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「シュン!ほら、ちゃんとしろってー」
食卓に付くなりサツキがシュンスケの襟を正している。
「……自分でやるから」
「照れんなってー!」
イトはなんだか気まずくなったので食事を取りに台所へ歩く。
(あー!私にはわからない外の世界……!)
二人分の昼食を用意すると食卓に置く。
イトは二人に「繕い物をしていてもいいですか?」と許可をとるとサツキが「繕い物?別にいいよ!イトさんメシ食べないの?」と明るく言った。
「はい、もう食べたので」
本当は食べてない。
サツキの分がイトの分だったからだ。
しかしイトはなんてことはなかった。
ナキコの頃は二食食べられれば良い方だったから。
イトは二人の会話をBGMに部屋の隅に座りながら服を繕う。
(外の世界ってよくわかんない。ナキコはナキコ同士で会話したりしたこともあるけど……外の人たちは結構ずっと話しているものなんだなぁ……)
ナキコ時代はあまり長く会話していると怒られたものだ。
「ちゃんと働け」と
イトは黙々と繕い物をした。
「そんな量で足りるのかよーシュンスケ!ほら、私のをやるよ」
「いや、大丈夫だよ。いらない」
(あ、いかんいかん……)
イトは二人の会話にふと我に返る。
あまりにも集中し過ぎていて周りに気を回せていなかった。
「お、おかわりとかありましたら……」イトがそう声を掛けるとサツキは目の前でヒラヒラと手を振り「あ、大丈夫大丈夫!自分たちでやるから!ありがとう。ごめんねー!シュンスケのことは私の方がよく知ってるからさ!任せてよ!」と明るく言った。
イトはその言葉にホッとする。
サツキさんはどうやらとても優しい人のようだ。と
スラリと伸びた手足に、小さい顔。
ぱっちりとした目に高い鼻は少し西洋の香りがする。
サラサラ艶々した髪を靡かせた彼女はまるで映画女優のように美しかった。
(奉公先で見た映画ポスターの女性のようだなぁ)
「お茶をご用意いたしますね」
イトは食事を終えた様子の二人にお茶を出す為に立ち上がる。
「……俺がやるよ。イト、やり方を教えてくれないか」
その時シュンスケがそう言ったのでイトは目を丸くした。
(え?何事?)
いつもは岩のように動かずただ口に食べ物を入れるだけの男シュンスケがそんな事を言うではないか!(サツキさんの前で格好つけたいのだろうか……)考えを巡らせたけれど、このままシュンスケにやらせてはサツキさんから義母に報告されてしまうかも!とイトは面倒くさいことを回避するべく
「いいえ、私がやりますのでお二人は座っていてくださいませ」と台所へ引っ込んだ。
(外の世界は難しい……)
イトはまだよく常識や人の機微がわからない。
本当は何を思っているのか……表で言っていることが全てではない、というのがどうやら外の世界なのだ。
「なんでも鵜呑みにするのはやめなさい!社交辞令というものがあるのですよ」義母が般若のような顔をしてイトを怒鳴りつけたのはもう数え切れない程だ。
義母の「私がやるからいいわ」は「お前が代われ」だ。
「え?本当に?ではよろしくお願いしますー」と引き下がるともれなく般若になるのだ。義母は。
かと言って本当にやる気のときもあって……そんな時に「代わります!」と言うと「私の仕事をとるの!?」とこれまた般若になる。
「あいつ……面倒くさいなー……」
イトはそこら辺が物凄く苦手だった。
思ってもいないことは言わなければいいのに……
(今度言われたら全部般若に押し付けてみよう!どうせどちらにしても怒られるんだし!)
お茶を二人分よそってお盆にのせる。
それを持ってイトはため息をついた。
(なんの気まぐれか知らないけれど……お昼は職場でお弁当を食べて欲しいなぁ……)
「運ぶよ」
イトは盛大に肩をビクつかせた。
突然シュンスケに話しかけられたからだ。
「あ、だ、大丈夫です」
「いや……運ばせてくれ」
シュンスケは半ば強引にイトからお茶を奪うと「君は休んでいればいい」と言った。
イトは(サツキさんと二人きりになりたいのかな?)と思い
「あの……絶対お義母さんには内緒にしておいてくださいね?」と念を押すとシュンスケは「言わないよ」と笑った。
「…………」
「…………」
(やけに見てくるなぁ……)
イトは気まずくて気まずくて堪らなかった……シュンスケがめちゃくちゃ見てくるからだ。
「……あの……」
「あ、……あの……上着は……」
「上着?」
「そ、そうだ。上着……さっきのものはもう古いだろ?あの、繕っていた」
「え?いえ、まだ着られるので!」
というよりこれから着はじめようとしているところなのだ。捨てられては堪らない。イトは顔の前で手をパタパタ振ると必死に否定した。
もしかすると外の人にはゴミに見えるのだろうか……
(かなり上等なのだけど……)
「私あれが着たいんです。あの……姉の持ち物でしたので」
「いや、しかし……」
(捨てないってば……!)
「あ!お昼休みが終わってしまいませんか?お茶も冷えてしまいますので……」
イトはシュンスケをそう言って台所から追い出すと安堵のため息をついた。「ふー!」
その時、ガラスに映った自分を見た。
髪の毛がボサボサの女がそこに立っていて、シュンスケは髪がボサボサの自分を見ていたのではないか?と思うと顔が熱くなった。
(か、髪の毛位梳かそうかな?)
サツキさんのしっかり手入れをされた髪を思い浮かべる。
サラサラでツヤツヤだった……
あの素敵な髪を見た後だとさぞかし自分の髪の悲惨さが際立つだろう。
(滅多に向き合うことはないし、今さっき気付いてしまったのかも!)
イトは嫁入りに持ってきた自分の鞄の中身を思い浮かべた。
(櫛……もらった櫛があったはず!)
友人が見つけてくれた櫛……
まだナキコだった頃に
こっそり持っていた櫛だ。
食卓に付くなりサツキがシュンスケの襟を正している。
「……自分でやるから」
「照れんなってー!」
イトはなんだか気まずくなったので食事を取りに台所へ歩く。
(あー!私にはわからない外の世界……!)
二人分の昼食を用意すると食卓に置く。
イトは二人に「繕い物をしていてもいいですか?」と許可をとるとサツキが「繕い物?別にいいよ!イトさんメシ食べないの?」と明るく言った。
「はい、もう食べたので」
本当は食べてない。
サツキの分がイトの分だったからだ。
しかしイトはなんてことはなかった。
ナキコの頃は二食食べられれば良い方だったから。
イトは二人の会話をBGMに部屋の隅に座りながら服を繕う。
(外の世界ってよくわかんない。ナキコはナキコ同士で会話したりしたこともあるけど……外の人たちは結構ずっと話しているものなんだなぁ……)
ナキコ時代はあまり長く会話していると怒られたものだ。
「ちゃんと働け」と
イトは黙々と繕い物をした。
「そんな量で足りるのかよーシュンスケ!ほら、私のをやるよ」
「いや、大丈夫だよ。いらない」
(あ、いかんいかん……)
イトは二人の会話にふと我に返る。
あまりにも集中し過ぎていて周りに気を回せていなかった。
「お、おかわりとかありましたら……」イトがそう声を掛けるとサツキは目の前でヒラヒラと手を振り「あ、大丈夫大丈夫!自分たちでやるから!ありがとう。ごめんねー!シュンスケのことは私の方がよく知ってるからさ!任せてよ!」と明るく言った。
イトはその言葉にホッとする。
サツキさんはどうやらとても優しい人のようだ。と
スラリと伸びた手足に、小さい顔。
ぱっちりとした目に高い鼻は少し西洋の香りがする。
サラサラ艶々した髪を靡かせた彼女はまるで映画女優のように美しかった。
(奉公先で見た映画ポスターの女性のようだなぁ)
「お茶をご用意いたしますね」
イトは食事を終えた様子の二人にお茶を出す為に立ち上がる。
「……俺がやるよ。イト、やり方を教えてくれないか」
その時シュンスケがそう言ったのでイトは目を丸くした。
(え?何事?)
いつもは岩のように動かずただ口に食べ物を入れるだけの男シュンスケがそんな事を言うではないか!(サツキさんの前で格好つけたいのだろうか……)考えを巡らせたけれど、このままシュンスケにやらせてはサツキさんから義母に報告されてしまうかも!とイトは面倒くさいことを回避するべく
「いいえ、私がやりますのでお二人は座っていてくださいませ」と台所へ引っ込んだ。
(外の世界は難しい……)
イトはまだよく常識や人の機微がわからない。
本当は何を思っているのか……表で言っていることが全てではない、というのがどうやら外の世界なのだ。
「なんでも鵜呑みにするのはやめなさい!社交辞令というものがあるのですよ」義母が般若のような顔をしてイトを怒鳴りつけたのはもう数え切れない程だ。
義母の「私がやるからいいわ」は「お前が代われ」だ。
「え?本当に?ではよろしくお願いしますー」と引き下がるともれなく般若になるのだ。義母は。
かと言って本当にやる気のときもあって……そんな時に「代わります!」と言うと「私の仕事をとるの!?」とこれまた般若になる。
「あいつ……面倒くさいなー……」
イトはそこら辺が物凄く苦手だった。
思ってもいないことは言わなければいいのに……
(今度言われたら全部般若に押し付けてみよう!どうせどちらにしても怒られるんだし!)
お茶を二人分よそってお盆にのせる。
それを持ってイトはため息をついた。
(なんの気まぐれか知らないけれど……お昼は職場でお弁当を食べて欲しいなぁ……)
「運ぶよ」
イトは盛大に肩をビクつかせた。
突然シュンスケに話しかけられたからだ。
「あ、だ、大丈夫です」
「いや……運ばせてくれ」
シュンスケは半ば強引にイトからお茶を奪うと「君は休んでいればいい」と言った。
イトは(サツキさんと二人きりになりたいのかな?)と思い
「あの……絶対お義母さんには内緒にしておいてくださいね?」と念を押すとシュンスケは「言わないよ」と笑った。
「…………」
「…………」
(やけに見てくるなぁ……)
イトは気まずくて気まずくて堪らなかった……シュンスケがめちゃくちゃ見てくるからだ。
「……あの……」
「あ、……あの……上着は……」
「上着?」
「そ、そうだ。上着……さっきのものはもう古いだろ?あの、繕っていた」
「え?いえ、まだ着られるので!」
というよりこれから着はじめようとしているところなのだ。捨てられては堪らない。イトは顔の前で手をパタパタ振ると必死に否定した。
もしかすると外の人にはゴミに見えるのだろうか……
(かなり上等なのだけど……)
「私あれが着たいんです。あの……姉の持ち物でしたので」
「いや、しかし……」
(捨てないってば……!)
「あ!お昼休みが終わってしまいませんか?お茶も冷えてしまいますので……」
イトはシュンスケをそう言って台所から追い出すと安堵のため息をついた。「ふー!」
その時、ガラスに映った自分を見た。
髪の毛がボサボサの女がそこに立っていて、シュンスケは髪がボサボサの自分を見ていたのではないか?と思うと顔が熱くなった。
(か、髪の毛位梳かそうかな?)
サツキさんのしっかり手入れをされた髪を思い浮かべる。
サラサラでツヤツヤだった……
あの素敵な髪を見た後だとさぞかし自分の髪の悲惨さが際立つだろう。
(滅多に向き合うことはないし、今さっき気付いてしまったのかも!)
イトは嫁入りに持ってきた自分の鞄の中身を思い浮かべた。
(櫛……もらった櫛があったはず!)
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