上 下
53 / 54

52 世界を震わす匂いと音色。

しおりを挟む
 
 あまりの衝撃により世界の津々浦々までもが震える。
 大気までもが揺れて、レッドの背にいた私もあやうく落ちるところであった。
 シロはシルバーとともに逃げているはずだから、きっと大丈夫だろう。

 決戦の地は巨大なクレーターとなり、衝突時の衝撃によって超特大チクワも四散して飛び散り周囲の二次被害がシャレにならない。環境破壊どころか、確実に大陸の形が変わっている。
 だというのにワンゲルオールはその中心にて、かなりボロボロになりつつも、なおも健在であった。

『がははは、これが貴様らの切り札か。大したものよ、我をここまで追い詰めたこと誇るがいい。だがそれもここま……えっ!?』

 調子良くワンゲルオールが話している途中で、第二弾が彼の頭上に落ちてきた。
 なんかごめん。一撃でどうにかなるなんて端から思ってなくて、あと同じ奴が全部で十ほど続くから。お願いですから大人しく倒されてくれい。



 世界を震わす十二発もの不気味な音が、ようやく鳴り終わった。
 辺り一帯どころか風にのってかなり遠くにまで漂う焼チクワの匂い。
 
 しばらく待ってからシルバーたちと合流して爆心地に戻る。
 被害にあった地形についてはもはや何も語るまい。
 少なくとも未来永劫、この場所で人間と魔族が争うことは適わないであろう。撒き上がった大量の粉塵による長い冬の到来とか気候変動などの、そのへんの諸問題についてはなんとも言えない。
 
 端の方が遠すぎて霞んで見えるほどの巨大なクレーター。
 シルバーの背に跨りチクワバズーカを構えつつ、その中心地へと用心しつつ向かう。
 清々しいくらいに何もない。
 キョロキョロと周囲を警戒しつつ進む。
 ワンゲルオールの巨体はどこにも見当たらない。さしもの奴もアレだけの攻撃には耐えきれなかったとみえる。
 
 殺ったのかな? そう訊ねようとしたところで不意に衝撃を受けて、シルバーの体が吹き飛ばされた。背に乗っていた私やシロも地面に投げ出される。上空にて警戒していたレッドが「ケーン」と警戒音を発してこちらに急行してくれようとしたが、その矢先に黒い雷撃に打たれてポトリと地面に落ちた。

「逃げろ! ハナコ!」

 攻撃を受けて動けないシルバーが無理をして叫んでくれたので、咄嗟に体が反応した。
 無様に横に転がる体、だがそのおかげで助かった。
 さっきまで自分がいた所に雷が落ちて、地面を砕いていたのだから。

『おのれ聖女め、よくもやってくれたな……。おかげで体を維持できなくてこのザマよ』

 そう言ったワンゲルオールの体は随分と縮んでいた。
 せいぜい私よりも頭ひとつ分ぐらいの大きさ程度になっている。首から上の耳型の頭部の縁が潰れて餃子の端っこみたい。尊大さは失せてすっかりみすぼらしく成り果て、もはや古の紅い災いと呼ばれた気勢は感じられない。
 なのに……、それでも充分に強い。
 こちらに向かって手をかざし攻撃を仕掛けようとする。
 私もすかさずチクワバズーカにて迎撃する。
 だが効かない。神域の森の大樹すらも貫通する一撃が無造作に枯れ枝のような手で弾かれた。
 逆に奴の一撃がコチラへと向かってくる。
 空中を走る黒い雷撃が私に迫る。もう駄目と思った瞬間に、わずかに攻撃が逸れて、すぐ側の地面を抉るに留めた。
 シロが「ちっ! ちっ! ちっ!」と超音波を連発してワンゲルオールの腕や頭部を攻撃してくれていた。
 そんなシロに向かい『邪魔だ』と一喝し黒雷を落とすワンゲルオール。
 咄嗟に動いて直撃こそは避けたものの攻撃の威力によって、小さな白い体がまるでボールのように撥ねて地面を転がり、ピクリとも動かなくなった。

 シルバーが血を吐いて倒れてる。
 レッドが体中からプスプスと黒い煙をあげて倒れている。
 シロが全身傷だらけにて土に塗れて倒れている。
 
 それを一緒に視界に収めたとき、ドクンと心臓が唸りをあげて、ブチリと私の中で何かがキレた。
 自分の中の全てが激情に染まる。
 同時に脳内にピコンと響く謎の声。
 
『能力レベル10に達しました。限界突破を開放します。なお三匹との従魔契約はどうしますか? Y/N』

 何度も何度も何度も、同じ事を言わせんなっ!
 私は友達を従えるつもりも契約で縛る気もさらさらねぇ!!
 あー、イライラする。もう、なんもかんもが腹立たしい!!!


しおりを挟む
感想 201

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...