【R18】聖なる☆契約結婚

mokumoku

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「今後二人は西と東、両国の架け橋となるだろう」

西と東の王が声を合わせてそう述べ、お披露目会はお開きとなった。


王室の従事者に退出を促されクライドとセラフィナは会場を後にする。その時もしっかりと腰を抱かれたままだ。


「お疲れ様」
迎えに来ていた馬車の前でセラフィナはそう言った。
ここで演技は終わりだと思ったからだ。

クライドが流れるような動作でセラフィナをエスコートすると自身も隣に座る。

「疲れたか」
「うん、人が多かった」

クライドはセラフィナの腰を抱き寄せると頬にキスをする。
(そう言えばこの人は……私を虜にしろ、と命令されてるんだった)
顎先に手を寄せるクライドにセラフィナはなんとなく抵抗しないでいた。別に減るものじゃないし、経験としてキス位しておいてもいいかな?と思ったのだ。処女じゃないのにキスはした事がないなんておかしい。


クライドはセラフィナの抵抗がないことからゆっくりと顔を寄せた。

(柔らかい……)


セラフィナは今まで触った物の中で一番柔らかいものに触れた。
自分についている分にはわからないけど、他人のものに触れるとこんなに柔らかいとは。


息づかいを荒くしたクライドが口を開けるのを感じてセラフィナは身を堅くした。

「……あ、す、すまん……」
「…………」
クライドは我に返ったようにセラフィナから離れると俯き、足を組んだ。ガタガタと車輪の音が響く車内に広がる沈黙……気まずくなったのかクライドは顔を上げて窓の外を眺めている。


「……初日に……」
「…………」
暫くの沈黙の後、クライドがポツリと話し出した。
「……あんな乱暴に……す、すまなかった。君が……しょ、処女だったとは……」
「……別にいいよ。それに処女じゃなかったらシーツに証拠がつかないじゃない。何言ってんだ」
セラフィナはクライドが命令を遂行するためにマイナス分を補おうと必死な姿を見て少し気の毒に思った。
確かにあの初日の横暴な記憶があっては、恋は盲目になったとしてもふとした瞬間に(あれ?でもコイツ初夜ひどくなかった?)と我に返るだろう。
それくらいこの男の初動はどうしようもなかったのだ。

「い、いや……それはどこかから俺が出血して補おうかと」
「はー、優しいね」
セラフィナはそう言うと外を眺めた。

虚しい偽物夫婦を乗せて、馬車は偽物夫婦の偽物小屋へ向かい、そこには偽物夫の元パートナーも同居している奇妙なシェアハウス……

セラフィナはちらりと偽物の夫を見る。

「な、なんだ……?どうした?」

偽物の夫はこれから偽物の妻を自分の虜にしようと努力している最中だ。
セラフィナはニッコリ笑うとクライドにぴったり身を寄せた。
「全然気にしてないよ!あなたと一つになれて嬉しかったもの!」そう言うとセラフィナはクライドの肩に頭を寄せた。
逞しい肩だ。

西の聖騎士は肉体的にも鍛錬をしていたに違いない。

「逞しい腕!私……逞しい人が好きなの」
セラフィナはクライドの腕にしがみつくとそう言った。
それは本当だ。
男はバッキバキのムッキムキに限る。
(アレクサンダーはどちらかと言うと背は高いけど華奢だったんだよねー)
「そ、そ、そ、そ、そうか!?」
「うん!素敵!」
「ははははは!そうか!そうか!」クライドはそう言うとぐぐ……っと腕に力を込めた。
(見栄を張っているわ)
セラフィナはなんだかその様子がおかしくてクスクス笑った。
「いやあ……まあ、自慢ではないが、恐らく俺は屋敷の中で一番腕が太いだろうな!警護の騎士よりも!警護の騎士よりもな!」
「わー!クライド様かっこいい!」
「か、か、かっこいいだと!?そ、そうか?そうか!そうだよな!はははは!」
「キャーあはははは!キモい!」セラフィナは肩を抱いてくるクライドをギューッと押し返しながら笑った。
「な、なんだ?はははは、君は博識だなぁ!」
「ハクシキー?あははは!」



馬車から降りると空が真っ赤に染まっていたのでセラフィナは立ち止まり見上げた。

「夕方になる……」



クライドはエスコートした手をそのまま握りしめて空を見上げた。
「……そうだな」

空から降り注いだ赤がセラフィナのことも国が作ったこの屋敷のタイルも、すべてを真っ赤に染めた。

「赤に見えてる?」

セラフィナは空を見上げたままクライドに問いかけた。
「……ん?見えている。夕焼けだな」
「…………」
「早く中に入るか。セラフィナはこれから仕事があるんだろう?」
押し黙ったままのセラフィナにクライドはそう言うと腰を抱いた。セラフィナはそれに従いつつ、自分の見えているものはみんなに同じように見えているとは限らない。と毎回思うのだ。


この夕焼けだって……
みんなには私のとっての緑に見えているかもしれない、と。
セラフィナは幼少の頃から何度も何度も考えたことを言い聞かせるように心で思う。
だから仕方がないのだ。と
自分と周りが同じ気分で同じものを見ているわけではないのだ。と




「あ、明日な。街に出ないか?も、勿論、昼間に」
「街に?なんで?」部屋の前まで送ってくれたクライドがセラフィナがドアノブに手をかけた瞬間、そう提案してきた。

「な、なんで?……そ、それは……それは……まあ、…………何か君に服などを、プレゼントしたいというか……その」しどろもどろになりながらクライドは外出の理由を述べていく。
どうやらセラフィナを買い物に連れて行きたいようだ。

「服?たくさんあるからいいし……それって国の税金から?いらないよ。別に服なんて。だから明日は街に行かなくて大丈夫!ありがとう。おやすみなさい」セラフィナはクローゼットの中身を思い浮かべると服はこれ以上いらないと思った。
あそこには色とりどりの衣装があって、選びたい放題だ。

結婚が決まった時に全身のサイズを測られた理由はこれもあったのかもしれない、とセラフィナは思った。

何か言いたげなクライドを残しセラフィナはドアを閉めた。


とにかく早く眠らなければ


また夜がやってくる。



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