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「ああ……イトの肌はすべすべだなぁ……」
シュンスケはイトの夜着の下から手を差し入れると太ももから臀部にかけて撫でた。
少しカサカサとした手のひらがくすぐったい。
シュンスケはイトの首すじにキスをすると下着の上から男性器を当ててきた。
「……イト……」
それはとても熱くて硬くてイトの肉が無意識に蠢いた。
「ん、…」
イトのヒダがシュンスケの男性器の表面を包む。
下着が間にあるとは言えそれはまるで性行為のようだ。
「イト……イト……」シュンスケは強くイトを抱き寄せるとすがりつくようにそう囁いた。






「……おはようございます」
「おはよう」

イトが目を覚ますと気だるげなシュンスケは身を起こし、布団の上で胡座をかいた。「寒いな」
イトは立ち上がると衣紋掛けからシュンスケの上着をとって彼の肩に掛けた。
「ありがとう」
イトは髪に櫛を通すと後ろで一括りに結ぶ。
その時視線を感じたので軽く振り返るとシュンスケはまたギラギラした目をイトに向けていた。
(……こ、怖いんですけど……)
それは一瞬のことですぐに逸らされたけれどイトはなんだかモヤモヤしてしまう。(……なんで私をそんな目で見るのシュンスケ!……それとも見間違いかなぁ……?)
イトはなんだか貞操の危機を感じてソワソワしたけれど部屋が一つしかないので寝間着を脱いで肌襦袢一枚になった。
(気の所為気の所為……)
イトは素早く着物を羽織ると帯を締めた。
シュンスケの方はなんだか見るのが怖かったので見るのを止めた。
「結局服を買わんかったな」
「ケーキに夢中になってしまって……」
二人でボソボソと会話しながら廊下を歩く。
「ははは、また行こう」
「(多分無理だけど)はい」
シュンスケは歩幅を広めるとイトを追い抜かし上着の袖に手を突っ込みながら玄関に向かう。
「あ、あの……」
「イトは他の仕事をしていろ、俺は外の空気が吸いたい」シュンスケはそう言いながら新聞を抜き取り玄関に放ると石炭入れを片手に返事も聞かず外へ出て行った。
「…………」イトは胸がギューッとくるしくなったので息を整えると新聞を拾い上げて台所で米を研いだ。
(シュンスケは優しいなぁ……優しい人だ。だからきっとさっきのは見間違いだよね。シュンスケがそんなこと私にするわけない)

ガラガラと硝子戸が開いてシュンスケが戻ってきた。
イトはそれと入れ替わるように勝手口から鶏小屋に向かう。

イトは鶏小屋で膝を抱えながら鶏の羽毛を撫でた。




ガラガラ


勢いよく扉が開いたので(般若来襲!?)とイトが振り返るとそこには肩で息をしたシュンスケが立っていた。
よほど急いできたのか突っかけが左右逆だ……

「旦那様?」

イトは立ち上がるとシュンスケに呼びかけた。
シュンスケは落ち着きを取り戻したのか照れたように笑いながら「ははは、ここにいたのか。こたつが暖まったよ」とイトの手を引いた。




「ほら、イト……中に入れ」
シュンスケは居間に入るなりこたつ布団を持ち上げてイトに中へ入るよう促した。
「あ、あの……」
「部屋を暖めるのは俺の仕事にしよう」戸惑うイトの背中をシュンスケはそっと押して隣に座らせた。
「でも……」(般若が怒る)
「二人の秘密だ」シュンスケは口元を引き上げるとイトの唇に触れた。
「……は……?」
「イト……」
シュンスケが肩を抱いてきたのでイトは慌てて立ち上がると廊下に飛び出した。「イト!」
シュンスケが後を追ってきて廊下で背後から抱きしめられた。
「…………っ」イトが身を強張らせるとシュンスケが「……すまん……」と囁いた。シュンスケの身体はとても温かくてイトは混乱した。(なぜこんなことをするの?)

その時背後から「イトさん?」と義母の声がした。

義母はイトとシュンスケを引き離すとイトに「どういうつもりだ!この阿婆擦れめ!」と鬼の形相で怒鳴りつけた。
(はー!?シュンスケ贔屓もいい加減にしろー!!)
イトはどう見ても私の方が被害者だろ!と思ったので口を開くと彼女が言葉を発するより先にシュンスケが「いや、母さん……俺がやったんだ。イトは嫌がっていたのに」と義母の方を真っ直ぐ見て言った。
「シュンスケ?」
「イトはちゃんと……断っていた。俺が無理矢理やったんだ」



義母はコロッと態度を変えると「シュンスケ?今度の寄り合い、やっぱり参加してみたらいいんじゃない?やっぱりやめる、だなんて言わないで……ほら、廊下は冷えるから中に入りましょう」とシュンスケの背中を押し、居間に入って行った。

「…………」

それを見てイトはなんだかすっかり頭が冷えて、代わりに胸がドキドキして苦しくなってしまった。


気持ちを誤魔化すように朝食の準備をしていると、義母が入ってきた。イトはなんとなく無言でそれを受け入れると「ねえ?イトさん?」とあちらから話しかけてきた。
「……はい」
「男性ってね?欲が高まると自身をコントロールできなくなるものなのよ……ほら、特に好きだとか愛だとかなくてもね。身体の関係だけは持ちたくなってしまう時がある生き物なのよ。勘違いしないであげてね」
義母が申し訳なさそうにそう言うのを見て、イトはなんだか胸のドキドキが消えていったので安堵した。

「……あ、そうですよね。よかった」

シュンスケは私をただの性処理のために使おうとしただけのようだ。それなら納得がいく。
それなら自分の知っている中の常識を引っ張り出せば理解ができる。
妙に色々買い与えてくれたのもそういう理由だったのだ。


「びっくりしました。そうだったのですね」
イトは義母の言葉にホッと安堵のため息をついて鉋箱の中から削った鰹節を一掴みとった。
「そうなのよ。困ったものよね。ほほほほほほ」
「あはは、そうですね」
沸いた湯に鰹節を入れると先ほどまで無色だった湯には鰹節が沈み、黄金色に染まった。いい薫りがする。
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