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42 そそり立つシンボル。
しおりを挟むあれからちょいちょい魔族から使者が来るようになった。
チクワ肥料が効いているらしく飢饉は大分と抑えられて、いい感じに国内が落ち着いているらしい。この分だとそっちは大丈夫そうだな。
久しぶりにギルドマスターが訪問してきた。
いつもの盲信者とは違いお仕事モードの顔をしている。なんでもギルドとして正式に依頼したいことがあるとのこと。
「実は、この頃、中央より辺境部へと人が流れてきているのです」
「それは喜ばしいことなのでは?」
「普段ならばそうです。ですがその流れの原因に問題があります。どうやら辺境以外の王国全土でジワジワと飢饉が広がっているようで」
ギルドマスターのこの話……、随分と以前にシルバーが危惧していたことが実現しつつあるということか。魔族の方でも似たような流れだったようだし、この分だと近いうちに大陸全土へと波及するかもね。
それで続々と流入する人たちを養うためにも、増産体制に入りたくって私のところのチクワ肥料を大々的に仕入れたいとの申し出であった。
別にこちらに異存はないので、気前よく放出してやる。
報酬? いらんよ、そんなもん。
廃村生活を満喫している私に銭など不要。どうしてもお礼をしたいっていうんだったら「私を聖女と呼ぶな」と注文をつけたら、即答で無理って言われちゃったよ、ちっ。
夜のうちにシルバーに跨り、こそこそと近隣の街や村々を回っては肥料用と食用のチクワを能力にて山と出して積んでいく。これはギルドマスターと事前に取り交わした約束による行動。援助してやるかわりに私に構うなと言ってある。
行く先々で聖女さまコールなんてされたら、きっとウンザリするから。
物陰からこっそりとこちらの様子を伺っている村人らの視線は感じていたが、無視して黙々と作業をこなす。ついでに村の周囲の具合の良さそうな土地に、チクワの雨を降らせて農作物の種も撒いておいた。これである程度は勝手に自生するだろう。
二週間ほどかけてあちこち回って、最後に冒険者ギルドのある街へと嫌々ながらも立ち寄ったのだが、壁の外からでも分かるような、背の高い変な棒状のモノが新たに建造されてあった。
「ねえ、あれってもしかして……」
「うむ。チクワを模したモニュメントじゃな。神殿だけでは飽き足らずにシンボルまで建てたか。この分ではじきにハナコ像が各地に乱立するもの時間の問題じゃな」
「!」
偶像崇拝ここに極まれり。
勝手に妄想を膨らませて美化させた挙句に、彫像と実物とを見比べられて「なんか違う」「だいぶ盛ってるよね」とか陰口を叩かれたら、私はもう立ち直れないかもしれない。絶望のあまり、遥か天空より超巨大バベルチクワを降らせてしまうかもしれない。
ウツウツとした気持ちのまま、外壁周りに出し並べられた木箱にチクワをドバドバ出していく。腹立たしいことにこの街が一帯の中核を担っているがゆえに、いざという時のために大量の在庫を用意しておく必要があるのだ。そうしないとみなが危険を冒して森の奥の廃村にまで押しかけて来ることになるから。
はっきり言って迷惑だ。
遭難者が出るたびに私の手が煩わされるのは勘弁してほしい。
本来ならば防波堤代わりとなるはずの街が、いまや森の聖女などという幻想を敬う聖地化しつつあるので、保身のために私が頑張れば頑張るほどにいらない信者が増えて、苦境に立たされるという事態に陥りつつある。
まるで蟻地獄みたいだ。どんどんと周囲に雑事が増えていく。
どうしてみんな私に構いたがるんだ。
「……にしても、ちょいと奇妙じゃのう。まるではかったかのような大地の不具合。どうにも嫌な予感がしよるわい」
作業をしながらブチブチ私が愚痴っていたら、そんな不穏な事をしれっと口にするシルバーさん。
伝説の神獣のフェンリルが、それっぽく言ったら何だかシャレにならないから、本当に止めてよね。もうこれ以上の騒動はごめんなんだから。
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