【R18】聖なる☆契約結婚

mokumoku

文字の大きさ
上 下
7 / 47

しおりを挟む
「はぁー……お待たせいたしました」
セラフィナはリリスに指示された通り、食堂に入り座る前にそう言って膝を折った。深いため息は思わず出てしまった。

「そこに……」
セラフィナはクライドが何事が言いかけたような気がしたけれど無視をして空いている席に腰を下ろす。
リリスがその背後にピタリと立つ。
「いいですか?パンは一口大に千切って口へ」
「わかってるってば」
リリスの囁やきにセラフィナも小さな声で答える。
テーブルの上にはホカホカと湯気を立てたスープと瑞々しいサラダ、おかわり用なのか自分の手元にあるものとは別にバターと香ばしいかおりがするパンが中央の籠に山ほど入っている。
目の前にあるフカフカのパンに手を伸ばすと千切り、口に入れた。バターの風味が口いっぱいに広がって鼻へ抜けていく……
セラフィナは幸せに包まれた。

(なにこれ……お金持ちの食べる食事うまい……!)

セラフィナは以前いたところの食事を思い出す。
朝食はいつもパサパサの硬いパンと野菜屑の浮いた味のうすーーーーーーーーいスープ……

「……おい」
「…おい」
「おい!」

「…………」
「無言で睨みつけるな!おい!この女性のことが気にならんのか貴様は!」クライドは無言でそちらに目を向けたセラフィナに対してテーブルを叩きながら威嚇してきた。
「……猿みたい」
「なんだと?なんと言った!」その呟きはクライドの耳には届かなかったようだが、なんとなく悪口を言ったことは伝わったのか顔を真っ赤にして怒っている。

セラフィナが正面を向くとクライドの隣に美しい女性が座っているのが目に入る。本来は入室した時から気付いていたのだが、興味がないので特に何も聞かなかった。

清らかな空気を身に纏わせた彼女は説明されなくてもわかる……西の聖女だろう、とセラフィナは思った。
「はじめまして、私オリビア・バークリーと申します。西で聖女を務めさせていただいておりました。あなたは……東で聖女を?」
「はい。私、東の聖女です。あ……元」





「ねえ?これから私たち一緒に暮らすのだもの……仲良くやっていきたいわ?セラフィナ様……こうしてまた一緒に食事できると嬉しく思います」オリビアはそう言うとふわりと笑った。
女神様みたい……
セラフィナは見たことはない架空の存在にオリビアを当てはめた。
崇拝するものを見えない者たちのために具現化した存在だ。
神も、女神も……天使も。
皆容姿が美しい。

本来セラフィナに見えているものは違った。

セラフィナはキラキラと輝く空間をぼんやりと眺める。

形はない、ただ、そこにいる。

セラフィナは「加護」と表現しているが、自分に対しての「それ」とオリビアに対しての「それ」は形が違う気がしていた。
自分の「加護」は「死なないようにしている」に過ぎない気がする。
オリビアを纏う優しい加護を感じセラフィナは心の中で毒づく。

(平等ではない、神でさえも)

オリビアは確かに護られている。
温かく、壊れ物を扱うように。

自分はそうではない。

クライドもそれを感じたのではないか、とセラフィナは思った。だから私たちが釣り合わないことに気がついたのだ。
それにこの契約婚はきっとオリビアも知っている。
事情を知っていなければ新婚夫婦と共に暮らすことなど普通はできないだろう。
この結婚にこの先も愛など存在しないであろうことをオリビアは知っているのだ。


そんなことを微塵も感じさせない程ニコニコと笑うオリビアを見てセラフィナは悪態をつきそうになったが、にっこり笑うと「はい、そうですね。仲良くやりましょう」と言った。それを聞いたオリビアは満足そうに微笑むとクライドに目をやった。
「……あー……あのな。あの……夜会が……」
クライドはオリビアの方を向いたまま話し出したのでセラフィナは自分はもう関係ない、と再び食事を進めた。

(一緒に暮らすのか……でも、この旦那と二人きりよりいいか!息が詰まるもの!)

「サラダは一口分だけフォークで刺して、口に運びます」
「わかってるってば」セラフィナはリリスの囁やきに口を尖らせるとサラダの葉物をザクザクとフォークに刺した。


「…………おい」
「……おい」
「おい!」

クライドがテーブルをドンッと叩いたのでセラフィナはちらりとそちらを見て「……ったく……なんて下品な男なの?テーブルを叩くのはよしなさいな」そう呟くとサラダを再び口に入れる。

「話を聞いているのか!?」
「私?聞いてないわ。人の話に聞き耳を立てるようなこと……私しないもの」セラフィナはえっへんと胸を張るとリリスが小さくパチパチと拍手をしてくれたのでヘラリと笑う。

「人の話?何を言ってるんだ!これはお前と俺の話だ!一週間後に夜会があるから準備をしておけよ!」

「え?」


「や、夜会だ!夜会!……別に俺は出席したくないが……う、上がうるさいんだよ!……チッ……面倒くさいことをさせるもんだ」
クライドは腕を組みながら椅子の背もたれに寄りかかり面倒くさそうにそう言った。

「む……無理よ。夜会って夜でしょ?私……夜は出かけられないもの」セラフィナは下を向いてそう言った。
「いや……しかし、国が主催したもので……我々の婚姻を各国に披露するための……」
「む……無理……時間を早めてもらうか、代役を立ててもらうしかないわ。私が夜出かけられないのは東が知ってるはず……掛け合っていただけませんか?」
そう言って顔をゆっくり上げたセラフィナの顔は元々色白なのも相まって完全に血の気を失っていた。
それを見たクライドは思わず頭を縦に振ることしかできなかったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレ令嬢の私を腹黒貴公子が毎夜求めて離さない

扇 レンナ
恋愛
旧題:買われた娘は毎晩飛ぶほど愛されています!? セレニアは由緒あるライアンズ侯爵家の次女。 姉アビゲイルは才色兼備と称され、周囲からの期待を一身に受けてきたものの、セレニアは実の両親からも放置気味。将来に期待されることなどなかった。 だが、そんな日々が変わったのは父親が投資詐欺に引っ掛かり多額の借金を作ってきたことがきっかけだった。 ――このままでは、アビゲイルの将来が危うい。 そう思った父はセレニアに「成金男爵家に嫁いで来い」と命じた。曰く、相手の男爵家は爵位が上の貴族とのつながりを求めていると。コネをつなぐ代わりに借金を肩代わりしてもらうと。 その結果、セレニアは新進気鋭の男爵家メイウェザー家の若き当主ジュードと結婚することになる。 ジュードは一代で巨大な富を築き爵位を買った男性。セレニアは彼を仕事人間だとイメージしたものの、実際のジュードはほんわかとした真逆のタイプ。しかし、彼が求めているのは所詮コネ。 そう決めつけ、セレニアはジュードとかかわる際は一線を引こうとしていたのだが、彼はセレニアを強く求め毎日のように抱いてくる。 しかも、彼との行為はいつも一度では済まず、セレニアは毎晩のように意識が飛ぶほど愛されてしまって――……!? おっとりとした絶倫実業家と見放されてきた令嬢の新婚ラブ! ◇hotランキング 3位ありがとうございます! ―― ◇掲載先→アルファポリス(先行公開)、ムーンライトノベルズ

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R18/完結】初夜に「きみを愛すことはできない」と言われたので、こちらから押し倒してみました。―妖精姫は、獣人王子のつがいになりたい!

夕月
恋愛
儚げで可憐な容姿から「ホロウード王国の妖精姫」と呼ばれる王女ルフィナ。その生い立ち故に異母兄に疎まれているルフィナは、政略結婚という名目で半ば追い出されるように獣人の国アルデイルへ嫁ぐことになる。 だが、獅子獣人であるアルデイルの王子カミルとの初夜、彼はルフィナのことを抱けないと言い出した。 それなら私からいきますね!と元気よく押し倒し、初夜を完遂したルフィナだったが、それ以降もカミルはルフィナを抱いてくれない。 嫌われたかと思いきや、カミルはいつもルフィナに甘く接してくれる。だけど決して夜はルフィナに触れてくれなくて……。 子作り使命に燃える前向きヒロインと、考え込みすぎて手を出せないヒーローが、真に結ばれるまでのじれもだ。 大人描写のある回には★をつけます。 ヒーローは獣人ですが、完全な獣の姿にはなりません。

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️ ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。

【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。  だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。  二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?   ※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】わたくしは殿下が本能のまま心ゆくまで、わたくしの胸を吸っている姿が見たいだけなのです

瀬月 ゆな
恋愛
王国でも屈指の魔草薬の調合師を多数輩出して来たハーヴリスト侯爵家に生まれたレティーナにはたった一つの、けれど強い願望があった。 多忙を極める若き美貌の王太子ルーファスを癒してあげたい。 そこで天啓のように閃いたのが、幼かった頃を思い出してもらうこと――母子の愛情に満ちた行為、授乳をされたらきっと癒されるのではないか。 そんな思いから学園を卒業する時に「胸を吸って欲しい」と懇願するも、すげなくあしらわれてしまう。 さらに失敗続きの結果、とっておきの魔草薬を栄養剤だと騙して飲ませたものの、ルーファスの様子が豹変して……!? 全7話で完結の、ゆるゆるふわふわラブコメです。 ムーンライトノベルズ様でも公開しています。

処理中です...