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50 三匹と乙女がいく。
しおりを挟む銀のフェンリルが口から吐き出す蒼い炎が敵を焼く。
縦横無尽に戦場を駆けると、あまりの衝撃により風が吹き荒れ、嵐が起こり、立ち塞がるものすべてを空高く巻き上げ、渦の中で散々にかき回した後に、容赦なく地面へと叩き落とす。前足が振るわれるたびに真空の刃が戦場を薙ぎ、裁断された部位が飛び散る。それでも怯むことを知らない魂なき器の群れが、銀狼へと襲いかかる。これらを蹴散らし、美しき獣が雄叫びをあげた。
空高く舞い上がった不死鳥の全身が炎に包まれた。それに合わせるかのように大地に幾本もの火柱が上がって敵勢を包囲し、適度に固まったところに巨鳥が滑空しては、これを撫でるように飛ぶ。ただそれだけで地表にいた者どもは燃え上がり消し炭となる。大空を駆る者に対して地上の存在はあまりに無力。
だが敵にも翼を持つ者らがいた。それらが一斉に群がる。四方八方から集られて、次第に振りきれなくなる。死を恐れない軍勢が束になってのしかかるかのように折り重なり、その攻勢にぐらりと不死鳥の体が傾ぎ、そのまま地上へと落下していく。そちらでも手ぐすねを引いて待つ一団があった。
地表へと落ちる、まさにその瞬間、そこに小さな太陽が産まれた。
不死鳥を中心にした獄炎の玉が出現。
これまでとは比較にならない高温、周囲にいた連中は蒸発するかのように消え去る。大地に大きな穴を穿ち爆発が起こり、一帯が光と爆炎に包まれた。
敵はあまりにも多く、自身はあまりにも小さい。
迫る軍勢を前にして白いサイカの王は、深く息を吸い込むと、ひと際大きな声にて「ちー!」と鳴いた。途端に発生する広域超音波にて、四散していく敵兵たち。だがすぐにまた押し寄せてくる。数にまかせた津波のような波状攻撃を前にして、いかに強力とはいえ単発の攻撃では、じきに押し切られるのが目に見えていた。
しかしそんなことは当人も折り込み済み。ゆえに彼は頼りになる仲間たちを呼び寄せていた。
数だけならば敵に匹敵する黒いサイカたち。それらが敵勢力をぐるりと囲むように並んでいる。かつてないほどの動員数を誇る黒の軍勢が王の声に合わせて鳴く。
無数の「ちー」という大合唱が一つに重なった瞬間、それは絶唱へと至る。
平原に音の波紋がぽとりと一つ落ちた。
それは滅びの波紋、敵勢を中心にしてゆっくりと広がり、確実に巻き込まれた者らの肉体を蝕み、破壊し、滅びへと誘う。王の声にみんなの声を重ねることで奏でられる死の旋律。
災厄の使徒と恐れられるサイカたち。その由来は、すべてを喰らい尽くすかのごとき旺盛な食欲ゆえにだと思われがちだが、実はそうではない。これこそが一夜にして栄華を誇る都をも滅したという、彼らの真骨頂なのである。
三つの戦場にて派手に戦っている仲間たち。
おうおう、シルバーもレッドもシロも飛ばしてるねえ。
シルバーの全速力、超速え……。レッドなんて不死鳥ってよりも炎の魔神だし、シロも大概だな、サイカが大合唱するとあんな風になるのか。
と、見惚れているばかりじゃなくて、こっちもそろそろ始めないとね。
「それじゃあ、こっちも始めますか。レベル9、いでよチクワ戦士たち!」
ゾロゾロと姿を現したチクワ戦士たち、その数二千と五百。
対する敵の数は多すぎてわかんない。でも伝説の神獣をしてそこそこ強いとの評価を戴いた彼らの力を信じて、ここは任せるしかない。
「よし、かかれー!」
号令一下で敵勢へと突っ込んでいくチクワ戦士たち。
そんな彼らを援護するために私は、レベル7にて出した巨大チクワにて構築した高台の天辺に陣取り、指揮をとりつつレベル8のチクワバズーカで援護射撃を行う。
あれ? チクワ戦士たち、なんか手からバズーカの小型版みたいなのを放ったり、ビームサーベルみたいなのを出して、敵をバッタバッタと薙ぎ倒しているけど。あんな能力があったなんて知らなかったよ。
……そういえば雑事ばっかりやらせて、まともに戦わせたことなんてなかったな。王国軍相手のアレは勘定にいれるまでもあるまい。でもこの分ならなんとかイケるかも。
頑張れレベル9の戦士諸君、主に私の未来の平穏のために。
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