上 下
14 / 28

14

しおりを挟む
「1ヶ月経ちました?」
「いや…その…いや」
週末お部屋で寛いでいるとブライアン様がやってきた。
私はなんだか先週会ったような気がするけど…と頭を傾げる。
でも歳を重ねると時間の流れが早くなるものだから、と私はぼんやり考えた。
「どうなさったのですか?」
「あ、あ、あの…あのあのあの…め…めめめメメシヲクイニイカナイカ」
「え?メシヲクイニ?ご飯を食べに行くのですか?私とブライアン様が?なぜですか?」
ブライアン様はコクコクと頷いている。
…やだなぁ…なんか…
ブライアン様はソワソワとズボンに手を擦り付けている。
「あ、あ、あの…し、知り合いが…み、店を、……ミセヲ…」
「え?知り合いの方がお店を始めたのですか?」
「そ…ソウナンダ」
ブライアン様はコクコクと頷くとちらりとこちらを見てまた俯いた。

車に乗り込むと小指が触れ合ってしまったので慌てて脚の間に手を挟む。やだやだ!私ったら本当にだらしのない…腕が横に広がりやすいタイプなんだわ…もー…「す、すいません…触りたいわけではなくて…誤解されてしまうかもなのですが…私本当にブライアン様に触りたくないんです…信じてくださいませ…」泣きそう!

「…触りたくない…」
「はい。本当なんです。本当に触りたくないんです!嘘じゃないんです…」お願い。ブライアン様…信じて
私は目が合うとまた気持ち悪いと思われたら…と俯きながらそう言った。私ったら!本当いやだわ。
「ぐ…うぅ…わ、わ、ワカッタ…スマナカッタ…」誤解は解けたようです!よかった…


「あ、あの、あの、エ…エスコート…ヲ…」
車から降りるとブライアン様が手を差し出してきました。
「え…?あの…エスコート…?だ、大丈夫です」車に乗る前やパーティーならわかるけど…街中でエスコート?……恥ずかしい!!無理よ!そんな!!
「誤解されたら困るので…」街なら誰かに見られてるかもしれないのに…なんとなく前で手を重ねた。
「わ…ワカッタ…」じゃあ着いてきて、とブライアン様は私の前を歩く。…広い背中だなぁ、背も高いし。私はぼんやりとブライアン様を見上げた。
ブライアン様はチラチラと時折私の動向を確認していて目が合いそうになったので慌てて俯いた。
…いけない…また見てると思われちゃう…まあ、今回は見てたんだけど…
しばらく歩いて路地裏を抜けると真新しい建物があってブライアン様はそのドアをそっと開ける。
「いらっしゃいませ」女性店員の透き通った声がする。
「こんにちは」ブライアン様は軽く会釈をすると挨拶をした。…この女性が知り合いなのかな?
女性店員は厨房に声を掛けるとそこから屈強な男性がノシノシとやってきた。「よお、ブライアン」「お久しぶりです」ブライアン様は腕まくりをしながらやってきた男性に頭を下げて挨拶をした。男性がこちらをじっと見つめてる…
「あ、わ、私…」
「自分の婚約者です」ブライアン様は頭をポリポリ掻くと私を手で指し示しそう言った。
「あー!なるほど!そうか!ふふふ…ブライアンめ」男性はニコニコ笑うと火を着けっぱなしだ!と慌ててまた厨房に戻って行った。
「うちはビュッフェ方式になっていて…」女性店員が仕組みを説明してくれる。私がそのやり方に戸惑っていると「お、お、俺が…俺がトッテコヨウカ…?」とブライアン様が言った。
「あ…いいんですか?」
「こ、こ、こ、こ、ここは…職場のど、ど、ど、同僚とき、来たことが…あ、あ、あ、アルンダ…」
先に席に着いていて。と言われてお言葉に甘える。
一番隅の観葉植物の隣にそっと腰掛ける。
ブライアン様はお皿を持つとせっせと食べ物を盛り付けている。私はそれをぼーっと眺めた。
…なんか…ブライアン様は背が高いので、背を丸めて一生懸命…
……カッコ悪い…
彼は食事の盛り付けが完了したのかお皿を持ってキョロキョロし始めた。………私がどこにいるのかわからないんだわ!!

私はそんなブライアン様を眺める。
ああ…キョロキョロしてる…キョロキョロしてる…お皿を持ってオロオロしてる…
私は胸がギュッと締め付けられる思いがした。
…か…カッコ悪い…
なんてカッコ悪いのかしら…

やっと隅にいる私に気付いたのかこちらにカクカクしながらやってきた。…カッコ悪い…先ほどキョロキョロしていたのは気づかれていない体でキリッとした顔でこちらにやってきたわ…

「お…オマタセ…」
「あ…はい。あ、ありがとうございます」
お皿に載った食事はどれも私の好きなものばかりで美味しそう…

ブライアン様は自分のも取りに行くと席を立った。
私はまたその背中を見つめる。
…やっぱりお皿にちまちまと盛り付ける様がカッコ悪い…


食事はどれも美味しくてお腹がいっぱいになった。
私がお金を払おうとすると「お、お、俺の…上司のミセダカラ…」とお金を支払ってくれた。……なんだか悪いなぁ…そう思いお店を出たところで財布を出すとそこで王女様にばったり会ったので(ああ、ブライアン様は王女様と待ち合わせの時間潰しに私とご飯を食べたのね)と胸がギュッとなった。


なんだかそんな二人を見ていられなくて私は「失礼します」とその場を後にしたのだけれど…私の帰り方が良くなかったのかその後ブライアン様が訪問されましたが、なんとなく気持ちの整理がつかなくて私は寝たふりをして帰ってもらうよう使用人に伝えた。

その日ベッドに入り、天井を見上げるとブライアン様がお皿を持ってキョロキョロしていたのを思い出す。
……
………

私は胸がキュンキュンするのを誤魔化すためにあくびをして目をそっと瞑った。
…気のせい…気のせいよ…そんなわけないわ…
ブライアン様には王女様がいらっしゃるのよ…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。  だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。  二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?   ※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。

【R18】聖なる☆契約結婚

mokumoku
恋愛
東の聖女セラフィナは西の聖騎士クライドと国同士の友好の証明のために結婚させられる。 「これは契約結婚だ。……勘違いするな、ということです。この先、何があったとしても」 そんな夫は結婚初日にそう吐き捨てるとセラフィナの処女を「国からの指示だ」と奪い、部屋を出て行った。 一人部屋に残されたセラフィナは涙をポツリと落としはせずに夫の肩に噛みついた。 聖女として育ったわんぱく庶民セラフィナと謎の聖騎士クライドの契約結婚生活がはじまる。

コミカライズ原作 わたしは知っている

キムラましゅろう
恋愛
わたしは知っている。 夫にわたしより大切に想っている人がいる事を。 だってわたしは見てしまったから。 夫が昔から想っているあの人と抱きしめ合っているところを。 だからわたしは 一日も早く、夫を解放してあげなければならない。 数話で完結予定の短い話です。 設定等、細かな事は考えていないゆる設定です。 性的描写はないですが、それを連想させる表現やワードは出てきます。 妊娠、出産に関わるワードと表現も出てきます。要注意です。 苦手な方はご遠慮くださいませ。 小説家になろうさんの方でも投稿しております。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

【R18】9番目の捨て駒姫

mokumoku
恋愛
「私、大国の王に求婚されたのよ」ある時廊下で会った第4王女の姉が私にそう言った。 それなのに、今私は父である王の命令でその大国の王の前に立っている。 「姉が直前に逃亡いたしましたので…代わりに私がこちらに来た次第でございます…」 私は学がないからよくわからないけれど姉の身代わりである私はきっと大国の王の怒りに触れて殺されるだろう。 元々私はそう言うときの為にいる捨て駒なの仕方がないわ。私は殺戮王と呼ばれる程残忍なこの大国の王に腕を捻り上げられながらそうぼんやりと考えた。 と人生を諦めていた王女が溺愛されて幸せになる話。元サヤハッピーエンドです♡ (元サヤ=新しいヒーローが出てこないという意味合いで使用しています)

処理中です...