【R18】さよなら、婚約者様

mokumoku

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「休みだろ?…どっかに出掛けるぞ」
休日、不機嫌そうなディオスがやってきて物凄く嫌そうにハルヴァにそう言った。
(隠れ蓑に逃げられては堪らないものね…でももう私は大丈夫なんです!ディオス様の恋…応援していますからね!)
以前のハルヴァなら喜んで付いて行っただろうその誘いに。例え先客があったとしても全て断ってディオスの為に時間を作っただろう。いつもハルヴァから誘って嫌嫌出掛けてもらっていたのでディオスからのお誘いは初めてだ。

(やっとディオス様の心が戻ってきた!)とニッコニコだったに違いない。しかしハルヴァは生まれ変わっていた。

「大変申し訳ありません、今日は…友人と約束がありまして」
ハルヴァは頭を下げるとそう言いながら謝罪をした。

「な?だ、誰だ友人は!」
「サラという…あの、職場の友人です。女性の」

ハルヴァはそう言うと扉をソッと閉めた。後に行く先を言っておかなければディオスが恋仲の女性と出かけるときにハルヴァに会ってしまうかも…と不安になるのでは?と思い「あの、競技場に試合を観に行くんです。国立競技場です」と告げてまた扉を閉めた。

ハルヴァの住んでいる地区には結婚まで至る方法が3種類ある。
一つは本人同士が望んでするもの。
もう一つは家同士の約束事や片方が結婚を望み、もう片方がそれを了承した契約的なもの。
そして最後に魔女が選出した者同士を結婚させるものだ。

この国は東西南北の地域に分かれていてそれぞれに支配者である魔女がいる。ハルヴァの住んでいる所は北で、特に魔女の気性が荒い。
ハルヴァの地区の魔女は彼女が思う面白い組み合わせで結婚するように命じることがあるのだ。この場合拒否権がない。
二人は必ず結婚し、最低でも一人は子どもを産まなければ離縁する権利を手に入れることができない。
例えば珍しい目の色同士や、髪の色…等外見による結婚の場合もあれば、物凄く怒りっぽい者同士や飽きっぽい者同士等内面の個性による結婚の強要もある。

どんな子どもが生まれるのか見るのが楽しいのだ。
生まれた子どもは魔女が気に入れば直接彼女の下に就くことができて将来安泰だ、とも言われている。


それは18歳までの者同士を選出するらしいのでハルヴァは関係ないのだが…何を言いたいのかというと、ディオスの好きな女性はその結婚の被害者なのではないか?とハルヴァは考えていた。

(魔女に強要された結婚…身体の関係を持たなければできない離婚…)

ハルヴァは気の毒な状況に眉を下げて、自分だけは理解してあげよう。と思った。ハルヴァはそもそも子どもは自分では育てられない、と思っていたのでコレでよかったのだ…とも思う。
自分のような存在が増えてはかわいそうだし、何よりもディオスは自分とそんな関係になることなどないだろう。


ディオスと別れてしばらくするとサラが迎えに来てくれた。
サラの家の馬車に乗り込みパンフレットを見せてもらう。



昨日仕事終わり、サラがレジェンドが集まる試合があるから行こうと鼻の穴を膨らませながら誘ってきたのだ。
「え?なにそれ?」
「隊長レベルのイケオジが鍛錬場で試合をするの!レアイベントだから行こう!絶対行こう!行く!行くんだよ!ちょっと若いけど仕方がない…背に腹は代えられない!」
サラは興奮に目をぐるぐるさせながらハルヴァの腕を引っ張る。
「わ、わ、わかった!わかった!行く…行くから!」




ハルヴァは入口でもらった試合表を丸めては開き…丸めては開くを繰り返しながらしみじみとサラに言った。

「でもそれはどこかで会ってるのかもよ?忘れてるだけで…」
「私…傷病兵のお世話ばかりだし…下っ端兵の…ディオス様は上等兵だから危ないところに行かないだろうし会ってないと思う」
「まあ、確かに…あまりちょこまかと怪我はしなさそう」
「当時はそれを信じていたんだから…本当浮かれていると正常な判断ができないものよね…」ハルヴァはそう言うと観客席に腰を下ろす。

会場には体格のいいイケオジ達がゾクゾクと入場する。
サラはオペラグラスでそれをフガフガしながら眺めている。ハルヴァはなんだか悲しい気分でそれを眺めた。
(私もディオス様がこれくらいの年齢になったとしても…一緒にいるんだ、とよく妄想していたものだわ)
なんだかんだあんな態度は取られているけれど、それでも望まれているんだし!と
もしかしたら照れているのかもしれないから慣れたらきっと普通の夫婦のようになれる。と




ハルヴァはため息をつくと「ちょっとお花を摘みに行ってくる…」と席を立った。ワーワーと歓声を背後に聞きながらトボトボ歩いていると、遠くにディオスが顔を真っ赤に染めながら照れくさそうに後頭部を擦っているのを見た。
向かい側には長身で凛々しい美人の女性が…兵士服を着用している。長い脚にぴったりとしたスボンがよく似合うスタイル最高の女性…赤い髪を後ろで纏めて大きな瞳でディオスを見つめている。

ハルヴァはドキドキする胸を押さえて柱の陰に隠れた。

(ディ…ディオス様たちもレジェンド鑑賞に来ていたとは!!)
よく考えたら二人は兵士なのだからこういったイベントにも参加したりするだろう。
ディオスの初めてみた様子にハルヴァは(好きな女性の前ではあんな感じなんだ…私とは全然正反対な女性だし…やっぱり私は隠れ蓑みたい!)ハルヴァがそう自分に言い聞かせて振り返ると「あ、やっぱりハルヴァ」
と職場の先輩がクスクス笑いながら立っていた。
「あ、先輩…お疲れ様です」
ハルヴァは深々とお辞儀をすると顔を上げ、嗜虐的な顔をして笑う先輩を見上げた。
「ねえ、あれディオス様じゃない?」
「あー、はい!」
「あの女性よ?前も一緒にいた」
「あ、そうなんですね!」先輩の言葉にハルヴァは(やっぱりあの人がそうなんだ!)と思う。ハルヴァがあっけらかんとしているのが気に食わなかったのか先輩が「あなたなんか多分二人の隠れ蓑なんでしょうし…」と言ったのでハルヴァは「あのー…それ、他の方には内緒にしてもらえます?」とコッソリ耳打ちをした。




「遅かったね!めちゃくちゃイケオジ祭りでございましたことよ」席に戻るとサラは鼻をハンカチで拭いながらオペラグラスを覗いている。


先ほどの先輩はハルヴァが耳元で囁くと「何よ!気持ち悪いわね!」と声を荒げていなくなってしまった。
サラにそれを話すと「一人で来たのかな…先輩、ぼっちやん」と喉の奥で笑いながら言ったのでハルヴァはなんだか先輩に親近感が湧いた。
ハルヴァもサラがいなければ「ぼっち」だ。


「あ、ほらほら!ハルヴァ?あなたの好きそうなイケおじがいるよ!まあ、若いけど」サラが鼻血を拭いながらオペラグラスを貸してくれた。
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