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「え?ディオス様が?」
「ああ、客間に通しているが…」
眉を寄せる父にハルヴァは首を傾げながら客間に向かう。
そもそも父はディオスをどう思っているのか…
ハルヴァの中で小さな疑問が生まれていく。
(そう言えば元々…私とディオス様の結婚…歓迎していたのかな?)
ハルヴァには10歳下の妹がいる。
母が死ぬ前にはまだ乳児だった。
だからハルヴァは一人娘というわけではない。
愛されているが、過剰に愛されてはいない。
それでも…ディオスの結婚が決まった際、父は浮かない顔をしていなかっただろうか。
(そう言えば…聞いた事がなかったなぁ…)
ハルヴァはぼんやりとそんな事を考えながら客間のドアノブに手を掛けた。
「失礼いたします。すみません、お待たせして…」
「いや、ひ…久しぶりだな」
客間のテーブルに腰掛けたディオスは座ったままそう言った。
「そうですね。お元気でしたか?」ディオスと向かい合ったハルヴァは胸にじんわりとした温かさが広がっていく気がして頭を振った。
(……なんだろう…へんな気分がする。久しぶりだからかな…)
ハルヴァも向かい側に腰を下ろすとテーブルクロスを捲るようにしてスカートにシワができないように広げた。
「し、しばらく会えなくて…そ、訓練場にもいなかっただろ?……すまんかったな…連絡もせず…」
「へ?あ、ははははい、そうですね」
(一回も会いに行ってないなんて言えない!)
「ちょっと特殊な任務でな、遠くに行っていたんだ」
「そうなんですね」
ディオスは左手でカチャカチャとカップの中身をかき混ぜると口を付けた。ひどく緊張しているのか、ディオスは額に浮かぶ汗を手の甲で拭う。
喉が渇くのか、しきりにカップを傾けている。
「……今日はどうなさったのですか?何かご用事でも…?」
ハルヴァはそう言いながら心臓が口から飛び出しそうだった。
これから何を言われるのか…聞きたいような聞きたくないようなそんな気分になって、胃がドロドロになっている気分だ。
「そ、そ、そ、そそそそそそそそ」
「楚々?粗相?」
ディオスが汗をかきながら「そ」をただひたすらに繰り返しているのを見て、ハルヴァは心配になってきてしまった…やはり調子が悪いのでは…?と思ったのだ。
「大丈夫ですか?体調が悪いならまたの機会に…」ハルヴァがそう言って立ち上がろうとするとディオスは「そろそろ結婚を!」と大きな声で言った。
「え?」
ハルヴァは予想外の言葉に目を丸くしてディオスを見た。
その時、初めて目が合った。
婚約して初めて二人の視線が合った瞬間だった。
ディオスは顔を真っ赤に染めてハルヴァを見つめていた。
本当に初めて?
ハルヴァはそこから目が離せなかった…少しずつ、彼の目はギラギラと欲に満たされていく…ハァハァと荒い息はディオスのものだろうか…
(前にも)
ハルヴァがぼんやりとそう考えているとディオスは勢いよく立ち上がり、ハルヴァに手を伸ばそうとした後…後ろに突き飛ばされるように席に着いた。
ハルヴァが驚いて腰を浮かせると「す、すまん」とディオスは再び俯いた。
「…………」
「ま、まだ一緒には住めんが、そ、そそそそそそそ」
「そ?」
「こうして会って…夫婦の時間を」ディオスはテーブルに頭が付く勢いで俯いていくとほぼ顔が見えない状況でそう言った。
「夫婦の時間?」
ハルヴァは謎の時間に首を傾げて(やっぱり婚約解消はしてくれないのだ)と思い、なんだか安堵したような…ガッカリしたような…困るような気分に翻弄されていた。
その時ドン!と下からテーブルを叩き上げるような音がして「ハッキリ言え!ディオス!」と凛とした女性の声がした。
ハルヴァは驚いてテーブルクロスを捲るとそこには「しまった」という顔をした美しい女性…ディオスとともに船から寄り添い降りてきた女性兵士が身体を小さくしてテーブルの下に隠れている姿が見えた。
「……え?」
ハルヴァが思わず声を上げるとそこから這い出てきた女性兵士はディオスの陰に隠れるように背後に回り、ディオスは女性をハルヴァから護るように半身になった。
ハルヴァはそれを目の当たりにして…
ショックに泣き出しそうになってしまった。
(わ、私…何もしないわ。いじわるなことも…ましてや攻撃なんて!……だってあなたたちに勝てるわけないもの…私の運動神経はゼロよ…!)
ハルヴァが言葉を失っていると「きょ、今日はこれで失礼する」とディオスは女性兵士を隠すように寄り添い部屋から出て行った。
「なんだそりゃ!」
メソメソと泣きながら箒を動かすハルヴァに、サラが声を荒げた。「本当なの…結婚しよう、と言われたと思ったらテーブルの下からあの女性兵士が出てきたの…何これ…意味わかんない…」
ハルヴァはそう言うと声を殺してすすり泣いた。
「ハルヴァ大丈夫?辛かったね…あいつらは死ねばいいね」
「うっ…も、もう関わらないで欲しい…」ハルヴァはヒグヒグ言いながら箒を動かした。
「ハルヴァ…」
「うっ…こ、こ、婚約解消……し、してくれればいいのにっ……うっ、な、なんでしてくれない……ん、だろう……」
ハルヴァは子どものように喉を鳴らしながら泣くとそんな彼女の心とは裏腹に床はドンドンキレイになっていった。
「ああ、客間に通しているが…」
眉を寄せる父にハルヴァは首を傾げながら客間に向かう。
そもそも父はディオスをどう思っているのか…
ハルヴァの中で小さな疑問が生まれていく。
(そう言えば元々…私とディオス様の結婚…歓迎していたのかな?)
ハルヴァには10歳下の妹がいる。
母が死ぬ前にはまだ乳児だった。
だからハルヴァは一人娘というわけではない。
愛されているが、過剰に愛されてはいない。
それでも…ディオスの結婚が決まった際、父は浮かない顔をしていなかっただろうか。
(そう言えば…聞いた事がなかったなぁ…)
ハルヴァはぼんやりとそんな事を考えながら客間のドアノブに手を掛けた。
「失礼いたします。すみません、お待たせして…」
「いや、ひ…久しぶりだな」
客間のテーブルに腰掛けたディオスは座ったままそう言った。
「そうですね。お元気でしたか?」ディオスと向かい合ったハルヴァは胸にじんわりとした温かさが広がっていく気がして頭を振った。
(……なんだろう…へんな気分がする。久しぶりだからかな…)
ハルヴァも向かい側に腰を下ろすとテーブルクロスを捲るようにしてスカートにシワができないように広げた。
「し、しばらく会えなくて…そ、訓練場にもいなかっただろ?……すまんかったな…連絡もせず…」
「へ?あ、ははははい、そうですね」
(一回も会いに行ってないなんて言えない!)
「ちょっと特殊な任務でな、遠くに行っていたんだ」
「そうなんですね」
ディオスは左手でカチャカチャとカップの中身をかき混ぜると口を付けた。ひどく緊張しているのか、ディオスは額に浮かぶ汗を手の甲で拭う。
喉が渇くのか、しきりにカップを傾けている。
「……今日はどうなさったのですか?何かご用事でも…?」
ハルヴァはそう言いながら心臓が口から飛び出しそうだった。
これから何を言われるのか…聞きたいような聞きたくないようなそんな気分になって、胃がドロドロになっている気分だ。
「そ、そ、そ、そそそそそそそそ」
「楚々?粗相?」
ディオスが汗をかきながら「そ」をただひたすらに繰り返しているのを見て、ハルヴァは心配になってきてしまった…やはり調子が悪いのでは…?と思ったのだ。
「大丈夫ですか?体調が悪いならまたの機会に…」ハルヴァがそう言って立ち上がろうとするとディオスは「そろそろ結婚を!」と大きな声で言った。
「え?」
ハルヴァは予想外の言葉に目を丸くしてディオスを見た。
その時、初めて目が合った。
婚約して初めて二人の視線が合った瞬間だった。
ディオスは顔を真っ赤に染めてハルヴァを見つめていた。
本当に初めて?
ハルヴァはそこから目が離せなかった…少しずつ、彼の目はギラギラと欲に満たされていく…ハァハァと荒い息はディオスのものだろうか…
(前にも)
ハルヴァがぼんやりとそう考えているとディオスは勢いよく立ち上がり、ハルヴァに手を伸ばそうとした後…後ろに突き飛ばされるように席に着いた。
ハルヴァが驚いて腰を浮かせると「す、すまん」とディオスは再び俯いた。
「…………」
「ま、まだ一緒には住めんが、そ、そそそそそそそ」
「そ?」
「こうして会って…夫婦の時間を」ディオスはテーブルに頭が付く勢いで俯いていくとほぼ顔が見えない状況でそう言った。
「夫婦の時間?」
ハルヴァは謎の時間に首を傾げて(やっぱり婚約解消はしてくれないのだ)と思い、なんだか安堵したような…ガッカリしたような…困るような気分に翻弄されていた。
その時ドン!と下からテーブルを叩き上げるような音がして「ハッキリ言え!ディオス!」と凛とした女性の声がした。
ハルヴァは驚いてテーブルクロスを捲るとそこには「しまった」という顔をした美しい女性…ディオスとともに船から寄り添い降りてきた女性兵士が身体を小さくしてテーブルの下に隠れている姿が見えた。
「……え?」
ハルヴァが思わず声を上げるとそこから這い出てきた女性兵士はディオスの陰に隠れるように背後に回り、ディオスは女性をハルヴァから護るように半身になった。
ハルヴァはそれを目の当たりにして…
ショックに泣き出しそうになってしまった。
(わ、私…何もしないわ。いじわるなことも…ましてや攻撃なんて!……だってあなたたちに勝てるわけないもの…私の運動神経はゼロよ…!)
ハルヴァが言葉を失っていると「きょ、今日はこれで失礼する」とディオスは女性兵士を隠すように寄り添い部屋から出て行った。
「なんだそりゃ!」
メソメソと泣きながら箒を動かすハルヴァに、サラが声を荒げた。「本当なの…結婚しよう、と言われたと思ったらテーブルの下からあの女性兵士が出てきたの…何これ…意味わかんない…」
ハルヴァはそう言うと声を殺してすすり泣いた。
「ハルヴァ大丈夫?辛かったね…あいつらは死ねばいいね」
「うっ…も、もう関わらないで欲しい…」ハルヴァはヒグヒグ言いながら箒を動かした。
「ハルヴァ…」
「うっ…こ、こ、婚約解消……し、してくれればいいのにっ……うっ、な、なんでしてくれない……ん、だろう……」
ハルヴァは子どものように喉を鳴らしながら泣くとそんな彼女の心とは裏腹に床はドンドンキレイになっていった。
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