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おばあさんとタマ
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サブローにはそういったものの、具体的にどうすればいいのかイメージは出来ていない。ただ、どうするにせよ、本人に会ってみるしかないと思う。
俺はその猫と会うためにサブローについていく。一体どんな猫なのかと考えてみる。あの黒猫や、彦助の様なヤ〇ザやチンピラ感のある猫なのだろうか? そんなことを考えてるとサブローが古ぼけた小さい一軒家の前で立ち止まる。
「ここや、まぁ一度話してみてくれへんか?」
「ああ、そのつもりですよ……」
そういうと、サブローが中に入り大声で呼んだ。
「おーい、タマおるかー?」
「そんなに叫ばなくてもいいんじゃ……」
すると、名前やサブローのイメージで想像していた様な猫ではなく、味のあるキジトラの猫がゆっくりと現れた。
「あら、サブローさん……」
「おう……」
「あの……タマさんは雌猫なんですか?」
「そうや、なんやわしの仲間は雄しかおらんおもてたんか?」
その通りだ。何となくサブロー軍団の様なイメージを持っていた。
「それで、タマさんは……」
俺はそこまで言いかけて止めた。何となく会ったばかりで聞く事でも無い。そんな気がして言えなかった。
「どこまで聞いておられるのか、私はこの家で15年ほど過ごしてきました」
「そうなると、タマさんは……」
「はい、15歳を過ぎたくらいです、猫で言えばもうおばあちゃんなのですよ」
「まぁ、タマは猫又にはなっとらんからなぁ……」
「わたしの飼い主は、人間ではそこそこいい年になってましてね、家族が一緒に住まないかと言われていたそうなんです」
「それで……」
「はい、息子夫婦の子供が猫アレルギーでねぇ……」
それで、タマさんをどうにかしなくてはならなくなったわけなのか。
「もちろん、飼い主も私の事を気遣って断ってくれていたんですけど、病気になってしまいまして」
「飼い主の方もタマさんを大切にされていたんですね」
「けっ、せやかてタマを手放さんでもええやろに……」
サブローは少し機嫌が悪そうに吐き捨てた。もしかしたら今までも何度も似たような事を見たり、経験してきたのかもしれない。
「それでタマさんはどうするつもりなんですか?」
「はい、野良猫にでもなろうかと思います……」
「だから、野良猫はお前には無理や言うとるやろ!」
「それでも、あの人が心配しない様に見せておきたいのですよ」
タマさんは、野良猫で生きていけるなんて思っていないと思った。多分、飼い主の人がなるべく安心出来る様に気にしないでもいいように見せたいのだろう。
「おまえ、半年前まで外にもほとんど出てへんやろ!」
「あら、そのためにあなたにお願いしたんじゃないですか」
何となくサブローの仲間になった理由が分かった。ほかの猫たちと違い、サブローを慕っているというよりは、信頼して輪の中に入ることで飼い主が捨てやすくなると考えている。
「なるほどね……なんか思っていたのと違うな」
「どういうことや?」
「いやさぁ、どうにか飼い主を見つける方向で考えていたんだよ」
「ああ、それじゃあかんのかいな?」
「多分そういうことじゃないんだよ。ねぇ、タマさん?」
「おやおや、流石かみさまだねぇ。若いのに」
「サブローさんは感情的すぎるんだよ……」
「どういうこっちゃい!」
サブローも多分気付いていないわけじゃない。でも、彼はどこかで気付きたくないのだろうと思う。気付いてしまう事で、俺たちがするべきことが決まってしまう。それを俺以上に理解しているのだと思う。
「だけど、俺もサブローさんと同じく協力したくはないな……」
「まぁ、そうなりますよねぇ……」
「でも、一度飼い主と話してみたい気もする」
「話してどうされるのですか?」
「どうも出来ないことは分かっているけど、それだけ慕われている人がどんな人なのかをみたいんだよ」
「神様は人間ですから、自然に話せるかもしれませんねぇ」
言ってしまえばサブローも人化すれば話せるとは思うのだけど、たぶん感情的になってしまって余計にこじれてしまうかもしれない。
それから、タマさんと少し話して飼い主の人と話せそうなタイミングを伺う。聞いたところ飼い主は決まった時間にスーパーに買い出しに行くのだという事が分かった。だけど、面識のない人がスーパーの買い出しの最中に話しかけたりして怪しまれないだろうかとも思う。
でも、一度会ってみるしかないだろう。なにかアクションを起こさないと何も前に進むことはないのだ。
日が沈みかけた頃、俺はサブローを連れてもう一度タマさんの家の近くに来た。飼い主はいつも16時前くらいにスーパーに行くというので、タイミングを合わせた。
「神さん、ほんまに話してみるんか?」
「うん、サブローさんは変な事しないでくださいね?」
「せえへんよ。タマの為になるんやろ?」
「それは、なんとも言えないですけどね……」
しばらくすると、アルミ製で腕を通すタイプの松葉杖をついたおばあさんが家から出てきた。病気とは聞いていたのだけど、体にマヒが出るレベルだとは思ってもいなかった。
「これは、仕方がないかもしれない……」
「なんでや? 病気でもタマを捨てる理由にはならへん」
「まぁ、タマさん目線で見ればね……自分のお母さんがあれくらいの大病を患っていたら心配で無理やりでも同居しようとすると思う」
「そんなもんかいなぁ」
一歩一歩、ゆっくりとスーパーに歩いていく。きっとこんな生活を毎日繰り返しているのだろう。その中で、一緒に住んでいるタマも本当に大事に育てられていたのだと思う。
おばあさんがスーパーに入ると買い物かごをカートに乗せようとしている。杖をついている為片手でしか乗せる事が出来ないんだ。俺はここしかないと思いおばあさんに声を掛けた。
「あの……カゴ乗せましょうか?」
「あらあら、すまないねぇ……」
そういって、カゴを乗せる。サブローはスーパーの前で待っていてもらう事になった。
「足、悪いんですか?」
「ええ、腰をやってしまいましてね、その際に神経がどうにかなっちゃったみたいなの」
「なるほど……よかったら買うもの取って来ましょうか?」
「いえいえ、悪いわよ……」
「いいですよ、俺結構暇なので!」
「そうじゃないのよ……自分で買い物位出来ないと」
おばあさんはそこまで言って、口を噤んだ。
俺はその猫と会うためにサブローについていく。一体どんな猫なのかと考えてみる。あの黒猫や、彦助の様なヤ〇ザやチンピラ感のある猫なのだろうか? そんなことを考えてるとサブローが古ぼけた小さい一軒家の前で立ち止まる。
「ここや、まぁ一度話してみてくれへんか?」
「ああ、そのつもりですよ……」
そういうと、サブローが中に入り大声で呼んだ。
「おーい、タマおるかー?」
「そんなに叫ばなくてもいいんじゃ……」
すると、名前やサブローのイメージで想像していた様な猫ではなく、味のあるキジトラの猫がゆっくりと現れた。
「あら、サブローさん……」
「おう……」
「あの……タマさんは雌猫なんですか?」
「そうや、なんやわしの仲間は雄しかおらんおもてたんか?」
その通りだ。何となくサブロー軍団の様なイメージを持っていた。
「それで、タマさんは……」
俺はそこまで言いかけて止めた。何となく会ったばかりで聞く事でも無い。そんな気がして言えなかった。
「どこまで聞いておられるのか、私はこの家で15年ほど過ごしてきました」
「そうなると、タマさんは……」
「はい、15歳を過ぎたくらいです、猫で言えばもうおばあちゃんなのですよ」
「まぁ、タマは猫又にはなっとらんからなぁ……」
「わたしの飼い主は、人間ではそこそこいい年になってましてね、家族が一緒に住まないかと言われていたそうなんです」
「それで……」
「はい、息子夫婦の子供が猫アレルギーでねぇ……」
それで、タマさんをどうにかしなくてはならなくなったわけなのか。
「もちろん、飼い主も私の事を気遣って断ってくれていたんですけど、病気になってしまいまして」
「飼い主の方もタマさんを大切にされていたんですね」
「けっ、せやかてタマを手放さんでもええやろに……」
サブローは少し機嫌が悪そうに吐き捨てた。もしかしたら今までも何度も似たような事を見たり、経験してきたのかもしれない。
「それでタマさんはどうするつもりなんですか?」
「はい、野良猫にでもなろうかと思います……」
「だから、野良猫はお前には無理や言うとるやろ!」
「それでも、あの人が心配しない様に見せておきたいのですよ」
タマさんは、野良猫で生きていけるなんて思っていないと思った。多分、飼い主の人がなるべく安心出来る様に気にしないでもいいように見せたいのだろう。
「おまえ、半年前まで外にもほとんど出てへんやろ!」
「あら、そのためにあなたにお願いしたんじゃないですか」
何となくサブローの仲間になった理由が分かった。ほかの猫たちと違い、サブローを慕っているというよりは、信頼して輪の中に入ることで飼い主が捨てやすくなると考えている。
「なるほどね……なんか思っていたのと違うな」
「どういうことや?」
「いやさぁ、どうにか飼い主を見つける方向で考えていたんだよ」
「ああ、それじゃあかんのかいな?」
「多分そういうことじゃないんだよ。ねぇ、タマさん?」
「おやおや、流石かみさまだねぇ。若いのに」
「サブローさんは感情的すぎるんだよ……」
「どういうこっちゃい!」
サブローも多分気付いていないわけじゃない。でも、彼はどこかで気付きたくないのだろうと思う。気付いてしまう事で、俺たちがするべきことが決まってしまう。それを俺以上に理解しているのだと思う。
「だけど、俺もサブローさんと同じく協力したくはないな……」
「まぁ、そうなりますよねぇ……」
「でも、一度飼い主と話してみたい気もする」
「話してどうされるのですか?」
「どうも出来ないことは分かっているけど、それだけ慕われている人がどんな人なのかをみたいんだよ」
「神様は人間ですから、自然に話せるかもしれませんねぇ」
言ってしまえばサブローも人化すれば話せるとは思うのだけど、たぶん感情的になってしまって余計にこじれてしまうかもしれない。
それから、タマさんと少し話して飼い主の人と話せそうなタイミングを伺う。聞いたところ飼い主は決まった時間にスーパーに買い出しに行くのだという事が分かった。だけど、面識のない人がスーパーの買い出しの最中に話しかけたりして怪しまれないだろうかとも思う。
でも、一度会ってみるしかないだろう。なにかアクションを起こさないと何も前に進むことはないのだ。
日が沈みかけた頃、俺はサブローを連れてもう一度タマさんの家の近くに来た。飼い主はいつも16時前くらいにスーパーに行くというので、タイミングを合わせた。
「神さん、ほんまに話してみるんか?」
「うん、サブローさんは変な事しないでくださいね?」
「せえへんよ。タマの為になるんやろ?」
「それは、なんとも言えないですけどね……」
しばらくすると、アルミ製で腕を通すタイプの松葉杖をついたおばあさんが家から出てきた。病気とは聞いていたのだけど、体にマヒが出るレベルだとは思ってもいなかった。
「これは、仕方がないかもしれない……」
「なんでや? 病気でもタマを捨てる理由にはならへん」
「まぁ、タマさん目線で見ればね……自分のお母さんがあれくらいの大病を患っていたら心配で無理やりでも同居しようとすると思う」
「そんなもんかいなぁ」
一歩一歩、ゆっくりとスーパーに歩いていく。きっとこんな生活を毎日繰り返しているのだろう。その中で、一緒に住んでいるタマも本当に大事に育てられていたのだと思う。
おばあさんがスーパーに入ると買い物かごをカートに乗せようとしている。杖をついている為片手でしか乗せる事が出来ないんだ。俺はここしかないと思いおばあさんに声を掛けた。
「あの……カゴ乗せましょうか?」
「あらあら、すまないねぇ……」
そういって、カゴを乗せる。サブローはスーパーの前で待っていてもらう事になった。
「足、悪いんですか?」
「ええ、腰をやってしまいましてね、その際に神経がどうにかなっちゃったみたいなの」
「なるほど……よかったら買うもの取って来ましょうか?」
「いえいえ、悪いわよ……」
「いいですよ、俺結構暇なので!」
「そうじゃないのよ……自分で買い物位出来ないと」
おばあさんはそこまで言って、口を噤んだ。
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