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外界
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「よく似ている気がするな、お前たち二人は。姫様に」
「うっそお~。そんな取ってつけたみたいな」
可憐がそう叫び、私は何も言わなかった。
可憐が身じろぎし、古い椅子が軋んで音を出す。
男はしかし、私達の反応など目に入っていないかのように、思案した顔で目の前の机に眼差しを止め続けている。
可憐と私は顔を見合わせた。
イヴァンが、改まった口調で、再びこちらに向き直り、私達に言った。
「……お前たち、どちらでもいい。私と一緒に来られないか。
姫様の城だ。相応しいかどうか、それは城についてからでも充分確かめられる。どうだ。私には時間がないんだ」
「はい、おしま~い」
可憐が手を打合せ、そう言い、椅子から立ち上がった。聞き間違えでなければ、可憐は立つときに、よっこいしょ、と言っていた。
可憐を見る。
その横顔は、真剣な美しさに変わり、触れれば切れてしまいそうな凛とした鋭さを帯びていた。
可憐は毅然とした口調で言った。
「私達、そういう話をしに来た訳じゃないの。そっちが焦ってるのは分かるよ。でも、あなたと私達の持っている事情は別。分かってくれるよね」
イヴァンは何言わず、ただ可憐の事を見つめ続けていた。
私もまた、その美しい横顔に見惚れていた。
可憐が振り返り、歩き出しながら私に言った。狡い言い方だった。
「カレン、行こ」
私は可憐に表面上平静な顔で応え、後に続いてシャッターを出た。
その後、可憐の姿をその日を境に見る事はなくなる事を、まだ当時の私は知る由もないのだった。
「うっそお~。そんな取ってつけたみたいな」
可憐がそう叫び、私は何も言わなかった。
可憐が身じろぎし、古い椅子が軋んで音を出す。
男はしかし、私達の反応など目に入っていないかのように、思案した顔で目の前の机に眼差しを止め続けている。
可憐と私は顔を見合わせた。
イヴァンが、改まった口調で、再びこちらに向き直り、私達に言った。
「……お前たち、どちらでもいい。私と一緒に来られないか。
姫様の城だ。相応しいかどうか、それは城についてからでも充分確かめられる。どうだ。私には時間がないんだ」
「はい、おしま~い」
可憐が手を打合せ、そう言い、椅子から立ち上がった。聞き間違えでなければ、可憐は立つときに、よっこいしょ、と言っていた。
可憐を見る。
その横顔は、真剣な美しさに変わり、触れれば切れてしまいそうな凛とした鋭さを帯びていた。
可憐は毅然とした口調で言った。
「私達、そういう話をしに来た訳じゃないの。そっちが焦ってるのは分かるよ。でも、あなたと私達の持っている事情は別。分かってくれるよね」
イヴァンは何言わず、ただ可憐の事を見つめ続けていた。
私もまた、その美しい横顔に見惚れていた。
可憐が振り返り、歩き出しながら私に言った。狡い言い方だった。
「カレン、行こ」
私は可憐に表面上平静な顔で応え、後に続いてシャッターを出た。
その後、可憐の姿をその日を境に見る事はなくなる事を、まだ当時の私は知る由もないのだった。
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