアン?遠く見て、どうした?
何かいるのか?

「…………あ、ああ。これはなんだ?」
「モズラ団子だよ。新作きな粉風なんだ。うまいぞ」
「………ははははー。あー、確かに愛され加護持ちそうだよね、サリスフィーナって」
うん?





「ダリアン、ありがとうな。おかげで明日から仕事がはかどりそうだぜ」
売ってる場所も聞いたしな。帰る時買ってから帰る。
「役に立てたならよかった。俺の方も助かったよ。サリスフィーナには勇気を貰ったからね」
少し茶化して立ち上がったダリアンを見上げる。

「おう。じゃあ、またな。あんたも騎士なら、どっかでまた会えるんだろうし。兄ちゃんのこと、頑張れよ」
「ん、当たって砕けてくる。んで慰めてもらいにいくから。必ず行くから、約束だよ」
もー、なんで砕けることが前提なのさ。

「あはは、それ、素直に待ってるって言えねえなあ」
「ふふ、そうかい?……じゃあね」
「は?」

うおぉぉお!
頭にチュッてした!
恥ずぃぃぃい!
行動イケメン滅べ!まあ、ダリアンは見た目もイケメンだけどな!!


あー、転玉探しにでも行きますかね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

【完結】オメガの円が秘密にしていること

若目
BL
オメガの富永円(28歳)には、自分のルールがある。 「職場の人にオメガであることを知られないように振る舞うこと」「外に出るときはメガネとマスク、首の拘束具をつけること」「25年前に起きた「あの事件」の当事者であることは何としてでも隠し通すこと」 そんな円の前に、純朴なアルファの知成が現れた。 ある日、思いがけず彼と関係を持ってしまい、その際に「好きです、付き合ってください。」と告白され、心は揺らぐが…… 純朴なアルファ×偏屈なオメガの体格差BLです 18禁シーンには※つけてます

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

処理中です...