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第五章 ドルトムットの闇

5-18 夜襲②

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 ウォルターは、『気配遮断』の能力を使ってソファーの陰に潜んでいた。
 ドルトムット卿は既にベッドの中で寝息を立てている。
 ドアの向こうの廊下には護衛の男達が三人で見張っており、いつでも部屋に進入可能である。

 他にも護衛は邸宅の周囲を見回っているはずである。
 怪しい者が侵入すれば、すぐさま対応できる――はずだった。

 それは突然現れた。

 火炎球ファイヤーボールである。

 その火炎球ファイヤーボールはみるみるうちに大きくなったかと思うと、自重で部屋の床へと着弾した。

 ズガアアアアアアアアアアアアン!

 炎が弾け、部屋の中に火炎を巻き散らす。
 
 ウォルターはソファーの影に隠れて炎をやり過ごす。
 ベッドにはドルトムット卿が横になっているが、今の音で目覚めたはずだ。
 ウォルターは叫ぶ。

「ドルトムット卿ッ! ベッドを盾にしなされッ!」

 ドガアアアアアアアアアアン!
 
 二発目の火炎球ファイヤーボールが炸裂する。
 その時、部屋の扉が開いて護衛三人が中に入ろうとする。
 しかし、炎が迫ってきて再び扉を閉める護衛達。

 何やってんだ!とウォルターは心の中で突っ込むが、自分も炎のせいでその場を動けないので何もできないでいた。
 炎は部屋の中を舐めつくし、少しずつ燃え広がり始める。

 三発目が室内に出現する。

 きりがないと思ったウォルターは、つぶてを放ち、まだ拳大の火炎球ファイヤーボールを炸裂させると、窓に近づき、勢いよく開ける。
 そこには、空中浮遊レビテーションで浮かんでいる二人の男がいた。
 一人が浮遊役で、もう一人が火炎球ファイヤーボールを放ったヤツだろう。
 そう判断したウォルターは、忍ばせている投げナイフを、浮遊役に向かって放つ。あまり機動性の良い魔法ではない、空中浮遊レビテーションの魔法なので、避けきれずナイフは男の眉間に突き刺さる。
 魔法の制御を失った二人は真っ逆さまに落ちていき、地面に叩きつけられる。
 ちなみに、この部屋は三階である。

 発想は良かったが、もっと考えるべき事があったのでは?とウォルターは思った。外の敵は排除したので、ベッドに駆け寄りドルトムット卿の安否を確認する。
 部屋の中の音が止んだのを聞いた護衛の三人も部屋へと入ってきた。
 部屋はあちこちが焼け焦げていたが、ベッドの陰にまで炎は届かなかったらしく、ドルトムット卿は無事であった。

 まだ、家具などが燃えていたので、とりあえず部屋から出ると、全員の安否を確認する。

「では、私は主の様子を見てきますので、ゆめゆめ油断なされぬよう」

 そう言って、立ち去ろうとしたウォルターは前方から高速で飛んでくるレヴィンの姿を発見した。

 「レヴィン様ッ! ご無事でしたか!」

 「うん。問題ない。でも一人に逃げられてしまった……」

 爆発音を耳にした、ドルトムット夫人や使用人がじょじょに集まってくる。

 ドルトムット卿は使用人達に部屋を消化するよう指示を出していたが、レヴィンがそれを押しとどめる。白魔法の創造湧水クリエイト・ウォーターで消すには火が大き過ぎたので、てっとり早く凍結球弾フリーズショットで凍らせていく事にする。それを見たドルトムット卿は、屋敷内の様子を確認させるべく、集まってきた使用人に指示を出す。散開する使用人達。更に、護衛三人に、外回りをしている二人と合流して落下した襲撃犯を捕まえるように言っている。皆が、レヴィンが部屋を凍らせていく様子を眺めていると、マイセンが慌てた様子でやってきて心配気に話しかけてくる。

「父上ッ! ご無事でしたか……む……ナミディア卿も……」

 レヴィンは、部屋の消化を終えると、落ち着いた様子のドルトムット卿に向き直る。
 今ここには、ドルトムット夫妻、マイセン、ウォルターがいる。

「私の方には、五人の襲撃者が侵入してきました。その内、二人は魔族でした」

「「「なッ!?」」」

 それぞれ驚きの声を上げている。
 流石に魔族が絡んでいるとは思わなかったようだ。それはレヴィンも同じなのだが。

「一人は仕留めましたが、一人は逃がしてしまいました」

「しかし、何故、魔族なんぞが出てくるのだ……」

 ドルトムット卿が不安げな声を上げる。
 場が一瞬静まりかえる。その答えの出ない問いに一同が考え込んでいると、使用人がルビーを連れてきたようだ。

「おお、ルビー! 無事だったか。良かった……」

 ドルトムット卿が安堵の声をあげ、夫人はルビーを強く抱きしめる。
 そこへ、また一人、使用人がやってきた。

「た、大変ですッ! フレンダ様の部屋がもぬけのからで、机の上にこのような書置きがッ!」

 そう言って差し出された紙には、次のような文字が躍っていた。

『フレンダは預かった。返して欲しくばドルトムット卿一人で、今すぐにこの場所まで来い』
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