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「落ち着いたか?」
車内でディオスがハルヴァの顔を覗き込むと鼻先を少し赤くしたハルヴァが小さく頷いた。
ディオスはハルヴァを問い詰めたい気持ちに駆られたが、逆効果だ。と言葉を飲み込む。
「どうした?何かあったのか?」
ディオスはなんでもない風を装うとハルヴァの肩を抱き寄せて、頬にキスをしようと口を寄せた。
その時、ハルヴァが身を強張らせたような気がしてディオスはキスをするのを止めた。
「……大丈夫。本当に何も無いの…ディオス様が平気なら…」
ハルヴァはそう言うと俯いてしまった。
ディオスはどうしたらいいのかわからずただ無言になってしまった。
(何があったんだハルヴァ殿…!ああ、もう俺のことは嫌いになってしまったんだろうか…?上手い言葉が見つからない…!)
ディオスは頭を抱えたくなるのを我慢してハルヴァが窓の外を眺めているのを見た。
ここで詰め寄ったりしてはハルヴァはますますディオスが嫌いになるだろう…
(……どうしたらいいんだ)
ディオスは内心頭を抱えながらもハルヴァを玄関まで見送り「また明日」と爽やかに言った。
ディオスはかなり頑張った。
しかしハルヴァから返ってきた言葉は無情にも「あの…しばらくお迎えは大丈夫ですから」との言葉だったのだ。
「う、ぐぐぐぐ……」
ディオスは帰りの車内で一人…変な声を出していた。
(なぜハルヴァ殿は急にそんなことを言いだしたんだ?……や、やっぱりエドガーを見て俺のキモさが爆発してしまったのでは!?「あれ?他の男と比べたらなんかコイツきもくない?」と…!)
ディオスはガリガリと座席を引っ掻くと唸り声を上げる。
(ハルヴァ殿に限ってそんなこと…!)
(いや、女心は秋の空)
(待て待て違う!女心と秋の空では?助詞が…)
(いやいや…どうでもいい)
(いや、そんなことはない…助詞は大切…)
ディオスは自問自答した。
「……ディオス様はいないのよ…私たち……そんなに仲が良い婚約者同士じゃないの。迎えになんて来てくれないわ、前に話したでしょ?マリッサも同情してくれたじゃない…」
ハルヴァは次の日の仕事帰り、ロビーで待っていたマリッサにそう告げた。
「えー?でも、前はすごく仲が良さそうだったわ」
マリッサは可愛らしく口先を尖らせるとハルヴァを見上げた。
ハルヴァも決して背が高い方の女性ではないが、マリッサはそんなハルヴァよりもずっと華奢で小柄だった。
無邪気な様子で小首を傾げると大抵の男性はみんな彼女に夢中になってしまう。
「俺、背の高いクールな女が好きなんだ」
そう言っていたって、マリッサに上目遣いで見つめられてしまえばあっという間に彼の好みは変わってしまう。
それ位マリッサは魅力的だった。
「マリッサの前だから無理をしたのよ。全然仲良くないの、結婚も形だけで一緒に住まない予定なの」
ハルヴァはそう言うと診療所のドアを開けた。
ハルヴァとマリッサとエドガーはハルヴァの母が死ぬまでは近所同士で幼馴染のような関係だった。
ハルヴァがここに越してからはあまり頻繁な交流はなかったが、先日会ったのをきっかけにこうして職場を訪ねてきてくれた。
昔はハルヴァとマリッサ、そしてエドガーはいつも一緒にいて、
学校に行く時も一緒だった。
「え?そうなの?……でも凄くカッコいい人よね?強そうだし」
「あ、ああ…そうかもね」
「そうかもね。って…ハルヴァはそう思ってないの?」
「……ねえ、そんなことより…エドガー元気?」
ハルヴァはニッコリ笑ってそう言うとマリッサが少し驚いたような顔をして「……やだ、ハルヴァ…まだエドガーが好きなの?」と言う。
ハルヴァはその質問には答えずにマリッサを振り返ると
「……ねえ?どこに行く?私、お腹がすいちゃった」と笑った。
ハルヴァとマリッサとエドガーはいつも一緒だった。
ある時、マリッサが風邪をひいて学校を休むことになったのでハルヴァとエドガーは二人きりで登校することになった。
エドガーはいつもと違い口数が少ない。
いつも彼の聡明さで道端に咲く花の説明をしてくれたり、昨日世界で起きた出来事をわかりやすく楽しそうに話してくれるのだが…
(エドガーも風邪気味なのかな…?)
ハルヴァは心配な気持ちと少し悲しい気持ちが混ざってなんだか泣きそうになった。
ハルヴァと二人きりは嫌なのかもしれない…
そう思うと気持ちが沈んだ。
自分はマリッサと二人きりでも、エドガーと二人きりでも楽しいと思っていたけれどエドガーは違うのか…とハルヴァは思った。
半歩前を歩くエドガーの顔をハルヴァは見ると、彼は聡明そうな目を真っ直ぐ前に向けて歩いている。
ハルヴァは何か話題を…と話掛けてみるけれど、エドガーは「ああ」だとか「うん」だとか気のない返事しか返してくれないので一向に会話にはならない。
ハルヴァはため息を飲み込むと(きっと彼も体調が悪いのだ)と自分に言い聞かせるように瞬きをした。
その時、エドガーが歩みを止めたのでハルヴァも立ち止まり彼を見る。
「……俺、ハルヴァのこと好きなんだよね」
エドガーはそうハルヴァに伝えた次の日、マリッサとキスをしているのをハルヴァは見た。
車内でディオスがハルヴァの顔を覗き込むと鼻先を少し赤くしたハルヴァが小さく頷いた。
ディオスはハルヴァを問い詰めたい気持ちに駆られたが、逆効果だ。と言葉を飲み込む。
「どうした?何かあったのか?」
ディオスはなんでもない風を装うとハルヴァの肩を抱き寄せて、頬にキスをしようと口を寄せた。
その時、ハルヴァが身を強張らせたような気がしてディオスはキスをするのを止めた。
「……大丈夫。本当に何も無いの…ディオス様が平気なら…」
ハルヴァはそう言うと俯いてしまった。
ディオスはどうしたらいいのかわからずただ無言になってしまった。
(何があったんだハルヴァ殿…!ああ、もう俺のことは嫌いになってしまったんだろうか…?上手い言葉が見つからない…!)
ディオスは頭を抱えたくなるのを我慢してハルヴァが窓の外を眺めているのを見た。
ここで詰め寄ったりしてはハルヴァはますますディオスが嫌いになるだろう…
(……どうしたらいいんだ)
ディオスは内心頭を抱えながらもハルヴァを玄関まで見送り「また明日」と爽やかに言った。
ディオスはかなり頑張った。
しかしハルヴァから返ってきた言葉は無情にも「あの…しばらくお迎えは大丈夫ですから」との言葉だったのだ。
「う、ぐぐぐぐ……」
ディオスは帰りの車内で一人…変な声を出していた。
(なぜハルヴァ殿は急にそんなことを言いだしたんだ?……や、やっぱりエドガーを見て俺のキモさが爆発してしまったのでは!?「あれ?他の男と比べたらなんかコイツきもくない?」と…!)
ディオスはガリガリと座席を引っ掻くと唸り声を上げる。
(ハルヴァ殿に限ってそんなこと…!)
(いや、女心は秋の空)
(待て待て違う!女心と秋の空では?助詞が…)
(いやいや…どうでもいい)
(いや、そんなことはない…助詞は大切…)
ディオスは自問自答した。
「……ディオス様はいないのよ…私たち……そんなに仲が良い婚約者同士じゃないの。迎えになんて来てくれないわ、前に話したでしょ?マリッサも同情してくれたじゃない…」
ハルヴァは次の日の仕事帰り、ロビーで待っていたマリッサにそう告げた。
「えー?でも、前はすごく仲が良さそうだったわ」
マリッサは可愛らしく口先を尖らせるとハルヴァを見上げた。
ハルヴァも決して背が高い方の女性ではないが、マリッサはそんなハルヴァよりもずっと華奢で小柄だった。
無邪気な様子で小首を傾げると大抵の男性はみんな彼女に夢中になってしまう。
「俺、背の高いクールな女が好きなんだ」
そう言っていたって、マリッサに上目遣いで見つめられてしまえばあっという間に彼の好みは変わってしまう。
それ位マリッサは魅力的だった。
「マリッサの前だから無理をしたのよ。全然仲良くないの、結婚も形だけで一緒に住まない予定なの」
ハルヴァはそう言うと診療所のドアを開けた。
ハルヴァとマリッサとエドガーはハルヴァの母が死ぬまでは近所同士で幼馴染のような関係だった。
ハルヴァがここに越してからはあまり頻繁な交流はなかったが、先日会ったのをきっかけにこうして職場を訪ねてきてくれた。
昔はハルヴァとマリッサ、そしてエドガーはいつも一緒にいて、
学校に行く時も一緒だった。
「え?そうなの?……でも凄くカッコいい人よね?強そうだし」
「あ、ああ…そうかもね」
「そうかもね。って…ハルヴァはそう思ってないの?」
「……ねえ、そんなことより…エドガー元気?」
ハルヴァはニッコリ笑ってそう言うとマリッサが少し驚いたような顔をして「……やだ、ハルヴァ…まだエドガーが好きなの?」と言う。
ハルヴァはその質問には答えずにマリッサを振り返ると
「……ねえ?どこに行く?私、お腹がすいちゃった」と笑った。
ハルヴァとマリッサとエドガーはいつも一緒だった。
ある時、マリッサが風邪をひいて学校を休むことになったのでハルヴァとエドガーは二人きりで登校することになった。
エドガーはいつもと違い口数が少ない。
いつも彼の聡明さで道端に咲く花の説明をしてくれたり、昨日世界で起きた出来事をわかりやすく楽しそうに話してくれるのだが…
(エドガーも風邪気味なのかな…?)
ハルヴァは心配な気持ちと少し悲しい気持ちが混ざってなんだか泣きそうになった。
ハルヴァと二人きりは嫌なのかもしれない…
そう思うと気持ちが沈んだ。
自分はマリッサと二人きりでも、エドガーと二人きりでも楽しいと思っていたけれどエドガーは違うのか…とハルヴァは思った。
半歩前を歩くエドガーの顔をハルヴァは見ると、彼は聡明そうな目を真っ直ぐ前に向けて歩いている。
ハルヴァは何か話題を…と話掛けてみるけれど、エドガーは「ああ」だとか「うん」だとか気のない返事しか返してくれないので一向に会話にはならない。
ハルヴァはため息を飲み込むと(きっと彼も体調が悪いのだ)と自分に言い聞かせるように瞬きをした。
その時、エドガーが歩みを止めたのでハルヴァも立ち止まり彼を見る。
「……俺、ハルヴァのこと好きなんだよね」
エドガーはそうハルヴァに伝えた次の日、マリッサとキスをしているのをハルヴァは見た。
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