彼はやっぱり気づかない!

水場奨

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29話 事態は大急変!

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春になり12歳になった俺ですが、なぜだか王城に呼ばれてお偉いさんに囲まれております。
真ん前に髭を蓄えたおじさんが椅子に座り、その正面で広いソファに1人で座らされている俺です。


はあ、めっちゃ怖い。

椅子に座っているおじさんの周りにはやっぱり偉そうな人達が左右に3人ずつ立っていて、壁にも怖そうな人達が何人も立っている。

それなのに俺は、父さんや従者、雇っている護衛なんかもこの部屋には入れてもらえず、本当に心細いし、本当怖い。
大人だった時ですら、1人でお偉いさんに囲まれるなんていう状況になんかなったことない下っ端だからな、俺。
あ、面接があったか……じゃなくて。

そんな感じで放心状態でいたためか、最初の挨拶をボーッと聞き逃してしまってだな。
紹介された名前とか役職とかうろ覚えなんだけど、国王様だとかなんたら大臣様だとか、俺の住んでるところを治めているビアイラの領主様だとか言われたような……いやいや、そんな凄い人達がわざわざこんな子どもの、しかも平民なんかに会いに来るわけないよな?
ん、ないない。
はー、聞き間違えちまったぜ。

「そなたがルイベル川を浄化したと報告があったが、誠か?」
「アマデルウ川の浄化は可能か?国の半分がかなりの遠回りをせねば行き来できぬというのも不便でな」

そして場に飲まれている間に、先ほどから何度も同じようなことを聞かれているのだが、ルイベル川を浄化した記憶も無いし、俺の少ない魔力量じゃあんな大きな川を浄化するなんて無理に決まっている。
俺は自分を過大評価も過小評価もしないタイプだ。
現実的に考えて、普通に無理だ。それをどう伝えるか、なのだが。

「お、俺。あ、僕?私?」
考えを口にしようとして、作法がわからずに困ってしまった。
不敬だって怒られるのも怖い。
だって俺ただの平民の子どもだもんな。
お貴族様と面と向かう機会なんて普通ならないわけで……我が儘放題で学んでこなかったつけが、こんなところでやってくるとはな、とほほ。

「ははっ、そなたはまだ子供だし平民だ。敬語のことは気にせず普段通りに話すといい。そなたのおかげで川が浄化されたのであれば、むしろ褒美を用意せねばならぬしな」
目の前に座る1番偉そうな人がそう口にしたことで、少しだけ力を抜いた。
小さく頷くと逡巡する。

「俺、少しだけの浄化はできます、けど、あんな大きな川を浄化するなんてできません。だから、俺じゃないと思うんですけど」
何かの間違いでは?とようやく言葉にできた。

「だが、そなたが黒の魔に噛まれて川に流されるとすぐに、ルイベル川が浄化されたのを確認していた人物がいるのだ」
へー。俺が落ちた後に綺麗になったんだ、あの川。
んーでも、やっぱり無理だよな。あんなでかい川を浄化するなんて。
何か偶然が重なっただけで、やっぱり俺じゃないだろ。

「陛下、この者の血が流れたことでルイベル川が浄化されたのであれば、もう一度同じことをやってみるという方法もあるかと」
右側に立って控えていたおじさんが、何でもないことのように、とんでもないことを口にした。

「は?」
ギョッとしてその人の顔を見ると、前にいる偉そうな人の眼力がぐっと深まった。

「このような小さな子どもに、もう一度死ぬ目にあえなどと……よく言えたな、ビアイラよ」
ビアイラ……てことは、この人が領主様か。
で、目の前に座る人の方が身分は上っぽいな。

……っていうか、陛下って言った?陛下って、王様みたいなもんか?いやいや。

想定外の言葉と思わぬ俺への擁護で緊張したらいいのかホッとしたらいいのか、俺の情緒は非常に不安定だ。
帰りたい。
陛下ってなんだよ。なんでこんな子どもに会いに来ちゃうんだよ。
そんなに一大事なのかよ。

一大事なんだな。
俺はようやく事の重大さを理解した。

「し、しかしながら陛下。平民1人の犠牲で国の憂いが晴れるなら、この者も喜んでその身を捧げるに違いありません。何よりも一族の誉れとなりましょう。な、サリスとやら!」
はあああ?
貴族こわい。
貴族こわいぃぃ。

「ではビアイラよ。仮にこの者が川の浄化を可能にする何かがあったとしよう。殺めてしまえばその1度きりでその機会は失われるわけであるが、失敗した場合はどうするのだ。2度と浄化はできぬかもしれないのだぞ。簡単に人の命を奪う前に、検証するべきことがあろう!」

さすがと言うか何というか、施政者ともなれば罪もない子どもを簡単に殺したりはしないでいてくれるようだ。
いい王様なんだな。

だが周りの反応を見ていれば、何人かは領主と同じように思っているとわかる。
俺、生きて帰れないかもしれない。
王様頑張ってくれ!

「もういい。今回はサリスフィーナから話を聞くだけのつもりだったのだからな。ビアイラとフィーゴは現段階では有効な案もなさそうだ。脅かすばかりでは彼から話を聞く妨げになろう。今日はもうよい」
王がそう宣言すると、2人は挨拶をして部屋を出ていった。

ひとまずは助かったと思ってもいいのかな?
生きて帰れそうかも?
でも、もう1人。絶対納得していない人がいる。
なんで王様はあの人も一緒に追い出さなかったんだろう。
もしかして、ものすごく偉い人?
その人は、俺が死ぬことを望んでるのか?


《サフィよ》

ん?

《サフィよ。我だ》

シフォン?

《そうだ。サフィ、我をそこへ呼べ》

え?

《サフィの命を軽く扱う輩が側におるであろう。それが我にもクゥにも耐えられぬ。故に我を呼べ。サフィの知らぬことを、我が責任を持って伝えてやろうぞ》
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