夏風

幽々

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外界

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「姫様は戦争の事をどう思ってるの?」

 私の問いは男の心の中で静かに反響したようだった。

 男は束の間、顔を曇らせる。

「姫様は、我々の瑣末な事情などには関わらない方が良いのだ。これまでもそうしてきたし、これからもそうだろう。その方が良いのだ」

「でも、戦争って事は、人が大勢死ぬのよね?」

 だからどうした、という目で私を見るので、私は腕組みをして上を向いて、納得のいかない顔をした。

「なんかさあ、その国の王女なんだったら、戦争をしないようにする為に頑張るとか、なんかするべき事があるんじゃないのかな。余所者の私が言っても何の説得力もないとは思うけど、一般論として」

 男は苦い顔をして、私の顔を下から睨んだ。

 そして言う。

「……お前は、戦争がどういう物なのか、分かって言っているのか?」

「ラジオで聴いた」

 腕を下ろして私が答え、男は何も言わなかった。二人の間に小さな亀裂のようなものが見える。私とこの男とでは、恐らく何か話の次元のようなものが違っていて、男は明らかに苛立って見えた。

 男……、私はまだ、目の前で暗い瞳を向けているこの男の名前も知らないのだ。

 私は言った。

「ねえ、あなたの名前は? すっかり聞きそびれてた。呼び名がないとこれから不便だわ」

 男はまだ尚も私の顔を睨んでいたが、やがて重そうに口を開き、こう答えた。

「……イヴァン。私の名前は、イヴァンだ。……今日はもうこれで終わりにしないか。少し眠りたいのだ」

「……へいへい。まあ、詳しい事は明日。あ、でも、勝手に出て行っちゃ駄目だよ。今出てっても、絶対直ぐに捕まるだけだから。とりあえず今は、私たちの言う事を聞いてた方がいいと思うよ」

「……そのようだな」

 そう答えながら男が黙って剣の鞘を握りしめるのを見、私は一つ小さく鼻から息を吐き、「じゃ」と言ってそこから離れた。

 食器とラップを持ち、燃え上がったように照る狭い空間を後にする。

 歩き去ろうとすると、背中に声が当たった。男の声だった。

「いい飛行機だな」

 私は振り返らず、手だけを振って答えた。

「そりゃ、どーも」

 シャッターを下ろした。急速に闇に包まれ、心が不安にざわつき始める。

「寒っ」

 冷気など無いはずのこの時間に、私は言いようのない寒気を感じ、腕をさすった。

 腕を見てみると、鳥肌が浮かんでいる。

 ……明日には色々な事がはっきりするのだろう。ただの夏の日々が、一瞬にして景色を変えてしまった。

 だが何故だろうか。それなのに、それ程動揺していない。まるでこうなる事を前もって知っていたみたいだ。

 私の飛行機のこと、男は何て言っていた?

 大戦時に使われていた、最も古い型。

 戦闘機のプロトタイプ?

 私の叔父はそんなものに乗って旅をしていたのか?

 いや、それとも……。

 私の叔父は、この世界の中でただ一人、雷の走る壁を抜け、外の世界に出て行った人間だと言われていた。






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