剣が無ければ女の子を持てばいいじゃないか?

竹野こきのこ

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03 恐怖

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 親衛隊と共に遅れて到着したアレクは馬から降りると、門の前の兵士に声をかけた。

「すまない、遅くなった……」
「陛下、今し方タロトは剣聖が倒しました」

「そうか……流石はマティスと言った所だな。ところでマティスは剣を持っていたのか?」
「いえ、私の部下が貸した様で……」
「なるほど……」

「ですが、剣聖は討伐後膝をついたまま動かなくなりまして……私共も近づいていいのか……」
「分かった、私が行こう」

 アレクはそう言って門を抜けると座り込んだマティスと近くで立ち尽くすラニを見つける。

「お前たちはここまででいい」

 親衛隊にそう告げると付き人のリードを連れ、マティスの元に向かう。近づくとラニが泣いているのがわかった。

「おい、マティス。とりあえずはご苦労様……」
「……アレクか……」
「兵士達が心配している、早く戻ってやれ」

 するとマティスは起き上がり、アレクの胸ぐらを掴むと叫んだ。

「ふざけんなよ! なんだよアレ、あんな化け物押し付けやがって」

 アレクは冷静に、マティスの手を掴み落ち着いた声で囁いた。

「離れているとはいえ、剣聖が国王の胸ぐらをつかむのはイメージが良く無い……」

 マティスはゆっくりと震えた手を離すと、下を向いた。

「粗方、ラニが剣を食ったのだろう? 言わなかったのは謝る。ただ、お前なら剣に出来ると思っていたんだ……」
「そんな事で怒ってんじゃねーよ……」
「それならなぜ?」

 マティスは恐怖に声を震わせ言った。

「あの化け物はタロトを喰ったんだ。それも一瞬で……」
「喰った? 暴食……の特性なのか?」
「そんなのは知らねーよ。なぁ、頼むからアレを返品させてくれよ……」
「すまない、契約した以上無理だ……」
「そうかよ……」

 そう言ってマティスは立ち上がると、アレクを振り払うように門に向かう。

「おい、マティス!」
「アレク。悪いけど俺騎士団辞めるわ……」
「なにを言ってる、【大罪武器】は持ち主を襲う事はない、ラニちゃんもお前を守るために……」

「剣は持てない、化け物は付いてる……そんな奴騎士団に居たら迷惑でしかないだろ……」

 マティスの言葉に、アレクは黙ってしまった。

「あ、あるじー待ってー」
「付いてくんじゃねーよ化け物……」

 マティスがそう言うと、ラニは涙を浮かべながら少し距離を取って歩きついて行った。

「マティスの奴……ラニちゃん見た感じは健気な子に見えるのだがな……」


♦︎


 王宮から少し離れた所に、マティスの家はあった。その功績と地位には似つかわしくない貴族の中では小さな家。ただ、しっかりとした造りで丈夫な建物ではある。

「マティス、おかえりなさい!」
「ニャーン」

 家に着くと、恰幅の良い気さくな家政婦のステラと猫のクロが彼を出迎える。時々来るお爺さんと弟子以外ではマティスはこの二人と一匹で住んでいる。

「ただいま……」
「どうしたんだい? 浮かない顔して……」
「ステラ、俺は騎士を辞めると言ってきた」

 少し驚いた顔をしたものの、ステラは事情は聞かずに優しく微笑んだ。

「マティスさん倹約家だから心配せんでもお金はたんまりあるんだよ、ゆっくりしたらいいさ!」
「ありがとう……」

「ニャーん!」

 マティスは服を着替え、部屋に入るとベッドに伏せる。今日の出来事をなるべく考えないように枕で頭を抑える。

 だが、マティスの頭の中ではタロトを食べたラニの風景が何度も、何度もループしている。

 ──もしかしたら、ラニは近くに居るんじゃ無いだろうか。

 恐怖を感じる反面、可愛らしいラニの笑顔や言動も思い出してしまう。

「気にするな……あいつは、あいつは化け物なんだよ……」

 日が傾き、ステラの作る晩ご飯のスープの匂いがし始めると、家の外では、雷の音とザーザーと雨が降り出す音がした。

「マティスさーん、ご飯はどうするかい?」
「ああ、少しだけでも頂くよ……」

 家政婦とはいえ、母の居ないマティスはステラを家族の様に思っていた。折角彼女が作ってくれたご飯だ。重い身体を起こし、ダイニングに向かった。

「あんた、酷い顔色だけど大丈夫かい?」
「うん、大丈夫……」
「無理しない所がマティスさんのいい所なんだから、食欲が無い時は残してもいいんだよ?」
「うん、ありがとう……」

 ご飯を食べようと、椅子に座る。すると、クロが玄関の方に歩いて行くのがわかる。誰かがきたのを察知しているのだろう。


「ニャオニャーん!」


 ――まさか、ラニが……。


 すると、ガチャガチャと言う音と共に扉が開き元気のいい声が家に響いた。

「師匠~! 今から晩ご飯っすか? 自分も頂いていいっすかね~」

 声の主は、マティスの唯一の弟子。マティスのいた騎士団でも副隊長を務めるロランだった。

「なんだロランか、びっくりさせるなよ……」
「え? いつもの事じゃないっすか?」
「まぁ、そうなのだが……」

 赤い髪で背が高く、騎士服を着たロランが姿を現す。それと同時に後ろの影に気づく。それを見てマティスは背筋が凍りつくのが分かった。

「ロランちゃんの分もちゃんとあるわよ!」
「ステラさんあざっす! 愛してるっす!」

 自然に中に入れ、濡れた服を拭こうとするロラン。だが、何故か服は乾いているのに気づき一瞬不思議そうな表情を浮かべたのがわかる。

「ロラン……そいつは……」
「雨の中、この家の門の所に立ってたんすよ!」

「なんで連れてきたんだよ……」
「なんでって、師匠鬼っすか? だって、小さい子が雨に濡れてるなんて可哀想じゃ無いっすか~。家には入らないって言ってたんすけど無理矢理連れてきたっす!」

 マティスの顔をチラチラと見るラニは、今にも泣きそうな顔で呟いた。

あるじ、ごめんなさい……」
「えっ主? なんすかこの反応。もしかして、師匠の訳ありっすか?」

 あろう事か、ロランはラニを家の中に連れてきてしまったのだ……。

 そんな事はつゆ知らず、ロランとステラは、マティスとラニの顔を交互に見ると疑いの眼差しをむけた。

「まさか、隠し子っすか!?」
「いや、それはちがうからね!」
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