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第三章 死霊都市レムレース

3-34 再鑑定

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 対策会議室には、主だった者が集められていた。

 留守居役のバルリエ将軍と代官のマヌヴォー、騎士団長を務める、サジュマン、そしてギルマスのデボラ、事件の最初からいる冒険者のフェリクス、オットマー、オレール、ダダック、カノン、神殿に籍を置くライル、シャルロット、アンヌ、最後にレヴィンとダライアスだ。

「いったい何事ですか? 調べものがあるからと来てみれば……」

 騎士団長のサジュマンが何が何だか解らないと言った表情で疑問を口にした。

「我々も詳しく聞いている訳ではない。どういう事か説明してもらおうか、デボラよ」

 バルリエ将軍がデボラに尋ねた。

「はい。集まってもらったのは他でもありません。この一連の事件の真犯人を捜そうと言う意図からです」

「犯人だと!? 今、鑑定させておるところではないのか?」

 マヌヴォーが意味が良く解らないと言った表情を見せる。

「レヴィン」

 デボラの後を受け継いで、マヌヴォーの疑問に回答するレヴィン。

「今までの鑑定は意味を持ちません。ここに鑑定を受けていない者がいるからです」

「何だとッ!? では我々が犯人だとでも言うつもりかッ!?」

 鑑定を受けていない、バルリエ、マヌヴォー、サジュマンに緊張が走る。
 どの顔も心外だと言わんばかりに不満の色が見て取れる。

「まぁ、我々だけ鑑定を受けていないのも事実だ。ではオットマーと言ったか? 鑑定をしてもらおうか」

 バルリエの言葉に、待ったをかけるレヴィン。

「鑑定をするのは彼ではありません。この娘です」

 すると、先程からレヴィンと手を繋いでこの場にいる少女に注目が集まった。
 皆、場違いなこの少女に困惑していたのだ。

「馬鹿な……」

 そうつぶやいたのは誰の声だっただろうか。

「ダライアス!」

 レヴィンの言葉に、クロエを護るように位置どるダライアス。
 蒼天の剣の柄に手をかけ、いつでも抜けるようにしている。
 もちろんレヴィンもいつでも動けるように横で手を繋いでいる。

「では、バルリエ将軍から始めましょうか。申し訳ございませんが、こちらへお願いします」

 バルリエは言われた通りに、クロエの前へと進み出る。

 彼の体を光が包み込む。
 驚いて体が強張るバルリエ。

「えっと、なまえはバルリエ。39さい。おとこ。かごは、『こうしんこうしん』。しょくぎょうは、『きし』で、しょうごうは『しょうぐん』、のうりょくは『きしけんぎ』と『しんせいまほう』……」

 これでいいの?と隣りのレヴィンに話しかけるクロエ。
 「よしよし、偉いぞー」と彼女の頭をわしゃわしゃ撫でるレヴィン。

「では次、マヌヴォー様、お願いします」

 バルリエと同様にクロエの前まで来ると、何かびくびくした態度で落ち着きのないマヌヴォー。

「えーっと、マヌヴォー、55さい。かごは『びんわんのうり』で、しょくぎょうは『しさい』、しょうごうは『だいかん』、のうりょくは『しんせいまほう』です」

 レヴィンから特に何も言われないので、相変わらずびくびくした態度は変わらない。

「では次、サジュマン様、お願いします」

 サジュマンは、フルプレートの甲冑なのに、頭をかきながらこちらへやってきた。

「サジュマン、60さい。かごは、『けんしゅけんろう』でしょくぎょうが『きし』、しょうごうは『きしだんちょう』と『ぼうけんしゃ』、のうりょくは『きしけんぎ』と『しろまほう』です」

「では次、フェリクスさん。お願いします」

 フェリクスはその場を動かない。

「フェリクスさん?」

 レヴィンがもう一度、名前を呼ぶ。

「どうしたんだよ、フェリクス?」

 同じパーティのオレールも心配そうな声を上げる。
 するとようやく、フェリクスはクロエの前に足を進めた。





 時は遡る。

 デボラとレヴィンが、アンデッド対策室の前の廊下で話し込んでいた。

「冒険者の中に犯人がいる?」

「はい。確信は持てませんが、調べ直す価値はあります」

「調べ直すだって? 一度調べたのだから結果なんて変わるはずはないじゃないか」

 デボラは、お前は何を言っているんだと言う表情を見せる。

「いえ、我々の中に、実質調べられていないも同然の人間が存在します」

「本当の職業クラスを申告していない者がいると言う事かい?」

「まぁ、そんな感じです」

「しかし、どうやって調べるのさ。城塞付の鑑定士は意識不明。後はオットマーだけじゃないか。彼に再鑑定させるのかい?」

「いえ、彼に再鑑定してもらっても意味はありません。避難民の中にクロエと言う少女がいます。おそらく彼女は鑑定士の能力があります」

「それは確かなのかい?」

「確かめたかったのですが、城塞付の鑑定士は意識が戻っていません。わざわざドラゴンゾンビに大広間まで破壊させたのも犯人の意志だったのではないでしょうか?」

「解った。疑われた方は良い気分じゃないだろうが、緊急時さね。間違ったら笑って謝ればいいさ」

 デボラが明るくそう言ってくれたので、レヴィンは少し気が晴れたようだ。

「では呼んできます」

 そう言うと、クロエを呼びに行くレヴィン。
 すぐに連れてくると、クロエに指示を出す。

「クロエちゃん、いいかい? 僕と初めて会った時、何かの能力を使ったのを覚えてる?」

「うん。何かよく解らないけど、人の詳しい様子が解るようになるよ!」

「そうか。今、このおばちゃんに使ってみてくれないか?」

 おばちゃん呼びが気に障ったのか、微妙な表情をするデボラ。

 その瞬間、黄金色の光がデボラを包み込んだ。
 デボラが驚いた顔をしていると、クロエは何かを読み上げるように話し出した。

「えーっと……デボラ、48さい。おんな。かごは、『ししほうこう』で、しょくぎょうは『せいきし』、しょうごうは……」
 
 ここでデボラが慌ててストップをかける。

「解った! 解ったよ。もう十分だ。私の加護も正解だよ」

 彼女はクロエの頭を優しく撫でながら、言った。
 その声色は優しい母を思わせる。

「すごいねぇ。いつからこんな事できるって気づいたんだい?」

「んー。5歳頃かなぁ……」

「では、順番に鑑定していきましょう。部屋の外とバルコニーには精鋭の兵を伏せておいて欲しいです」

「万が一にも逃げられたくないからね。解ったよ。サジュマン殿に手配を頼もう」

「お願いします」

「もうあんたには誰が犯人か目星はついているんだね?」

「ええ。だいたい。で、でも間違っていたらフォローしてくださいねッ!」

 ここに来て、及び腰のレヴィンであった。





 フェリクスの鑑定が始まった。
 まばゆい光がフェリクスを包む。
 表情は特にうかがえない。クロエをじっと見下ろしている。

「なまえは、フェリクス。35さいで、かごは『はいすいやしゃ』、しょくぎょうは『ねくろまんさ……」

 途端に身を翻して扉へ向かうフェリクス。
 オットマーも先に扉を開けて廊下へ飛び出そうとしている。

「うわッ!」

 先に廊下に出たオットマーはすぐに組み伏せられてしまう。
 時間差でフェリクスも廊下に飛び出す。
 先にオットマーを取り押さえていた衛兵達は油断していたのか、後に飛び出してきたフェリクスを逃してしまう。

「何をやっているッ!」

 デボラの叫び声が響く。
 レヴィンはすぐに廊下に出ると魔法を発動する。
 ここで逃したらいけない。最悪自害されてしまうかも知れないのだ。
 となると、事件の全容解明は難しくなってしまう。
 
高速飛翔ハイ・ソアー

 レヴィンが宙を舞う。
 そして高速でフェリクスを追走すると、思いっきり、背中にぶちかましをかける。
 大きく跳ね飛ばされ、階段から転がり落ちていく。
 その様子は、池田屋階段落ちの如くである。

 慌てて後を追うが、フェリクスは、転がり落ちたホールでナイフを取り出すと首筋に当てる。
 
「くそッ! 後一日……後一日遅ければッ……!!」

 そう言うと、ナイフを引くフェリクス。血がほとばしり、彼の意識が暗転する。
 しかし、レヴィンはすぐさま、魔法をかける。

聖亜治癒ハイヒール

 みるみるうちに傷が塞がり出血も止まってしまう。
 
 レヴィンは気絶したフェリクスを見事捕える事に成功したのであった。
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