61 / 174
第二章 ナミディアの領主
2-30 村回り
しおりを挟む『南斗旅団』のアジトでのお宝を分捕り、もとい、押収した後、重量感を増した荷馬車がポロロ村に向って疾走している。
行きよりもスピードは出ていない。もしかしたら二日から三日かかるかも知れない。行きよりも揺れと音の少ない車内でレヴィンはごちる。
「一瞬で意志の疎通が可能な魔導具があればいいのに」
「なんだ? 藪から棒に。そんなのがあったら戦争が変わるぞ」
「いちいち、報告や情報伝達のために、長い日数拘束されるのは勘弁願いたいです」
「それは確かにそうだな。今回だって、エクスに着くまで五日だったか? 往復で十日だろ。遠いよなぁ」
「そうですよ! 僕等はまだ学生で長期の休みしか冒険者として動けないし、時間は大切です」
そうなのである。元々夏休みは魔の森でレベリングするつもりだったのだ。
まぁ、エクス公国に行く決断をしたのはレヴィンなのだが……。
「そう言う時こそ、時空魔法の出番だろ。高位の魔法には転移できるものがあるらしいぞ?」
「そんな高位魔法の魔導書なんて手に入れるのも難しいですよ……実際使い手はいるんでしょうか?」
「使える魔導士は聞いた事ねーな」
「魔導書って洞窟の宝箱の中とかに入ってないんですかね?」
「お前、洞窟に宝箱ってそんな都合のいいもんがある訳ねーじゃねーか」
イザークが何言ってんだと、ため息をつきながら答える。
「でも地下迷宮ならあるかも知れねーな? 確かインペリア王国にあったろ地下迷宮。俺も行ってみたいと思ってたんだよ」
「僕も聞いた事はありますね。どこら辺にあるんでしょうか?」
「噂で聞いたな……確か、モンテールって都市じゃなかったか」
レヴィンは、しばらくは行く時間がないだろうが、とりあえず覚えておく事にした。
それから三日を費やしてポロロ村に帰ってきた。
二十一台もの荷馬車に食糧やお宝を満載にしていたのにも関わらず、野盗の類に襲われる事はなかった。
やはり、盗賊のネットワークでレヴィン達の事は共有されているのかも知れない。
久しぶりにまともな食事にありつけそうだ。
基本、旅は保存食のようなものを食べる事が多い。
分捕ってきた食糧は腐らせるのも悪いので、村の皆で食べる事にした。
保存が利かなそうなものは魔法で凍らせておいたのだ。
村の広場で村民と食事をしながらレヴィンは今後の事件の推移について考えていた。
「さて、そろそろ、ベネディクト達が首都エクスに到着している頃合だと思うけど、どうなりますかね?」
「上手くいっていれば、騎士団が派遣され捕虜がエクスに護送されるだろう。それに旅団を壊滅させた君達も出頭要請があるだろうね」
ホンザが事もなげに予想を話す。
「でも、ホンザさん、他の村にも食糧を届けたいんですよね? どうするんですか?」
「とりあえず、こちらの使者が戻ってくるまでまだ時間があるだろう。隣り村のカナックに行きたいと思っている」
「まぁ、到着してもすぐに大公に会える事はねーだろうし、時間はあるだろうな」
イザークがホンザの言葉に同調する。
その隣りでイーリスもうんうんうなずいている。
「カナック村まで二日程度だ。予定通り、引き続き護衛を頼みたい」
「この村にも誰か残った方が良いのでは?」
ヴァイスが気を利かせて発言する。
「じゃあ、お前ら行って来いよ。俺がお宝と村を護っておく」
イザークはついてくるつもりはないようだ。
逃げたな……。
結局、『無職の団』のみで護衛をする事となった。
一部食糧を残していく事もあり、荷馬車に人が乗るスペースがある。
今回は護衛も荷馬車に乗って、爆走していく予定である。
そして、あっけないくらいあっさりとカナック村に到着する。
道中が平和なようで何よりである。
村に入るが、この村も村内に人気がなかった。
各家を周り、村人の安否を確認していく。
時間が経過して分、ポロロ村より悲惨な状況のようだ。
幼子など、一部の村人に餓死者が出ているという。
早速、炊き出しを行う一行。
ホンザの店の者を中心に、弱った体でも受け付けるような料理を作っていく。
村の集会所に全員を集め、介抱しながら食事を与える。
レヴィンやシーンとしては、こういう時、回復魔法が効けばいいのにと思ってしまう。しかし、まだまだ解っていない魔法も多いのだ。栄養失調から回復させる魔法もあるかも知れない。レヴィンはそう期待を寄せるのであった。
数日間、様子を見てカナック村は大丈夫と判断したホンザは、一応、南更に東ゴズ村にも足を延ばす事にした。
カナック村からゴズ村へ行くには、東にドルグスキ山脈があるため、少し南に迂回しなければならず、二日半から三日かかる。
ホンザの目的は、エクス公国民を飢餓から救う事である。
そこに村があるなら、行かねばなるまいと考えるのは当然の事であった。
そして、更に積み荷の減った荷馬車が荒野を爆走する。
ゴズ村に到着すると、村内を村人が闊歩していた。
話によれば、ルドミン・バジナ・ドラン・ホッジス公爵の食糧支援があったようで、不足気味ではあったが餓えはひどくないとの事であった。
隣り村のチェシャ村も同様だという。
「あっちの村と違ってこちらは良い領主に恵まれているようですね」
「そうだな。死人が出てなくてホッとしたよ」
ダライアスも嬉しそうに目を細めている。
「では、食糧を多めに渡してポロロ村に戻ろう」
ホンザはゴズ村の村長に事情を話し、引き返す事にした。
「他に餓えている者がいたら食糧を渡して欲しい」と。
村長は何度も何度もお礼を言っていた。
一行は四日ほどかけてポロロ村に帰還した。
レヴィンはもう既にエクスから騎士団や役人が来ている頃かと思っていたが、到着はまだのようであった。
「あう~。疲れたよ~」
アリシアが限界のようだ。
ずっと野宿と簡素な食事が続いていたため、疲労困憊のようである。
「アリシア、お疲れ様だな。もうひと踏ん張りだぞ! カルマに戻ったらしばらくゆっくりしよう」
「うんッ! 解ったよッ!」
その時、遠くから笛のような音が聞こえてきた。
その音は段々近づいてくるようだ。
そして、村に馬に騎乗した使者が訪れた。
なんだなんだと村の広場に集まり始める村人達。
先触れの使者は出迎えに来た村長に、あと、一時間ほどで騎士団と護送車が到着すると伝えて、再び戻って行った。
使者の首にかけられていたのは角笛のようなものだった。
それを吹いていたのだろう。
使者の到着からほぼ一時間が経過し、騎乗した騎士団と思われる集団が村に近づいてきた。
隣りにはベネディクトの姿も見える。
その後ろには、大きな車のようなものを四頭の馬が引いている。それが三台だ。
おそらく捕虜を収容する車なのだろう。
村長をはじめとした村人一同で一行を出迎える。
待ちに待った、首都エクスからの使者ご一行様の到着であった。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~
ぽん
ファンタジー
⭐︎コミカライズ化決定⭐︎
2024年8月6日より配信開始
コミカライズならではを是非お楽しみ下さい。
⭐︎書籍化決定⭐︎
第1巻:2023年12月〜
第2巻:2024年5月〜
番外編を新たに投稿しております。
そちらの方でも書籍化の情報をお伝えしています。
書籍化に伴い[106話]まで引き下げ、レンタル版と差し替えさせて頂きます。ご了承下さい。
改稿を入れて読みやすくなっております。
可愛い表紙と挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。
書籍版『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』を是非ご覧下さい♪
==================
1人ぼっちだった相沢庵は住んでいた村の為に猟師として生きていた。
いつもと同じ山、いつもと同じ仕事。それなのにこの日は違った。
山で出会った真っ白な狼を助けて命を落とした男が、神に愛され転移先の世界で狼と自由に生きるお話。
初めての投稿です。書きたい事がまとまりません。よく見る異世界ものを書きたいと始めました。異世界に行くまでが長いです。
気長なお付き合いを願います。
よろしくお願いします。
※念の為R15をつけました
※本作品は2020年12月3日に完結しておりますが、2021年4月14日より誤字脱字の直し作業をしております。
作品としての変更はございませんが、修正がございます。
ご了承ください。
※修正作業をしておりましたが2021年5月13日に終了致しました。
依然として誤字脱字が存在する場合がございますが、ご愛嬌とお許しいただければ幸いです。
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。
光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。
ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…!
8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。
同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。
実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。
恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。
自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる