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第四章 ヴィエナの狂信者
4-26 アジト襲撃②
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カゲルとシェリルは、夜になるまで、村の近くの林の中に潜伏していた。
暗くなってからが本番だ。
もうすぐ辺りは、完全な闇に包まれる。
「でもレヴィンさん、一人で大丈夫ですかね?」
「彼は、シェリル殿が思っているよりも強いぞ? 修羅場も結構くぐっている」
「そうなんですか? まだ子供じゃないッスか」
「拙者は、ギルドマスターの依頼で彼をずっと監視していたからな。それに十三歳はもう大人だろう」
「まぁ法律では大人のはずなんですけど、これ位の年齢だと、子供扱いされますよね?」
「まぁ、もうしばらくして体つきも変わってくれば大人だと思われるだろうさ」
「まぁこれから成長期でしょうしね」
「そうだな」
「……」
「……」
「修羅場くぐってるって何をしたんですか? 彼」
「ん? ああ、一人で豚人族の集落に殴り込んだり、インペリア王国のレムレースでSクラスのアンデッドと戦ったたりしているな。南斗旅団の件は、大々的に報道されたから知っているだろ?」
「へえ……、それは命知らずですね。私、あまり新聞読まないんで解らないんですよ」
「冒険者は情報収集が基本だろ? 読んだ方が良いのでは?」
「そうですね。検討します」
「うむ」
「……」
「……」
「カゲユさんって最初から忍者だったんですか?」
「ん? ああそうだ」
「最初から上級職っていいッスよね。私も職業変更してみたいです」
「拙者はここから東方の生まれだからな。生まれつきの忍者仲間は多かったぞ? それに職業変更したいなら他の国の国民になったらどうかな?」
「そうですね。でもここら辺の国って皆、平民の職業変更って違法ですよね?」
「ここら辺はそうだな」
「どこかに住みやすい国ってないですかね?」
「平民でも職業変更できて発展している国と言えばヴァール帝國とかいいんじゃないか?」
「ヴァール帝國ですか……。敵国ですね」
「まぁ、この国からしたらそうだな」
「……」
「……」
「えっと……」
「無理にしゃべらなくてもいいと思うぞ?」
「……」
「……」
「……」
「……」
こうして夜は更けていく。
そして、辺りもすっかり闇に包まれた頃、信徒服と覆面目出し帽、紅の腕章を身につける。左手首に青色の布を巻いておくのも忘れない。
「行くぞ」
カゲユがそう言うと、シェリルと二人して林の中を通って村の方へ歩いていく。
村へ入るが灯りの一つも見えない。丘の方を見上げると、山道の中腹辺りに篝火が見えるだけだ。クローディアが捕えられているのは、中腹にある洞窟から少し上に行ったところにある。念のため、山道を通らず、林や藪になっている場所を通って洞窟に向かう。『気配察知』の上級能力である、『生物探知』を使用しながら道なき道を歩いていく。日々、追跡や尾行任務をこなす、忍者カゲユには大した道のりではないが、ただの盗賊である、シェリルにはこの道のりは厳しい。
「ハァハァ……、待ってくださいッス……」
「ああ、すまんな。ペースを落とすよ。時間はあるしな」
目的の洞窟に到着した。
二人は、洞窟付近の茂みの中に身を隠している。
カゲユは『隠密』を、シェリルは『隠れる』の能力を使っているため、レベルの低い探知の魔法程度では発見できない。シェリルの『隠れる』だって、低級の能力なのだが、探知には引っかかる事はない。よく使用されるものだが、意外と穴の多い魔法である。
洞窟の前にいる見張りは二人。
篝火が覆面姿の二人を照らしている。
以前侵入した時は、眠り玉を使って見張りを沈黙させた。
今回もそれでいいだろうと、懐から黒い玉を取り出すカゲユ。
眠り玉は、カゲユの出身地である、ザルガングの忍者に伝わる催眠丸だ。
火をつけると、もうもうと煙が立ち込めはじめ、吸い込んだ者を眠りに誘うものである。
手から火を発現させ、眠り玉に火をつけると、見張りの方へと投げつける。
火のつけ方は、レヴィンの魔法陣なしで火を起こす方法と同様のものだ。実は、ザルガング出身者なら多くの者が使える技術である。ただ、異世界人のレヴィンが暗黒子回路を体内に宿すのに比べ、カゲユが持つのは霊子回路であるため、威力は断然レヴィンの方が上である。
暗黒子回路と霊子回路では、得手不得手がある。火水風土や闇の属性に大きく寄与する暗黒子回路にくらべ、霊子回路は、回復や光の属性に向いている。普通、生けとし生けるもののうち魔物以外は、霊子回路を持つのが普通なのであるが、異世界人はほぼ暗黒子回路を持つ。神が何を考えてこのようにしたのかは不明である。
予定通り、煙を吸い込んだ見張りの二人はバタバタと倒れると、カゲユとシェリルは姿を現した。倒れた二人を持ってきていた縄で縛り、猿ぐつわをはめると茂みの中で放り込んでおく。
『隠密』能力で、洞窟内部に動く者がいない事の調べはついている。
すぐに、洞窟内へ侵入した二人は、記憶をたどってクローディアが閉じ込められている一室へと向かった。
当然、その部屋の前にも見張りが一人立っている。
カゲユは迷う事なく、見張りに近づいていくと声をかけた。
「ご苦労様です。見張り交代です。礼拝堂の方へ行くようにとの事です」
「ん? 礼拝堂に? 解った。後は頼んだ」
カゲユに背を向けた瞬間、彼の手刀が首筋に決まる。
何の声も発せずに倒れる見張り。
カゲユは、扉をノックすると、中に向かって声をかけた。
「クローディア、入るぞ?」
中から返事が聞こえてくる。それを聞いてカゲユと、いつの間にか傍に来ていたシェリルが中に入る。今しがた倒した見張りも中へ引きずり込んだ。
「クローディア、無事か?」
ベッドに腰かけて本を読んでいた彼女は、本を閉じ、手を挙げてそれに応える。
その本の背表紙にはこう書かれていた。
『闘争の果て 著 ゴルナーク』
「大丈夫だよ。お疲れさん」
「脱出するぞ。これを着ろ。後、お前の武器な」
いそいそと着替えを始めるクローディア。
と言っても信徒服を上から着るだけなのだが。
「よし、どこからどう見ても信者だ。背は低いが」
「背が何だって?」
余計なひと言にクローディアが噛付くがカゲユは、相手にしない。
見張りの手足を縛り、猿ぐつわをしてベッドに投げ込んでおく。
「よし、行くぞ。次は礼拝堂の洞窟だ」
カゲユ、シェリル、クローディアの三人は、閉じ込められていた、部屋の扉を次々とくぐる。その時、いきなり声をかけられた。
「お前達! 三人で何をしている?」
カゲユが目をやると、そこには紅色の信徒服を身に纏った者が一人。
そして傍には黄色の信徒服の者が二人いた。
カゲユが一般信徒のふりをして答える。
「いえ、これから礼拝堂の方へ行こうかと……」
「その部屋はキッドマンの娘がいた部屋だな。全員、覆面を取れ」
三人の間に緊張が走る。逡巡する事しばし。
「おい。早く覆面を取れ!」
紅の信徒服が焦れたように叫ぶ。
そこへ、応えたのはクローディアであった。
ただし魔法で。
「火炎球」
魔法をぶっ放すと、とっさに今出てきた部屋へと非難する三人。慌てて扉を閉める。
ドゴオオオオォォ!
信徒達も慌ててあちこちに散らばる。
しかし、狭い洞窟の通路の中、思うように逃げられない。
炎が地を舐めつくす。
「おい! いきなり魔法をぶっ放すなッ!」
カゲユが非難の声を上げるが、クローディアは取り合わない。
「どうせ敵なんだからいーじゃんか。相手は悪魔崇拝者だぞ!」
「俺達も巻き込まれるだろうがッ!」
「魔法陣、展開した瞬間に逃げ出してただろ!」
不毛な言い合いに嫌そうな顔をしつつ、シェリルがストップをかける。
「後にしてくださいっス」
脱出しようと扉を開けると魔法が飛んできた。
紅色の信徒服は魔導士のようだ。
火炎矢に、氷錐槍と次々に魔法を放つ紅。
「こっちからも反撃しないとここから出られないッスよ!」
「火炎球」
返事代わりに再び、火炎球をぶっ放すクローディア。
しばらく魔法が飛び交うが、隠れている部屋の扉が魔法で引火して燃え始める。
「わっちゃ! うわっちゃ!」
「扉が無くなったら部屋に火炎球投げ込まれてジ・エンドッスよ!」
「解ってらい! 凍結球弾」
クローディアの言葉と共に、部屋から飛び出したカゲユは、飛んでいく魔法を盾にして走る。走りながら苦無を投げて近くにいた一人の脳天に命中させるカゲユ。
紅色が逡巡する。
このままだと凍結球弾を受けてしまうが、かわしてもカゲユの一撃をくらってしまうだろう。
紅は、迷ったあげくに大きく後方へ飛んで魔法とカゲユから間合いを取る。
「今のうちにこっちへッ!」
カゲユが叫ぶ。すぐさま、カゲユの傍へ駆け寄るシェリルとクローディア。
「とりあえず洞窟から出るぞッ!」
カゲユはそう言うと、言葉とは裏腹に紅色の方へ突進をかける。
ここで仕留めるつもりなのだ。そして、信じられないほどのスピードで間合いを詰めたかと思うと、一刀の下に斬り捨てる。
カゲユは紅色の覆面を取って、こと切れているのを確認し、シェリル達と合流して外へと向かった。
外へと向かう間では、誰とも出会わなかった。
皆、礼拝堂の方にいるのかも知れない。
しかし、先程の魔法の衝撃音で、異変を感じ取った者がいるかも知れないので、警戒は怠らないようにと全員が気を引き締める。
三人は、洞窟の外に出ると、ちょうど下の洞窟から駆け付けた連中と鉢合わせしてしまった。篝火から離れているので、服の色は判別しづらいが、十中八九、騒ぎを聞きつけてきたヤツらだろう。八人ほど、こちらへ駆け寄って来るのが見える。
「助けてくだされ! 変なヤツらが襲ってきましたのじゃ!」
信じられないほどの変わり身の速さで、信徒に縋り付くカゲユ。
一瞬あっけにとられるが、それでも真似してよよよ……と信徒に寄っていくクローディア。二人のそんな姿を微妙な表情で、眺めつつも、何かを諦めたのか、シェリルも逃げてきた一般信徒の真似をする。
カゲユは、かわるがわる信徒に縋り付くふりをしながら、急所を刺して仕留めていく。
まさに 外道。
これではどっちが悪魔崇拝者なのか解らない。
何人にトドメを刺した頃だろうか? 流石に変だと気づいた一人が吠える。
そりゃそうである。縋り付かれた信徒が次々と倒れ伏していくのだ。
「お、お前ら、何者だッ!」
血の付いた小刀を振って血を飛ばすとカゲユは答えた。
「死んで行く者には名乗る必要はない」
言ってみたいセリフの上位にきそうな言葉を吐くと、カゲユは、問いただした紅の信徒服を問答無用で斬り捨てた。
誰も動かなくなった事を確認し、カゲユはクローディアとシェリルに言い放った。
「礼拝堂へ行くぞッ!」
暗くなってからが本番だ。
もうすぐ辺りは、完全な闇に包まれる。
「でもレヴィンさん、一人で大丈夫ですかね?」
「彼は、シェリル殿が思っているよりも強いぞ? 修羅場も結構くぐっている」
「そうなんですか? まだ子供じゃないッスか」
「拙者は、ギルドマスターの依頼で彼をずっと監視していたからな。それに十三歳はもう大人だろう」
「まぁ法律では大人のはずなんですけど、これ位の年齢だと、子供扱いされますよね?」
「まぁ、もうしばらくして体つきも変わってくれば大人だと思われるだろうさ」
「まぁこれから成長期でしょうしね」
「そうだな」
「……」
「……」
「修羅場くぐってるって何をしたんですか? 彼」
「ん? ああ、一人で豚人族の集落に殴り込んだり、インペリア王国のレムレースでSクラスのアンデッドと戦ったたりしているな。南斗旅団の件は、大々的に報道されたから知っているだろ?」
「へえ……、それは命知らずですね。私、あまり新聞読まないんで解らないんですよ」
「冒険者は情報収集が基本だろ? 読んだ方が良いのでは?」
「そうですね。検討します」
「うむ」
「……」
「……」
「カゲユさんって最初から忍者だったんですか?」
「ん? ああそうだ」
「最初から上級職っていいッスよね。私も職業変更してみたいです」
「拙者はここから東方の生まれだからな。生まれつきの忍者仲間は多かったぞ? それに職業変更したいなら他の国の国民になったらどうかな?」
「そうですね。でもここら辺の国って皆、平民の職業変更って違法ですよね?」
「ここら辺はそうだな」
「どこかに住みやすい国ってないですかね?」
「平民でも職業変更できて発展している国と言えばヴァール帝國とかいいんじゃないか?」
「ヴァール帝國ですか……。敵国ですね」
「まぁ、この国からしたらそうだな」
「……」
「……」
「えっと……」
「無理にしゃべらなくてもいいと思うぞ?」
「……」
「……」
「……」
「……」
こうして夜は更けていく。
そして、辺りもすっかり闇に包まれた頃、信徒服と覆面目出し帽、紅の腕章を身につける。左手首に青色の布を巻いておくのも忘れない。
「行くぞ」
カゲユがそう言うと、シェリルと二人して林の中を通って村の方へ歩いていく。
村へ入るが灯りの一つも見えない。丘の方を見上げると、山道の中腹辺りに篝火が見えるだけだ。クローディアが捕えられているのは、中腹にある洞窟から少し上に行ったところにある。念のため、山道を通らず、林や藪になっている場所を通って洞窟に向かう。『気配察知』の上級能力である、『生物探知』を使用しながら道なき道を歩いていく。日々、追跡や尾行任務をこなす、忍者カゲユには大した道のりではないが、ただの盗賊である、シェリルにはこの道のりは厳しい。
「ハァハァ……、待ってくださいッス……」
「ああ、すまんな。ペースを落とすよ。時間はあるしな」
目的の洞窟に到着した。
二人は、洞窟付近の茂みの中に身を隠している。
カゲユは『隠密』を、シェリルは『隠れる』の能力を使っているため、レベルの低い探知の魔法程度では発見できない。シェリルの『隠れる』だって、低級の能力なのだが、探知には引っかかる事はない。よく使用されるものだが、意外と穴の多い魔法である。
洞窟の前にいる見張りは二人。
篝火が覆面姿の二人を照らしている。
以前侵入した時は、眠り玉を使って見張りを沈黙させた。
今回もそれでいいだろうと、懐から黒い玉を取り出すカゲユ。
眠り玉は、カゲユの出身地である、ザルガングの忍者に伝わる催眠丸だ。
火をつけると、もうもうと煙が立ち込めはじめ、吸い込んだ者を眠りに誘うものである。
手から火を発現させ、眠り玉に火をつけると、見張りの方へと投げつける。
火のつけ方は、レヴィンの魔法陣なしで火を起こす方法と同様のものだ。実は、ザルガング出身者なら多くの者が使える技術である。ただ、異世界人のレヴィンが暗黒子回路を体内に宿すのに比べ、カゲユが持つのは霊子回路であるため、威力は断然レヴィンの方が上である。
暗黒子回路と霊子回路では、得手不得手がある。火水風土や闇の属性に大きく寄与する暗黒子回路にくらべ、霊子回路は、回復や光の属性に向いている。普通、生けとし生けるもののうち魔物以外は、霊子回路を持つのが普通なのであるが、異世界人はほぼ暗黒子回路を持つ。神が何を考えてこのようにしたのかは不明である。
予定通り、煙を吸い込んだ見張りの二人はバタバタと倒れると、カゲユとシェリルは姿を現した。倒れた二人を持ってきていた縄で縛り、猿ぐつわをはめると茂みの中で放り込んでおく。
『隠密』能力で、洞窟内部に動く者がいない事の調べはついている。
すぐに、洞窟内へ侵入した二人は、記憶をたどってクローディアが閉じ込められている一室へと向かった。
当然、その部屋の前にも見張りが一人立っている。
カゲユは迷う事なく、見張りに近づいていくと声をかけた。
「ご苦労様です。見張り交代です。礼拝堂の方へ行くようにとの事です」
「ん? 礼拝堂に? 解った。後は頼んだ」
カゲユに背を向けた瞬間、彼の手刀が首筋に決まる。
何の声も発せずに倒れる見張り。
カゲユは、扉をノックすると、中に向かって声をかけた。
「クローディア、入るぞ?」
中から返事が聞こえてくる。それを聞いてカゲユと、いつの間にか傍に来ていたシェリルが中に入る。今しがた倒した見張りも中へ引きずり込んだ。
「クローディア、無事か?」
ベッドに腰かけて本を読んでいた彼女は、本を閉じ、手を挙げてそれに応える。
その本の背表紙にはこう書かれていた。
『闘争の果て 著 ゴルナーク』
「大丈夫だよ。お疲れさん」
「脱出するぞ。これを着ろ。後、お前の武器な」
いそいそと着替えを始めるクローディア。
と言っても信徒服を上から着るだけなのだが。
「よし、どこからどう見ても信者だ。背は低いが」
「背が何だって?」
余計なひと言にクローディアが噛付くがカゲユは、相手にしない。
見張りの手足を縛り、猿ぐつわをしてベッドに投げ込んでおく。
「よし、行くぞ。次は礼拝堂の洞窟だ」
カゲユ、シェリル、クローディアの三人は、閉じ込められていた、部屋の扉を次々とくぐる。その時、いきなり声をかけられた。
「お前達! 三人で何をしている?」
カゲユが目をやると、そこには紅色の信徒服を身に纏った者が一人。
そして傍には黄色の信徒服の者が二人いた。
カゲユが一般信徒のふりをして答える。
「いえ、これから礼拝堂の方へ行こうかと……」
「その部屋はキッドマンの娘がいた部屋だな。全員、覆面を取れ」
三人の間に緊張が走る。逡巡する事しばし。
「おい。早く覆面を取れ!」
紅の信徒服が焦れたように叫ぶ。
そこへ、応えたのはクローディアであった。
ただし魔法で。
「火炎球」
魔法をぶっ放すと、とっさに今出てきた部屋へと非難する三人。慌てて扉を閉める。
ドゴオオオオォォ!
信徒達も慌ててあちこちに散らばる。
しかし、狭い洞窟の通路の中、思うように逃げられない。
炎が地を舐めつくす。
「おい! いきなり魔法をぶっ放すなッ!」
カゲユが非難の声を上げるが、クローディアは取り合わない。
「どうせ敵なんだからいーじゃんか。相手は悪魔崇拝者だぞ!」
「俺達も巻き込まれるだろうがッ!」
「魔法陣、展開した瞬間に逃げ出してただろ!」
不毛な言い合いに嫌そうな顔をしつつ、シェリルがストップをかける。
「後にしてくださいっス」
脱出しようと扉を開けると魔法が飛んできた。
紅色の信徒服は魔導士のようだ。
火炎矢に、氷錐槍と次々に魔法を放つ紅。
「こっちからも反撃しないとここから出られないッスよ!」
「火炎球」
返事代わりに再び、火炎球をぶっ放すクローディア。
しばらく魔法が飛び交うが、隠れている部屋の扉が魔法で引火して燃え始める。
「わっちゃ! うわっちゃ!」
「扉が無くなったら部屋に火炎球投げ込まれてジ・エンドッスよ!」
「解ってらい! 凍結球弾」
クローディアの言葉と共に、部屋から飛び出したカゲユは、飛んでいく魔法を盾にして走る。走りながら苦無を投げて近くにいた一人の脳天に命中させるカゲユ。
紅色が逡巡する。
このままだと凍結球弾を受けてしまうが、かわしてもカゲユの一撃をくらってしまうだろう。
紅は、迷ったあげくに大きく後方へ飛んで魔法とカゲユから間合いを取る。
「今のうちにこっちへッ!」
カゲユが叫ぶ。すぐさま、カゲユの傍へ駆け寄るシェリルとクローディア。
「とりあえず洞窟から出るぞッ!」
カゲユはそう言うと、言葉とは裏腹に紅色の方へ突進をかける。
ここで仕留めるつもりなのだ。そして、信じられないほどのスピードで間合いを詰めたかと思うと、一刀の下に斬り捨てる。
カゲユは紅色の覆面を取って、こと切れているのを確認し、シェリル達と合流して外へと向かった。
外へと向かう間では、誰とも出会わなかった。
皆、礼拝堂の方にいるのかも知れない。
しかし、先程の魔法の衝撃音で、異変を感じ取った者がいるかも知れないので、警戒は怠らないようにと全員が気を引き締める。
三人は、洞窟の外に出ると、ちょうど下の洞窟から駆け付けた連中と鉢合わせしてしまった。篝火から離れているので、服の色は判別しづらいが、十中八九、騒ぎを聞きつけてきたヤツらだろう。八人ほど、こちらへ駆け寄って来るのが見える。
「助けてくだされ! 変なヤツらが襲ってきましたのじゃ!」
信じられないほどの変わり身の速さで、信徒に縋り付くカゲユ。
一瞬あっけにとられるが、それでも真似してよよよ……と信徒に寄っていくクローディア。二人のそんな姿を微妙な表情で、眺めつつも、何かを諦めたのか、シェリルも逃げてきた一般信徒の真似をする。
カゲユは、かわるがわる信徒に縋り付くふりをしながら、急所を刺して仕留めていく。
まさに 外道。
これではどっちが悪魔崇拝者なのか解らない。
何人にトドメを刺した頃だろうか? 流石に変だと気づいた一人が吠える。
そりゃそうである。縋り付かれた信徒が次々と倒れ伏していくのだ。
「お、お前ら、何者だッ!」
血の付いた小刀を振って血を飛ばすとカゲユは答えた。
「死んで行く者には名乗る必要はない」
言ってみたいセリフの上位にきそうな言葉を吐くと、カゲユは、問いただした紅の信徒服を問答無用で斬り捨てた。
誰も動かなくなった事を確認し、カゲユはクローディアとシェリルに言い放った。
「礼拝堂へ行くぞッ!」
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