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「シュンスケー!どっか行こうよ!週末とかさー!」
「週末は予定があるんだ」

シュンスケはそう言うと炬燵の下でイトの手をギュッと握った。
イトは(私とお出かけしてくれるってことかな?)と嬉しくなったので手を握り返す。
「え?誰と?まさかイトさんとじゃないよね?ははは…」
シュンスケは口角を上げるとその質問には答えなかった。
イトは顔が赤くなっている気がしたので俯く。
「はー?なに?そのリアクション!ねーイトさんなんか予想ないの?」
「い、いいえ……検討もつきません」
「……好いた女と行く」
シュンスケは顔を真っ赤にするとそうポツリと言う。サツキが眉を寄せて心底嫌なことを聞いたような顔をした。
「はあ?シュンスケそんな人いるの!?はぁ!?イトさん!いいの?」
「あー……はい……」
「出会いは土蔵の前で彼女が困っていたのを助けたのがきっかけで……」
イトはそれを聞いて顔が赤くなっていく気がしたので慌てて更に下を向く。シュンスケがキュッとイトの手を握りしめ、さり気なく膝を寄せてきた。
イトはなぜだか子宮がシュンスケを求め始めてきてしまい、混乱した。(今すぐ抱きつきたいけど……サツキさんがいるし……)

「は!?話さなくていいよ!何勝手に馴れ初め話してんの!?聞きたくないけど!」
「その時に運命を……」
「はー!?もう話すなっつーの!」



イトは後ほど思った。
これがいけなかったのかもしれない、と。



その日の夜から……義母の監視がキツくなったのだ。



イトがいつものように寝たふりをしているとシュンスケが寝床にやってきた。二人ともこれから始まる交わりにウッキウキかつノリノリでシュンスケがイトの布団に潜り込もうとしたその時……バンッと力強く襖が開いた。
「シュンスケ?それはあなたの布団じゃないでしょ?」
「あ……ああ……暗くて……」
「イトさんが起きてしまうでしょ?間違えちゃ……かわいそうじゃない」
義母は薄っすらと微笑むとそう言って襖を閉めた。
ぴったり閉じず、隙間を空けて……
シュンスケが閉じようと立ち上がり手を伸ばすと義母がニョキッと顔を突き出してきた。

「閉めない方がいいわ。風が通るから」

シュンスケは諦めた。
イトと交わっているのがバレたら自分が知らない間にイトがどんな目に合うかわからない。
自分はどうしたって仕事には行かなければならないのだ。

イトも期待に興奮した身体を懸命に治めつつ……眠れない夜を過ごした。
(ああ……シュンスケさんのを身体の中に欲しい……)
二人はそっと布団の中で手を握り合った。
そして思ったのだ。

(朝すればいいのでは?)

と(そんなに時間もかからないし)と



「おはよう、イトさん」
「お、おはようございます……すみません寝坊を?」イトが目覚めると同時位に襖からニョキッと顔を出した義母から挨拶をされた。
「いいえ~今日たまたま私が早く目が覚めたものだからね?迎えに来たのよぉ」
「あ、そうでしたか」
「……私ね、男性と言えど……初めての相手は好いた女性がいい、そう思うの。親として、息子の幸せを願いたいのよ。わかる?イトさん」
「……?はい」



シュンスケとイトの心は一つになった……(このヤロウ……)


こうして毎日毎日……二人で会うのを邪魔されたイトとシュンスケは心の中が性でみっちみちになった。

(ハァ……は、早くイトと交わらなければ……)
(シュンスケさんと一生このまま交わらなければ……)

((死んでしまう……!))


「父さん、母さん?週末みんなで街に行きませんか?」シュンスケは夕食時……目をバッキバキにさせてそう提案した。

「あらあらシュンスケ?いいの?好いた女性は?」
「ははは、それはサツキに言った冗談ですよ。元々家族と行く予定でしてね。大衆演芸を観に行きましょう」
義母はご機嫌そうに笑っている。
シュンスケは目をバッキバキにさせて爽やかに笑った。

イトは信じていた。
シュンスケの性欲を。


(きっと週末……何かある!)



穏やかな日々が続いた。
義母は相変わらずイトを起こしに来るが、週末を楽しみにイトは頑張った。明日はいよいよ週末……そんな時、シュンスケが玄関に佇んでいた。
イトはそれをチラリと横目で確認して……(シュンスケさん……何をしているんだろう)と胸を疼かせた。




「イトさん!なにトロトロ歩いてるの?さっさと来なさい」

「はい、お義母さん!」

当日、イトはとても朗らかだった。
いつもは腹が立つこの義母の態度も……これから起こるであろうシュンスケとの営みを考えればご機嫌になれるのだ!
(ふふふ、今日はちゃんと速度を上げてあげよう!でも……なんだか歩きづらいなぁ……)
イトは片足を引きずるように歩いた。

「いい?イトさん!ボーッとしない!わかった?」
「はい、わかりました」

イトは駅で義母に腕を引かれてシャキシャキ歩くことを強要された。以前駅でぼんやりしていてはぐれた前科があるからだ。
義母はプンプン怒りながらもシュンスケからイトの切符を受取り差し出してくる。
「ほら、これを出す!」
「はい」
「母さん、もっと優しく」
「あ、大丈夫です」
シュンスケは助け舟を出してくれたが、イトはそれをそっと遠慮した。義母がお世話を焼いてくれているのでイトはそれに身を委ねた。
(これはこれで楽かも……)
イトは義母に引っ張られながら汽車に乗り込み、義母に引っ張られながら席に座った。二人ずつ向かい合う席の義母の向かいがシュンスケで、イトの向かいが義父だ。

チラリとシュンスケを見ると禍々しい眼差しで義父を見ていたのでイトは思わず吹き出した。
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