【R18】フォルテナよ幸せに

mokumoku

文字の大きさ
上 下
26 / 43

26

しおりを挟む
『妻に渡してくれ』
「ありがとうございます!」
ハーネットは花束を受け取るとニコニコ笑いながら扉を閉めた。

今回の花はジプソフィラにバラとマリーゴールド、コスモスだ。
(気に入ってくれるだろうか……)
クロードは各それぞれの花言葉を思い返すと顔を赤くした。
(す、少し露骨すぎただろうか……)
コスモス以外は全て愛を意味する花だ。
コスモスでさえも「美麗」等とフォルテナの容姿を褒めるような花言葉だ。……





クロードはウッキウキだった。
夕食時には必ず妻に会えるからだ。

まだ向かい同士の席だしあまり目も合わないけれど、行く行くは隣同士に座りながら食べられるようになりたいとクロードは思っていた。
自分の声が出るのなら色々妻に話しかけたりして仲を深める事ができるのに……と思ったが、おそらく自分にそんなスキルはないだろう。と思い立ち苦々しい気分になり、少し遠い目をする。




クロードがソワソワしながら席で待つとフォルテナがやってきた。「お待たせいたしました」クロードは首を横に振るとフォルテナを見た。
彼女は少し目を伏せてテーブルを見つめている。
クロードはなんだか胸が少し苦しくなったが仕方がないことだ。と自分に言い聞かせた。

自分が想いを寄せたからと言って必ず返ってくるものではないのだ。

好ましい女性が向かい側の席で食事をしている。
それだけで充分ではないか。

クロードはテーブルの下で手帳に本日の食事メニューを書き出すとフォルテナの食の進み方を百点満点で評価し、表した。


『蒸し野菜のチーズソース添が妻は好きだ』
クロードは手帳を眺めると最終的にそう結論を出す。

「ぼ旦那様?何を眺めていらっしゃいますか?」
メイソンは手帳を見てニコニコしているクロードが微笑ましくて思わず声を掛けた。
メイソンはクロードに対して色眼鏡をかけまくっているのでニコニコして見えるようだがもはや彼はニヤニヤしていた。
クロードは慌てて手帳を隠すとなんでもない風を装い出したのでメイソンはかわいらしく感じて思わず少しからかう。「いやらしいやつですか?」メイソンは嬉しかった。クロードが楽しそうにしたり生き生きしている様子を見ることができるなんて……と

クロードは慌てて手を横に振り否定の態度をとると
『妻の食事の好みを』と手帳に書いて見せてきた。

「奥様のお好みですか?旦那様はそれをメモしてらっしゃったのですね」メイソンの目頭は熱くなった。
ぼっちゃまが……とても幸せそうにしてらっしゃる。と

「では次にまた奥様のお好きな物が出るように料理長に掛け合っておきましょう。奥様は何がお好きなのですか?私めに教えてくださいませ。旦那様」
クロードは少しだけ間を置くとパラパラと手帳をめくって頭を抱えた後メイソンにそっとそれを差し出した。
メイソンがそれを受け取り眺めている間クロードは気が気じゃなかった。気持ち悪いだろうか……と

「ちゃんと点数をつけてらっしゃるのですね……」
メイソンはそういうと自分の手帳を取り出し涙声で「では上位三つをとりあえず料理長に伝えましょう!ぼ、旦那様!なんと細やかな気配り……天才でございます!」と
手帳にそれを書き写しながら言うとメイソンの視界がぼやける。
メイソンは嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
あのいつも寂しそうで小さかったぼっちゃまが……今はこんなに立派になられて……
メイソンはポロリと落ちた涙をクロードにはバレないようにそっと手の甲で拭った。






『妻は喜んでいた?』
なんと女々しいのだ俺は。
ハーネットを庭に呼び出すとクロードはそう尋ねた。
フォルテナはクロードの花束を喜んでいたか?と

「はい、大層喜んでらっしゃいましたよ。花に罪はないので」
クロードはその言葉が嬉しくて思わず笑ってしまった。まさに花が咲いたような笑顔だったであろう。
『それはよかった』
また花束を贈ろう。
次は直接渡したいが……今回の花束プレゼントで俺の印象が良くなっただろうか……クロードは悶々とそう考える。

『妻は?』
「奥様は今お庭でお一人日光浴をされています」
『俺も』一緒にと書いている間に「お一人をご希望されております」とハーネットに釘を刺されてしまった。

クロードはハーネットに花束を渡すと必ず妻に渡すように伝えた。このメッセージカードも……「かしこまりました」ハーネットはそう言うと花束を持ち頭を下げた。




ジプソフィラ、白のダリア、ペチュニア……
クロードはその花言葉を思い浮かべてまた頬を染める。

今回はカードを添えてしまった……

『あなたを思って選びました』



クロードはウッキウキで寝室へ行った。
そろそろ花言葉に気付いてくれただろうか。
でも気付かれて不気味がられたら……

「……っ」
クロードは急に不安に駆られ始めた。
いや、しかし前は大丈夫だったじゃないか!
クロードは心の中で高笑いすると堂々と寝室に入った。


クロードはそこで愕然とした……
今日メイキングされたままのベッドは圧縮でもされていない限りフォルテナがいるのはあり得なかったからだ。

き……
き……
き、き、き、き、気持ち悪かっただろうか?
気持ち悪かったのかもしれない。

白のダリアが特に露骨すぎて気持ち悪かったのかもしれない。

クロードは床にうずくまった。
色というアピールが特に気持ち悪かったかもしれない。
ここは様々な色の中に白を忍ばせるに留まらせるべきで……いや、しかし……もう渡してしまった。
「感謝、豊かな愛情」これはダリアの中でも白いものだけが持つ花言葉だ。
ああ……キモいキモい……
クロードは頭を抱えた。
時を戻したい……

ペチュニアもなかなか不気味だったかもしれない。「あなたと一緒なら心が安らぐ」









嘘つけ!




そう思われたのかもしれない……
自慢じゃないが俺はフォルテナ殿の前で心が落ち着いたことなどはない。いつでもいきり立っているしドッキドキのバックバクのバッキバキだ。フォルテナ殿は気付いていたのかも……

クロードは羞恥心で胸が爆発しそうだったので床を引っ掻いて耐えた。声が出ていたら絶叫していたことだろう……


……今フォルテナ殿はどこにいるんだ。

クロードは顔を上げるとフォルテナの部屋のドアをノックした。ソファで寝ているなら気の毒だ。
寝室に来るように言おう。
俺は寝室には今後入らないと安心させて……

ノックの返答がない。
何度か繰り返したがないのでそっとドアを開けた。

薄く開けた隙間からテーブルに図鑑を置いてその上ですやすやと寝息を立てるフォルテナをクロードは見た。


クロードは盛大に安堵のため息をついた。

どうやら妻は疲れていたようで予期せぬ場所で眠ってしまったようだ。クロードはフォルテナの隣に膝をつくと顔を覗き込んだ。
薄く開けた唇からすぅすぅと寝息が漏れている。

「…………」

クロードはこっそり頬にキスをすると顔を真っ赤にしてそれを誤魔化すようにフォルテナを横に抱き上げた。

彼女を寝室に連れて行くとそっとベッドに下ろす。
すっかり身体が冷えているので布団を掛けて抱き寄せた。

これは別にいやらしい気持ちからではなく、冷えた身体を温めるためだ。少し力を込めると折れてしまいそうな彼女の芯と柔らかな抱き心地に不本意ながら身体が反応してはいるが飽くまでも生理現象だ。
その証拠に俺はいつだって眠ることができる……
眠ることが
できる…
できるんだ。

少し時間がかかっているだけで別に。







『どうだった?妻は喜んでいたか?』
「はい、花に罪はございませんので」
クロードは眠たい目を擦りながら朝、再び庭へ呼び出したハーネットに尋ねた。フォルテナ殿は俺の花束を喜んでいたか?と

ハーネットの返答を聞いた直後クロードはニッコニコになった。


喜んでくれている……!
ま……また贈ろう花束を……!


こうしてクロードは毎日毎日フォルテナのためにせっせと花束を作るのだが……それは本人には全く伝わってはいなかったのだ……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷 ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。 ◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡

婚約者が肉食系女子にロックオンされています

キムラましゅろう
恋愛
縁故採用で魔法省の事務員として勤めるアミカ(19) 彼女には同じく魔法省の職員であるウォルトという婚約者がいる。 幼い頃に結ばれた婚約で、まるで兄妹のように成長してきた二人。 そんな二人の間に波風を立てる女性が現れる。 最近ウォルトのバディになったロマーヌという女性職員だ。 最近流行りの自由恋愛主義者である彼女はどうやら次の恋のお相手にウォルトをロックオンしたらしく……。 結婚間近の婚約者を狙う女に戦々恐々とするアミカの奮闘物語。 一話完結の読み切りです。 従っていつも以上にご都合主義です。 誤字脱字が点在すると思われますが、そっとオブラートに包み込んでお知らせ頂けますと助かります。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

箱入り令嬢と秘蜜の遊戯 -無垢な令嬢は王太子の溺愛で甘く蕩ける-

瀬月 ゆな
恋愛
「二人だけの秘密だよ」 伯爵家令嬢フィオレンツィアは、二歳年上の婚約者である王太子アドルフォードを子供の頃から「お兄様」と呼んで慕っている。 大人たちには秘密で口づけを交わし、素肌を曝し、まだ身体の交わりこそはないけれど身も心も離れられなくなって行く。 だけどせっかく社交界へのデビューを果たしたのに、アドルフォードはフィオレンツィアが夜会に出ることにあまり良い顔をしない。 そうして、従姉の振りをして一人こっそりと列席した夜会で、他の令嬢と親しそうに接するアドルフォードを見てしまい――。 「君の身体は誰のものなのか散々教え込んだつもりでいたけれど、まだ躾けが足りなかったかな」 第14回恋愛小説大賞にエントリーしています。 もしも気に入って下さったなら応援投票して下さると嬉しいです! 表紙には灰梅由雪様(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)が描いて下さったイラストを使用させていただいております。 ☆エピソード完結型の連載として公開していた同タイトルの作品を元に、一つの話に再構築したものです。 完全に独立した全く別の話になっていますので、こちらだけでもお楽しみいただけると思います。 サブタイトルの後に「☆」マークがついている話にはR18描写が含まれますが、挿入シーン自体は最後の方にしかありません。 「★」マークがついている話はヒーロー視点です。 「ムーンライトノベルズ」様でも公開しています。

巨根王宮騎士の妻となりまして

天災
恋愛
 巨根王宮騎士の妻となりまして

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【R18】聖なる☆契約結婚

mokumoku
恋愛
東の聖女セラフィナは西の聖騎士クライドと国同士の友好の証明のために結婚させられる。 「これは契約結婚だ。……勘違いするな、ということです。この先、何があったとしても」 そんな夫は結婚初日にそう吐き捨てるとセラフィナの処女を「国からの指示だ」と奪い、部屋を出て行った。 一人部屋に残されたセラフィナは涙をポツリと落としはせずに夫の肩に噛みついた。 聖女として育ったわんぱく庶民セラフィナと謎の聖騎士クライドの契約結婚生活がはじまる。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

婚約解消から5年、再び巡り会いました。

能登原あめ
恋愛
* R18、シリアスなお話です。センシティブな内容が含まれますので、苦手な方はご注意下さい。  私達は結婚するはずだった。    結婚を控えたあの夏、天災により領民が冬を越すのも難しくて――。  婚約を解消して、別々の相手と結婚することになった私達だけど、5年の月日を経て再び巡り合った。 * 話の都合上、お互いに別の人と結婚します。白い結婚ではないので苦手な方はご注意下さい(別の相手との詳細なRシーンはありません) * 全11話予定 * Rシーンには※つけます。終盤です。 * コメント欄のネタバレ配慮しておりませんのでお気をつけください。 * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。   ローラ救済のパラレルのお話。↓ 『愛する人がいる人と結婚した私は、もう一度やり直す機会が与えられたようです』

処理中です...