【R18】さよなら、婚約者様

mokumoku

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「大丈夫?大丈夫ですか?」
ペタペタと顔を叩かれてディオスは目を覚まし、身を起こすと痛みに頭を抱えた。
「大丈夫ですか?気分が悪い?」
背中を優しく擦られてディオスは咳き込みながら「大丈夫…」と言うとその声の主は優しくハンカチを差し出してきたのだ。

「頭を打ったから心配…」

ディオスはその女性の態度と容姿に一目惚れしてしまった。
看護助手の制服を着たその女性はまさに白衣の天使だった。

(……運命の出会い…真実の愛…)

ぼんやりと女性を見つめるディオスに彼女は少し困惑した様子で「意識が朦朧としているのかな?」とハンカチでディオスの布から露出している部分の汗を拭い、「すごい汗…これどうぞ」とハンカチを渡してくれる。


ディオスが受け取ったハンカチにはハルヴァ・ローレンスと刺繍がしてあって、それを見たディオスが顔を上げた時にはもう彼女の代わりに別の看護助手の女性が横についていた。


その日結局ディオスは血の戦争には参加せずに診療所から帰宅したのだが…その夜は自慰行為がやめられなかった。

(どうしちまったんだ俺は…)

ディオスは頭を打ったせいで自分が嫌で嫌でたまらない家族と同じ、性欲モンスターになったのだと絶望して頭を抱えながら男性器も扱き上げる。

次の日ディオスはハルヴァにハンカチを返すという名目で診療所を訪れていた。性衝動も落ち着いていたし、何よりも彼女にまた会いたかった。

ディオスはハルヴァが待合室の掃除をしているところに遭遇したので、声をかけようとするが…。
「ハ、ハル…」その時、ディオスは言い表すことのできない位の衝動を感じて胸を押さえた。
彼女に襲いかかり、めちゃくちゃにしたい衝動を。


ディオスはハァハァと息を荒げるとその場から去った。

(……やっぱり俺は父と母の子どもなんだ…)

ディオスは部屋に駆け込むと、ガチガチに硬くなった陰茎を押さえつけるようにして握り、泣いた。
ただハルヴァに会って話をしたいだけだ、それなのになぜこんなことになってしまうんだろう…
ディオスは陰茎を握りしめてハルヴァのこと想うと射精した。
そんな自分も汚らわしくて嫌だった。



「ディオス、どうしたんだよ」
ディオスがハルヴァのハンカチを眺めながら庭で黄昏れていると長兄がニヤニヤしながら話しかけてきた。
ディオスは慌ててハンカチを隠すと「なんでもない」と兄に言う。なんだかハルヴァの存在を兄に知られたくなかったのだ。

「バカ、何年お前の兄をやってると思ってんだよ!女か、ふーん、ハルヴァというのか?変わった名前だな」
「……」
ディオスは図星すぎて兄を見た。(もしかして兄はもうハルヴァ殿のことを知っているのでは…?)嫌な想像が働き物凄く嫌な気分になる。
(兄がもしハルヴァ殿を知っていて、ハルヴァ殿と恋人同士だった場合…俺はどうしたらいいんだ)
「そんな目で見るな。知らない…こんな女は!ハンカチに名前が刺繍してあるから読んだだけだ!…それにな?兄ちゃんが弟の好きな女をとるような男だと思うか?」
(思う…)ディオスはじっと兄を見つめた。
「まあまあまあまあまあ…な?そうなんがそうではないんだって!」




「……は、私を上等兵に、でございますか?」
「そうだ、ディオス。魔女からの指示でな。お前を戦闘部署から外せ、と言われた」前を歩くキミアナに背中越しにそう伝えられる。
着いてこい、と言われたが…
ディオスは意味もわからずキミアナの背を追った。

キミアナはディオスの3個上で、階級も一つ上の女兵士だ。
彼女も元々下級兵士でディオスと同じ部隊だったが、魔女に気に入られてつい最近、上等兵になった。

「よかったじゃないか、もう死ぬ心配を過度にすることはない」
キミアナは美しい赤い髪を左右に揺らしながら堂々と前を行く。

「……あの、どこに向かっていますか?」
ディオスはおずおずとそう尋ねるとキミアナは歩みを止めて振り返り「……軍事司令室だ」と言った。




「キミアナ・アレヴァンティス、ディオス・バルディガル。二人を魔女交渉部隊へ異動を命じる」
長官が革張りの椅子に座りながらゆったりとそう言った。
「…はっ」
「……は、はい」
ディオスはキミアナが跪きながら了承したのを見て、慌てて自らも膝をついた。
(俺が魔女交渉部隊に…?)

魔女との交渉は本来エリートがする仕事だ。
魔女の機嫌を損ねては国が終わる。

本来ディオスのような下っ端が就くような仕事ではない。
「……魔女が直接お前たちを指名してきた。半年後、魔女に会いに行ってもらうぞ?……お待ちだからな」
ディオスは頭の中が『?』で満杯になったが、自分に拒否権などないのは知っていたので「はい」と返事をした。



「キミアナ様!なぜ、我々二人がこんな大役を任命されたのでしょうか?あ、いや…キミアナ様はわかりますが、自分は優秀な方ではないですし…」
ディオスは軍事司令室から出て暫く歩いた先で耐えきれずキミアナに疑問を投げかけた。
キミアナはディオスの方をくるりと振り返り、美しい髪をかき上げながら「知らん」と口もとだけで笑った。

キミアナは女性ながらに腕っぷしが強く賢い女性だった。
同期の中でもぐんぐんと出世していく…と同じ部隊の先輩が嘆いていて、ディオスはそんな先輩の小さくなった背中を良く擦ったものだ。

「……私は使えるものは全部使ってるからな」

キミアナは僻みの視線が向けられる中、美しい髪をバサリと靡かせながらそうよく言っていたものだ。

そんなことをディオスが思い出しながらぼんやりしているとキミアナが自嘲気味に笑いながら「……どうしても上に行かねばならんかったから…私はこれでよかったんだ」と言ったのが物凄く記憶に残った。
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