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異世界転移編

アドリにくびったけ

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女の子はアドリという名前だった。

「で、どうなんですかー? 早くアドリがかわいいからよしよししたくて拐ったと白状したらいいとおもいますよー?」

「いやいや、むしろ拐われていたのを助けたんだけど!」
「本当ですかぁ? じゃあなんで、アドリのワンピースを脱がせる必要があったんですかねー?」

「だからそれは……」

そこまで言うと店の奥からアルカナイさんが不機嫌なオーラを纏いのっしのっしと現れた。

「あんたらは何時だと思ってるんだい! 騒ぐなら他所でやっておくれ!」

かなり機嫌が悪い様子にアドリも驚く。だが、そんなくらいで怯むなら俺ももう少しマシな対処が出来ていただろう。

「おばあさん、聞いてください! このお兄さんがアドリを脱がせて何かしようとしてるんです!」

「ちょっ、ちがうだろ!」

「アドリちゃんって言うのかい? あんたはその人に助けてもらって、怪我を治すためにわ、た、しが脱がせる様に指示したんだよっ! それと、まだわたしはバァさんって呼ばれるようなとしじゃないんだよっ!」

流石のおばちゃんの勢いにアドリは口をもごもごさせる。

「でも……」
アドリは俺をチラリと見る。
いやいや、俺は弁解して欲しい側だから……。

「修ちゃん、もう夜は遅い。女騎士さんがきたら伝えてあげるから夕飯ついでに宿でもとりな?」

修ちゃん? アルカナイさんの言っている事は間違いないのだが、エリカのいない俺は文無しなのだ。

「あのですね……お金はエリカが持ってましてですね……」
「えー? アドリも持ってないよ? みぐるみ剥がされてるし……」

お前は元々麻のチープな服一枚だろう……。

「なんだい? 文無しかい? そしたらうちは道具屋なんだから何か売れそうな物は持ってないのかい? あんな魔道具があるんだから何かあるだろう?」

俺の持ち物で売れそうな……というか売ってもいいものか……ナイフはエリカに貰ったものだし、金槌やカッターも一応は持っていたい。となると財布なのだが……あ、お金!

「そしたらこれならどうですか?」
そう言って俺は財布の中で1番高い5千円札を出した。

「装飾してる紙かい? ちょっと丈夫そうだけどこれじゃあ中銀貨2まいだねぇ……」

昼間のエリカの話では、金貨一枚で半月分の食費だから……宿っていくらくらいなんだ?

「それで、宿は取れますかね?」
「宿は1人大銀貨2枚ほどだよ……まぁ、2人でご飯もたべるなら大銀貨5枚は必要だねぇ……」

全然足りないじゃないか……てかなんでこいつの分まで出すながれに……。俺は仕方なく財布のなかみを出して全て換金しようと考えた。

ジャララ……。
机の上にに小銭と札を広げて言った。
「これ全部だといくらになりますか?」

すると意外にも、小銭の方にアルカナイさんは食いついた。
「なんだいこの金属は?」
「銅とかアルミですかね? 500円玉は何かよくわからないですけど……」

「ちょっと待ってな……」
そう言うと、アルカナイさんは奥へいきまた謎の魔道具を持ち出した。

「ふむ……硬度220……こっちは280かい……とんでもない金属だねぇ……」

「それじゃあ……」
「流石に全部は無理だけどこの銀色と褐色を1枚づつなら金貨5枚でどうだい?」

「本当に?」
「安い位かも知れないけどねぇ、よくわからない以上はこれが限界だねぇ」

「全然いいです! お願いします!」

俺は1円と10円を換金するとアルカナイさんは飯屋付きの宿を紹介してくれた。

「女騎士さんがきたらそこを伝えておくよ」

そう言ってもらい、俺たちは店を後にした。

「というか、お前。やっぱりついてくるんだな?」
「えー? アドリを置いて行く気なんですかー?」

なんとなく、自然についてくるアドリをからかいたくなる。

「こんなかわいい乙女を夜の街に置いて行くなんてそんな酷い事しようとしてるんですかー? 美味しいご飯食べさせて、暖かいお布団で寝かせてあげたくなるのが普通だと思うんですけどー?」

あ、やっぱり今後こいつをからかうのは面倒だからやめておこうと深く心に刻んだ。

「あー、麻の服チクチクするなぁ……」

無視無視……触れたらまけだ。

「チクチクするなぁ……地面痛いなぁ……」

謎のアピールに俺はなるべく無視をする。
アドリも懲りたのだろう、少し大人しくなったかと思うと、俺の腕に絡み別の手段を繰り出した。

「ねぇ……服と靴買って?」

かわいい……この歳にしてこの技術……魔女か?魔女なんだな?

「いいでしょ? 修平兄ぃ?」

ズキューン。

性格はともかく顔がものすごく可愛い女の子のおねだりほど強い物はない……。

俺はあっさりと締まりかけの店でアドリの身なりフルセットを金貨1枚も使い購入してしまった……。

だが、ただでさえルックスがいいアドリは白いブラウスをベースに紫色のレースのついたワンピース調のミドルスカート、それにお洒落な皮の靴をコーディネートし、まさに異世界の美少女と言った風貌に進化した。

嬉しそうなアドリの笑顔で後悔は全くない。

宿に着くなり2人でご飯をたべると、部屋にはいり寝る支度をする事にした。

アドリは服を綺麗にたたみ、柔らかいシャツに短パン姿になる。

よほど嬉しかったのか、大切に服を畳むアドリに好感が持てる。なんとなく親しくなれた気がしたついでに俺は聞いてみた。

「あのさぁ……アドリはドライアドと言うやつなのか?」
「やっぱり気づいてました? 正確にはクオーターですけど、混血のドライアドでも能力は同じ……いや普通の魔法も使える点では混血の方がメリットはあるかもしれないです」

「へぇ……そうなんだなぁ」
「やっぱり……ドライアドだから助けたんですか?」

アドリは気のせいか少し悲しそうな顔をした様に見えた。

「いや、袋に人が入っていたからエリカと追っていたら自動的に助ける形になった感じかな?」

俺がそう言うと、少し表情が和らいだ。
「エリカさん早く合流できるといいですね!」
「まぁ、エリカは強いから大丈夫だと思うけど、流石に夜までかかるとは思って無かったなぁ……」

「エリカで強いとか、まるでお姉ちゃんの同期の"赤翼の騎士"みたいですね!」

「あれ? アドリのお姉さんも騎士なのか?」
「そうですよ! 女性では珍しい攻撃型で今も帝国軍の騎士をしてます! でも、養成所時代、赤翼の騎士エリカ・ヴァレンシュタインには一度も勝てなかったって言ってましたね」

正直俺は驚いた。ドライアドの姉だからなのだろうけど、まさかアドリの姉がエリカの同期だったとは……。

「その……エリカはその赤翼の騎士だよ……」
「えっ? 修平兄ぃは冒険者じゃなかったの? でも、まずいです。エリカさんが赤翼の騎士というのなら日が沈むまでかかっているというのがまずいですよ!」

「確かに苦戦してるのはまずいけど……ちょっと強い位の奴にエリカが負けるとは思えないんだよなぁ?」

俺にはアドリが焦って居る理由がわからなかった。だがアドリは畳んだ服を着はじめる。

「すぐ、支度してください!」
「今から行くのか? でもどこに行くんだよ?」

「姉に連絡します、赤翼の事ならば聞いてくれるとは思うので……」

この歳で通信魔法も使えるのか? もしかしてこいつ結構優秀なんじゃないだろうか?

「一つ、修平兄ぃは強いのですか? 助けに行っても逃げる事すら出来ないと意味がないので……」

俺は返答に困る。でもエリカが本当に危機なのなら動かない理由はない。

「条件はあるけど強いよ。オークキングやギリギリだったけどベルム大佐にも勝ったことはある」

「いやいや、それ赤翼より強いじゃないですか!条件はなんです? 属性は?」

「条件は魔法が使えない。その為属性も無ぃ。ただ当てる事さえ出来れば勝てると思う……」

「魔法が使えない? 魔力が出ないと理論的にどうなるんでしたっけ? あーもう覚えたはずなのにー!」

「硬くなる。 やたらと詳しいみたいだけどアドリも養成所にいたのか?」
「アドリは、ちがうよ魔法がすきだから独学で覚えたんだよ。 あれ?エリカさんから連絡が来た……お姉ちゃんが教えたのかな?」

「アドリ……エリカはなんて?」
「これ……転移陣かな?」

アドリはそう言うと、目の前に見た事の有るもやが広がった。

「ああ、これは転移陣だよ……」

エリカが転移陣を送るなんて。
俺はこの転移陣に嫌な予感しかしなかった。
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