29 / 55
29話 事態は大急変!
しおりを挟む
春になり12歳になった俺ですが、なぜだか王城に呼ばれてお偉いさんに囲まれております。
真ん前に髭を蓄えたおじさんが椅子に座り、その正面で広いソファに1人で座らされている俺です。
はあ、めっちゃ怖い。
椅子に座っているおじさんの周りにはやっぱり偉そうな人達が左右に3人ずつ立っていて、壁にも怖そうな人達が何人も立っている。
それなのに俺は、父さんや従者、雇っている護衛なんかもこの部屋には入れてもらえず、本当に心細いし、本当怖い。
大人だった時ですら、1人でお偉いさんに囲まれるなんていう状況になんかなったことない下っ端だからな、俺。
あ、面接があったか……じゃなくて。
そんな感じで放心状態でいたためか、最初の挨拶をボーッと聞き逃してしまってだな。
紹介された名前とか役職とかうろ覚えなんだけど、国王様だとかなんたら大臣様だとか、俺の住んでるところを治めているビアイラの領主様だとか言われたような……いやいや、そんな凄い人達がわざわざこんな子どもの、しかも平民なんかに会いに来るわけないよな?
ん、ないない。
はー、聞き間違えちまったぜ。
「そなたがルイベル川を浄化したと報告があったが、誠か?」
「アマデルウ川の浄化は可能か?国の半分がかなりの遠回りをせねば行き来できぬというのも不便でな」
そして場に飲まれている間に、先ほどから何度も同じようなことを聞かれているのだが、ルイベル川を浄化した記憶も無いし、俺の少ない魔力量じゃあんな大きな川を浄化するなんて無理に決まっている。
俺は自分を過大評価も過小評価もしないタイプだ。
現実的に考えて、普通に無理だ。それをどう伝えるか、なのだが。
「お、俺。あ、僕?私?」
考えを口にしようとして、作法がわからずに困ってしまった。
不敬だって怒られるのも怖い。
だって俺ただの平民の子どもだもんな。
お貴族様と面と向かう機会なんて普通ならないわけで……我が儘放題で学んでこなかったつけが、こんなところでやってくるとはな、とほほ。
「ははっ、そなたはまだ子供だし平民だ。敬語のことは気にせず普段通りに話すといい。そなたのおかげで川が浄化されたのであれば、むしろ褒美を用意せねばならぬしな」
目の前に座る1番偉そうな人がそう口にしたことで、少しだけ力を抜いた。
小さく頷くと逡巡する。
「俺、少しだけの浄化はできます、けど、あんな大きな川を浄化するなんてできません。だから、俺じゃないと思うんですけど」
何かの間違いでは?とようやく言葉にできた。
「だが、そなたが黒の魔に噛まれて川に流されるとすぐに、ルイベル川が浄化されたのを確認していた人物がいるのだ」
へー。俺が落ちた後に綺麗になったんだ、あの川。
んーでも、やっぱり無理だよな。あんなでかい川を浄化するなんて。
何か偶然が重なっただけで、やっぱり俺じゃないだろ。
「陛下、この者の血が流れたことでルイベル川が浄化されたのであれば、もう一度同じことをやってみるという方法もあるかと」
右側に立って控えていたおじさんが、何でもないことのように、とんでもないことを口にした。
「は?」
ギョッとしてその人の顔を見ると、前にいる偉そうな人の眼力がぐっと深まった。
「このような小さな子どもに、もう一度死ぬ目にあえなどと……よく言えたな、ビアイラよ」
ビアイラ……てことは、この人が領主様か。
で、目の前に座る人の方が身分は上っぽいな。
……っていうか、陛下って言った?陛下って、王様みたいなもんか?いやいや。
想定外の言葉と思わぬ俺への擁護で緊張したらいいのかホッとしたらいいのか、俺の情緒は非常に不安定だ。
帰りたい。
陛下ってなんだよ。なんでこんな子どもに会いに来ちゃうんだよ。
そんなに一大事なのかよ。
一大事なんだな。
俺はようやく事の重大さを理解した。
「し、しかしながら陛下。平民1人の犠牲で国の憂いが晴れるなら、この者も喜んでその身を捧げるに違いありません。何よりも一族の誉れとなりましょう。な、サリスとやら!」
はあああ?
貴族こわい。
貴族こわいぃぃ。
「ではビアイラよ。仮にこの者が川の浄化を可能にする何かがあったとしよう。殺めてしまえばその1度きりでその機会は失われるわけであるが、失敗した場合はどうするのだ。2度と浄化はできぬかもしれないのだぞ。簡単に人の命を奪う前に、検証するべきことがあろう!」
さすがと言うか何というか、施政者ともなれば罪もない子どもを簡単に殺したりはしないでいてくれるようだ。
いい王様なんだな。
だが周りの反応を見ていれば、何人かは領主と同じように思っているとわかる。
俺、生きて帰れないかもしれない。
王様頑張ってくれ!
「もういい。今回はサリスフィーナから話を聞くだけのつもりだったのだからな。ビアイラとフィーゴは現段階では有効な案もなさそうだ。脅かすばかりでは彼から話を聞く妨げになろう。今日はもうよい」
王がそう宣言すると、2人は挨拶をして部屋を出ていった。
ひとまずは助かったと思ってもいいのかな?
生きて帰れそうかも?
でも、もう1人。絶対納得していない人がいる。
なんで王様はあの人も一緒に追い出さなかったんだろう。
もしかして、ものすごく偉い人?
その人は、俺が死ぬことを望んでるのか?
《サフィよ》
ん?
《サフィよ。我だ》
シフォン?
《そうだ。サフィ、我をそこへ呼べ》
え?
《サフィの命を軽く扱う輩が側におるであろう。それが我にもクゥにも耐えられぬ。故に我を呼べ。サフィの知らぬことを、我が責任を持って伝えてやろうぞ》
真ん前に髭を蓄えたおじさんが椅子に座り、その正面で広いソファに1人で座らされている俺です。
はあ、めっちゃ怖い。
椅子に座っているおじさんの周りにはやっぱり偉そうな人達が左右に3人ずつ立っていて、壁にも怖そうな人達が何人も立っている。
それなのに俺は、父さんや従者、雇っている護衛なんかもこの部屋には入れてもらえず、本当に心細いし、本当怖い。
大人だった時ですら、1人でお偉いさんに囲まれるなんていう状況になんかなったことない下っ端だからな、俺。
あ、面接があったか……じゃなくて。
そんな感じで放心状態でいたためか、最初の挨拶をボーッと聞き逃してしまってだな。
紹介された名前とか役職とかうろ覚えなんだけど、国王様だとかなんたら大臣様だとか、俺の住んでるところを治めているビアイラの領主様だとか言われたような……いやいや、そんな凄い人達がわざわざこんな子どもの、しかも平民なんかに会いに来るわけないよな?
ん、ないない。
はー、聞き間違えちまったぜ。
「そなたがルイベル川を浄化したと報告があったが、誠か?」
「アマデルウ川の浄化は可能か?国の半分がかなりの遠回りをせねば行き来できぬというのも不便でな」
そして場に飲まれている間に、先ほどから何度も同じようなことを聞かれているのだが、ルイベル川を浄化した記憶も無いし、俺の少ない魔力量じゃあんな大きな川を浄化するなんて無理に決まっている。
俺は自分を過大評価も過小評価もしないタイプだ。
現実的に考えて、普通に無理だ。それをどう伝えるか、なのだが。
「お、俺。あ、僕?私?」
考えを口にしようとして、作法がわからずに困ってしまった。
不敬だって怒られるのも怖い。
だって俺ただの平民の子どもだもんな。
お貴族様と面と向かう機会なんて普通ならないわけで……我が儘放題で学んでこなかったつけが、こんなところでやってくるとはな、とほほ。
「ははっ、そなたはまだ子供だし平民だ。敬語のことは気にせず普段通りに話すといい。そなたのおかげで川が浄化されたのであれば、むしろ褒美を用意せねばならぬしな」
目の前に座る1番偉そうな人がそう口にしたことで、少しだけ力を抜いた。
小さく頷くと逡巡する。
「俺、少しだけの浄化はできます、けど、あんな大きな川を浄化するなんてできません。だから、俺じゃないと思うんですけど」
何かの間違いでは?とようやく言葉にできた。
「だが、そなたが黒の魔に噛まれて川に流されるとすぐに、ルイベル川が浄化されたのを確認していた人物がいるのだ」
へー。俺が落ちた後に綺麗になったんだ、あの川。
んーでも、やっぱり無理だよな。あんなでかい川を浄化するなんて。
何か偶然が重なっただけで、やっぱり俺じゃないだろ。
「陛下、この者の血が流れたことでルイベル川が浄化されたのであれば、もう一度同じことをやってみるという方法もあるかと」
右側に立って控えていたおじさんが、何でもないことのように、とんでもないことを口にした。
「は?」
ギョッとしてその人の顔を見ると、前にいる偉そうな人の眼力がぐっと深まった。
「このような小さな子どもに、もう一度死ぬ目にあえなどと……よく言えたな、ビアイラよ」
ビアイラ……てことは、この人が領主様か。
で、目の前に座る人の方が身分は上っぽいな。
……っていうか、陛下って言った?陛下って、王様みたいなもんか?いやいや。
想定外の言葉と思わぬ俺への擁護で緊張したらいいのかホッとしたらいいのか、俺の情緒は非常に不安定だ。
帰りたい。
陛下ってなんだよ。なんでこんな子どもに会いに来ちゃうんだよ。
そんなに一大事なのかよ。
一大事なんだな。
俺はようやく事の重大さを理解した。
「し、しかしながら陛下。平民1人の犠牲で国の憂いが晴れるなら、この者も喜んでその身を捧げるに違いありません。何よりも一族の誉れとなりましょう。な、サリスとやら!」
はあああ?
貴族こわい。
貴族こわいぃぃ。
「ではビアイラよ。仮にこの者が川の浄化を可能にする何かがあったとしよう。殺めてしまえばその1度きりでその機会は失われるわけであるが、失敗した場合はどうするのだ。2度と浄化はできぬかもしれないのだぞ。簡単に人の命を奪う前に、検証するべきことがあろう!」
さすがと言うか何というか、施政者ともなれば罪もない子どもを簡単に殺したりはしないでいてくれるようだ。
いい王様なんだな。
だが周りの反応を見ていれば、何人かは領主と同じように思っているとわかる。
俺、生きて帰れないかもしれない。
王様頑張ってくれ!
「もういい。今回はサリスフィーナから話を聞くだけのつもりだったのだからな。ビアイラとフィーゴは現段階では有効な案もなさそうだ。脅かすばかりでは彼から話を聞く妨げになろう。今日はもうよい」
王がそう宣言すると、2人は挨拶をして部屋を出ていった。
ひとまずは助かったと思ってもいいのかな?
生きて帰れそうかも?
でも、もう1人。絶対納得していない人がいる。
なんで王様はあの人も一緒に追い出さなかったんだろう。
もしかして、ものすごく偉い人?
その人は、俺が死ぬことを望んでるのか?
《サフィよ》
ん?
《サフィよ。我だ》
シフォン?
《そうだ。サフィ、我をそこへ呼べ》
え?
《サフィの命を軽く扱う輩が側におるであろう。それが我にもクゥにも耐えられぬ。故に我を呼べ。サフィの知らぬことを、我が責任を持って伝えてやろうぞ》
19
お気に入りに追加
1,741
あなたにおすすめの小説
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
【完結】オメガの円が秘密にしていること
若目
BL
オメガの富永円(28歳)には、自分のルールがある。
「職場の人にオメガであることを知られないように振る舞うこと」「外に出るときはメガネとマスク、首の拘束具をつけること」「25年前に起きた「あの事件」の当事者であることは何としてでも隠し通すこと」
そんな円の前に、純朴なアルファの知成が現れた。
ある日、思いがけず彼と関係を持ってしまい、その際に「好きです、付き合ってください。」と告白され、心は揺らぐが……
純朴なアルファ×偏屈なオメガの体格差BLです
18禁シーンには※つけてます
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる