彼はやっぱり気づかない!

水場奨

文字の大きさ
上 下
17 / 55

17話 お家が格安だったわけ

しおりを挟む
おかしいな~とは思ったんだよ。

だって家一軒がたったの金貨2枚。
日本円にして2万円だ。
安すぎるだろ?

ボロ屋だったけど、住む分には問題なさそうだったし、そこまで安くしないといけない理由は見当たらなかった。

何日かして、理由が判明しましたとも。

「サフィ様、今日は3人でした」

ロープでぐるぐる巻きにされた不法侵入者。

つまり、ここは浮浪者たちが雨や寒さを避けるために使用することがある建物だったってわけだ。
モーリーさんにしてみれば管理のしづらい物件だったってわけだろうな。
今頃は手を放せて安堵しているに違いない。

けれど不法侵入者にしてみれば、格安で短期に借りる人たちとは違い、家主が家を改造し始めたことに焦ったんだろう。
長期滞在か?え、新しい所有者?!これから雨風凌ぐのをどうしたらいいんだ!ってわけだ。
そんな彼らが、自分たちの陣地を取り戻そうと毎日襲いかかってくるのは、まあ、理解した。

「サフィ様、どうしますか?殺りますか?それとも殺りますか?」
いやそれ、選択肢1つだけだよね?!
「サフィ様と俺のしんこ……んゲフンゲフン、生活を邪魔するやからなんか殺るしかないですよね!」
リクの顔が必要以上にギラついているのはなんでだろうか。

しょっぱなリクが連れてきた3人は、次の日に気がついたら虫の息になっていて、怪力と浄化とほんの少しの生活魔法しか使えない俺は途方に暮れた。
このままだと死んでしまうな、と。
癒しの力があるのは弟のクリスなのだ。

日本とは違うとわかっていても、身内リクが殺人犯とか……ダメだよな。
出来得る限り、延命してみることにした。

ひとまず浄化で汚れを落として感染を防ぎ、お湯みたいな薄さのスープを与え続けた。栄養はたっぷりあったとは思うけど。
あと気休めに治れ~と、気功みたいな念は込めてみた。効果があったかは全くわからないが、直ぐに顔色が戻った彼らに気をよくして、気功は続けた。

結果、彼らの生命力はゴキブリ並だったってことがわかった。
3日で元の彼らより元気になり、罰として自ら畑を耕しはじめたのだ。
あの燃え残った灰を土とよく混ぜながら、庭をしっかりと耕してくれた。

そんな彼らの仲間もやっぱりゴキブリ並なんだろう。
1匹いたら30匹いると思え。3人いたから90人か。
…………多いな。

次々と湧く彼らに、とうとうリクの方が切れたようだ。殺って間引こうと思うくらいには。

俺はモズラをスリスリして、うっすいスープを作って配るだけだから、畑を耕す人が増えるのは別に構わないんだけどなー。

モズラなんて、あんなに美味しいのに誰も収穫しないんだぜ?
だから森で取り放題のただ食材だし、全く懐にダメージなしだからさ。あいつらに森で見つけたら根こそぎ持ってこいと言ってあるから、増える増える。
外に山のように積んであるのを、せっせとすっては茹でて鞄保存してあるから、人が増えても当分困らない。
まあ、メニューに代わり映えがないのだけは我慢してもらわなければならないが。


そうして耕される畑はとうとう森の中まで侵食して、最初の頃の自給自足の目標を超え、立派な大農家になりそうな感じになっている。
土地も勝手に広げているから、そのうち誰からか怒られるかも……とは思っているが、その時になったら、平和な交渉(主に腕力で)ができたらいいなという希望だ。


あ、そういえば森の主シフォンに許可取ってなかったぞ。
お~い、シフォン~!勝手に森を削ったから怒ってるよな、ごめん!

なんつって。今度会いに行こう。

《何、そのくらいの土地ならば構わぬよ》
へ?
シフォン?
《くくくっ。何を驚いておる。坊主サフィとは契約を結んでおるから、思念くらいは通じるに決まっておろう》
そうなのか?

じゃあ、少しだけ森を分けてくれ。ごめんな。

《いいってことよ》
へへ、ありがとう。


「あ、あの。サフィ様?」

頭の中で会話している間俺が止まっていたために、リクもその子分達も俺を伺うように見ていた。
うん、これでは怪しい人だ。これからは気をつけよう。

「あ~、殺すのはダメだけど、処分は任せた。鞄に入っているお金はリクの物だし、好きに使えばいいからな」
裏町仲間だったっていうなら、腹を空かせてるのをかわいそうだと思うんだろうし。

リクが助けてあげたかったら助けてあげればいいのだ、とか思ってた俺が悪かったのか?

リクが裏町を掌握して、統率された軍団みたいなのが出来上がるとは思っていなかった。
パッと見、王子様なリクが指示を出して彼らを動かす様は、マフィ◯のドンというかヤク◯の頭というか…………顔が綺麗な方が怖さって増すよな。不思議だ。


けどさ。

「兄貴、今日の収穫終わりました」
「大兄、あとどれほどシマを増やしますか」
「兄さん、こいつ新しい舎弟です。お見知り置きを」

って、俺はあんたらに関係無いし、いちいち報告に来なくていいんだよ!

お前らに関係あるのはリクだけだからな。
俺はリクがお前らになんの仕事を与えているのかなんてのも知らないんだよ。
悪役兄ちゃんは、力をつけたらダメなんだぞ。
悪の軍団とか、いらねーぞ!

頼むから、俺を巻き込むなよ!
ほんと、マジで!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

【完結】オメガの円が秘密にしていること

若目
BL
オメガの富永円(28歳)には、自分のルールがある。 「職場の人にオメガであることを知られないように振る舞うこと」「外に出るときはメガネとマスク、首の拘束具をつけること」「25年前に起きた「あの事件」の当事者であることは何としてでも隠し通すこと」 そんな円の前に、純朴なアルファの知成が現れた。 ある日、思いがけず彼と関係を持ってしまい、その際に「好きです、付き合ってください。」と告白され、心は揺らぐが…… 純朴なアルファ×偏屈なオメガの体格差BLです 18禁シーンには※つけてます

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...