18 / 44
18
しおりを挟む
「おい、ディオス、ディオス」
「……なに?」
夕食後兄に手招きをされてディオスは訝しげな顔をした。
小さい頃、そうして蛙を握らされたのを思い出したからだ。
「バカ!そんな顔をするな!いいか?兄ちゃんの言う事をよく聞け?」
「……なに?」
ディオスは内心(嫌だなぁ)と思っていたのだけれど、幼少期からの刷り込みにより兄に逆らえない身体が出来上がっていた。
「これからお前は父さんに呼び出される」
「……なに?」
「バカ、黙って聞け!その時全部『はい』と答えるんだ、いいな?」
「……わかった」
ディオスは心の奥底から嫌な予感がしたが、刷り込みパワーでそう返事をした。
(第一、なぜ呼び出されるんだろう…)
ディオスの胃は何もした覚えはないのにジクジク痛んでいく…
「ディオス久しぶりだなぁー、お前毎日家に帰ってきてるか?」
ディオスの父が呑気な声を出した。
ディオスは勿論毎日家に帰ってきているが、極力身を潜めている為家族とあまり会わないのだ。
大人しいディオスには彼らのパリピ気質が眩しすぎた。
「はい」
ディオスは早速兄の言いつけを守る。
偉いぞディオス、忠犬ディオス。
「今日こんなにかしこまったのはなぁ…ディオス、お前ハルヴァ・ローレンスという女性は知ってるか?」
「……はい」
ディオスはギラギラと欲を隠せなくなってくる目を隠すように顔を俯かせた。ハルヴァの名前を聞いただけで心の底から欲望が湧き上がってくる気分がする。
「……会ったことがあるのか?」
「はい」
ディオスは膝についた手を握った。
「好いてるのか?ハルヴァ嬢を?お前が?人間の女性、ハルヴァ嬢を?」
「は?は……は、はい」
なぜ自分の気持ちを父が知っているのか?ディオスは動揺から返事が乱れた。
「ほぉ…なるほど…そうかぁ…」
「……はい……」
「もしかしてだけど…ハルヴァ嬢と結婚したいと思ってる?ディオスが?人間の女性と?あのディオスが?結婚したいと思ってしまった?」
「はい?はいはいはいはい!」ディオスは顔を上げると父を見た。父はディオスの顔をじっと見つめてから「大丈夫か?」と言ったのでディオスは兄の言いつけ通り「はい!」と答えた。
父は幼少期から他と違って大人しいディオスが心配で心配でたまらなかった…
ディオス以外の子どもたちのあけっぴろげな性格に対して、ディオスはとても大人しく無口だった。
中等部に入ってからもあまりにも女っ気のないディオスに対して父は人を雇い監視させている位心配だったのだ。
(あいつは陰でなにか犯罪めいたことをしているのではないか?)と
自分たちの子なのにも関わらず女性に対しても男性に対してもあんなに大人しいのはあり得ない、と考えた父は息子が陰で人間か何かを犯して性欲を発散させているか…
または性欲を何か別な形で発散している可能性を考えたのだ。
例えば…子猫を殺したりだとか…
父は不安でたまらず母に相談したが
「あの子は気が優しいから大丈夫よ!一途なんじゃないの?今好きな子がいないだけよ」とヘラヘラ笑いながら軽く言ったので
(駄目だコイツは…)
とディオスの父は肩を落としたのだ。
ディオスの父だって母に対して一途な想いがある。
ただ、他のかわいい女性を見たら一回関係を持たないと気がすまないだけだ。
愛してるのは母だけだ。
しかし、性欲は別なのだ。
そうして父はディオスの監視を依頼することになったのだが…報告書を見てあいた口が塞がらなくなるのだった。
「……どういうこと?」
「はい、見たままでして…ご子息は本日、勉学を終えてから道端にいた猫に擦り寄られたので優しく撫でた後家に帰宅。部屋で筋トレをした後にランニングへ。ランニング先でも鳥が頭に止まったので体幹を揺らさないように気をつけながら10キロ走って家へ帰宅されています」
「……昨日の夜は部屋から出ていなかったか?」
「はい、昨日の夜も出口と窓の下を監視していましたが…ご子息は部屋から一歩も出ていません」
監視役の男はそう事実を述べる。
「そんなバカな…俺の息子だぞ!?」
父はいつか必ず何かやらかすのでは?とその頃から今までディオスをずっと監視させていたがディオスが女性と仕事以外で接触することはなかったのだ。
「本日ご子息はご庭園で女性のハンカチを握りしめ、遠くを見つめてらっしゃいました」
「ついにやったか!ディオス!」
父は監視役の言葉に立ち上がると電話に手をかけた。
通報だ。
「…父さんバカだなぁ…」
そこににゅるりと入室した長男が呆れたように言った。
「おい!親をバカだと言うなー!お前はー!」
「ごめん、ごめん…いい?父さん…ディオスは俺たちと別の生き物なんだよ、相容れない存在なの」
「相容れない?」
父はそっと受話器を置くと長男の方を向いた。
「そう…あいつは多分身も心も一人の女を愛せるタイプの人種だ」長男はゆっくりと壁にもたれ掛かると腕を組む。
「な、な、なんだと!?都市伝説じゃないのか!そんな男は!」
「いるんだよ…うちに…いたんだ」二人は顔を見合わせると信じられないようなものを見た顔をした。
「し、信じられん…実在したとは…しかも直ぐ側に!」
「そう…怪異はいつも直ぐ側にあるもんだ」
「恐ろしい…」
「恐ろしいよな…生涯一人の女としかやれないなんて…」
「ああ、信じられん」
二人は盛大にため息をつくと父はディオスに真偽を確かめるために呼び出した。
そこでディオスはほぼ「はい」という1語のみでまさかのハルヴァとの婚約を勝ち取ったことを今の彼はまだ知らない。
「……なに?」
夕食後兄に手招きをされてディオスは訝しげな顔をした。
小さい頃、そうして蛙を握らされたのを思い出したからだ。
「バカ!そんな顔をするな!いいか?兄ちゃんの言う事をよく聞け?」
「……なに?」
ディオスは内心(嫌だなぁ)と思っていたのだけれど、幼少期からの刷り込みにより兄に逆らえない身体が出来上がっていた。
「これからお前は父さんに呼び出される」
「……なに?」
「バカ、黙って聞け!その時全部『はい』と答えるんだ、いいな?」
「……わかった」
ディオスは心の奥底から嫌な予感がしたが、刷り込みパワーでそう返事をした。
(第一、なぜ呼び出されるんだろう…)
ディオスの胃は何もした覚えはないのにジクジク痛んでいく…
「ディオス久しぶりだなぁー、お前毎日家に帰ってきてるか?」
ディオスの父が呑気な声を出した。
ディオスは勿論毎日家に帰ってきているが、極力身を潜めている為家族とあまり会わないのだ。
大人しいディオスには彼らのパリピ気質が眩しすぎた。
「はい」
ディオスは早速兄の言いつけを守る。
偉いぞディオス、忠犬ディオス。
「今日こんなにかしこまったのはなぁ…ディオス、お前ハルヴァ・ローレンスという女性は知ってるか?」
「……はい」
ディオスはギラギラと欲を隠せなくなってくる目を隠すように顔を俯かせた。ハルヴァの名前を聞いただけで心の底から欲望が湧き上がってくる気分がする。
「……会ったことがあるのか?」
「はい」
ディオスは膝についた手を握った。
「好いてるのか?ハルヴァ嬢を?お前が?人間の女性、ハルヴァ嬢を?」
「は?は……は、はい」
なぜ自分の気持ちを父が知っているのか?ディオスは動揺から返事が乱れた。
「ほぉ…なるほど…そうかぁ…」
「……はい……」
「もしかしてだけど…ハルヴァ嬢と結婚したいと思ってる?ディオスが?人間の女性と?あのディオスが?結婚したいと思ってしまった?」
「はい?はいはいはいはい!」ディオスは顔を上げると父を見た。父はディオスの顔をじっと見つめてから「大丈夫か?」と言ったのでディオスは兄の言いつけ通り「はい!」と答えた。
父は幼少期から他と違って大人しいディオスが心配で心配でたまらなかった…
ディオス以外の子どもたちのあけっぴろげな性格に対して、ディオスはとても大人しく無口だった。
中等部に入ってからもあまりにも女っ気のないディオスに対して父は人を雇い監視させている位心配だったのだ。
(あいつは陰でなにか犯罪めいたことをしているのではないか?)と
自分たちの子なのにも関わらず女性に対しても男性に対してもあんなに大人しいのはあり得ない、と考えた父は息子が陰で人間か何かを犯して性欲を発散させているか…
または性欲を何か別な形で発散している可能性を考えたのだ。
例えば…子猫を殺したりだとか…
父は不安でたまらず母に相談したが
「あの子は気が優しいから大丈夫よ!一途なんじゃないの?今好きな子がいないだけよ」とヘラヘラ笑いながら軽く言ったので
(駄目だコイツは…)
とディオスの父は肩を落としたのだ。
ディオスの父だって母に対して一途な想いがある。
ただ、他のかわいい女性を見たら一回関係を持たないと気がすまないだけだ。
愛してるのは母だけだ。
しかし、性欲は別なのだ。
そうして父はディオスの監視を依頼することになったのだが…報告書を見てあいた口が塞がらなくなるのだった。
「……どういうこと?」
「はい、見たままでして…ご子息は本日、勉学を終えてから道端にいた猫に擦り寄られたので優しく撫でた後家に帰宅。部屋で筋トレをした後にランニングへ。ランニング先でも鳥が頭に止まったので体幹を揺らさないように気をつけながら10キロ走って家へ帰宅されています」
「……昨日の夜は部屋から出ていなかったか?」
「はい、昨日の夜も出口と窓の下を監視していましたが…ご子息は部屋から一歩も出ていません」
監視役の男はそう事実を述べる。
「そんなバカな…俺の息子だぞ!?」
父はいつか必ず何かやらかすのでは?とその頃から今までディオスをずっと監視させていたがディオスが女性と仕事以外で接触することはなかったのだ。
「本日ご子息はご庭園で女性のハンカチを握りしめ、遠くを見つめてらっしゃいました」
「ついにやったか!ディオス!」
父は監視役の言葉に立ち上がると電話に手をかけた。
通報だ。
「…父さんバカだなぁ…」
そこににゅるりと入室した長男が呆れたように言った。
「おい!親をバカだと言うなー!お前はー!」
「ごめん、ごめん…いい?父さん…ディオスは俺たちと別の生き物なんだよ、相容れない存在なの」
「相容れない?」
父はそっと受話器を置くと長男の方を向いた。
「そう…あいつは多分身も心も一人の女を愛せるタイプの人種だ」長男はゆっくりと壁にもたれ掛かると腕を組む。
「な、な、なんだと!?都市伝説じゃないのか!そんな男は!」
「いるんだよ…うちに…いたんだ」二人は顔を見合わせると信じられないようなものを見た顔をした。
「し、信じられん…実在したとは…しかも直ぐ側に!」
「そう…怪異はいつも直ぐ側にあるもんだ」
「恐ろしい…」
「恐ろしいよな…生涯一人の女としかやれないなんて…」
「ああ、信じられん」
二人は盛大にため息をつくと父はディオスに真偽を確かめるために呼び出した。
そこでディオスはほぼ「はい」という1語のみでまさかのハルヴァとの婚約を勝ち取ったことを今の彼はまだ知らない。
1,495
お気に入りに追加
2,403
あなたにおすすめの小説
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら
黒木メイ
恋愛
筆頭聖女の私にはルカという婚約者がいる。教会に入る際、ルカとは聖女の契りを交わした。会えない間、互いの不貞を疑う必要がないようにと。
最初は順調だった。燃えるような恋ではなかったけれど、少しずつ心の距離を縮めていけたように思う。
けれど、ルカは高等部に上がり、変わってしまった。その背景には二人の男女がいた。マルコとジュリア。ルカにとって初めてできた『親友』だ。身分も性別も超えた仲。『親友』が教えてくれる全てのものがルカには新鮮に映った。広がる世界。まるで生まれ変わった気分だった。けれど、同時に終わりがあることも理解していた。だからこそ、ルカは学生の間だけでも『親友』との時間を優先したいとステファニアに願い出た。馬鹿正直に。
そんなルカの願いに対して私はダメだとは言えなかった。ルカの気持ちもわかるような気がしたし、自分が心の狭い人間だとは思いたくなかったから。一ヶ月に一度あった逢瀬は数ヶ月に一度に減り、半年に一度になり、とうとう一年に一度まで減った。ようやく会えたとしてもルカの話題は『親友』のことばかり。さすがに堪えた。ルカにとって自分がどういう存在なのか痛いくらいにわかったから。
極めつけはルカと親友カップルの歪な三角関係についての噂。信じたくはないが、間違っているとも思えなかった。もう、半ば受け入れていた。ルカの心はもう自分にはないと。
それでも婚約解消に至らなかったのは、聖女の契りが継続していたから。
辛うじて繋がっていた絆。その絆は聖女の任期終了まで後数ヶ月というところで切れた。婚約はルカの有責で破棄。もう関わることはないだろう。そう思っていたのに、何故かルカは今更になって執着してくる。いったいどういうつもりなの?
戸惑いつつも情を捨てきれないステファニア。プライドは捨てて追い縋ろうとするルカ。さて、二人の未来はどうなる?
※曖昧設定。
※別サイトにも掲載。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる