35 / 54
34 調査兵団来たる!
しおりを挟む近頃、やたらと恭順の意を示す冒険者ギルドから伝令が来た。
内容は「王都より聖女捜索のために調査兵団が派遣される」というものであった。
なんて迷惑な! と憤りつつ、伝令役の方にはチクワと倉庫から適当な素材を見繕って持たせて帰らせた。
わざわざ報せに来てくれたのには感謝するが、来るたびに「森の聖女さま」呼ばわりはヤメてほしい。でもいくら言って聞く耳を持ってくれない。彼らの頭の両脇についてあるアレは飾りなのであろうか。
冒険者ギルド支部のある街にはあれ以来訪れてはいない。
街ぐるみにて、きっととんでもないことになっている予感がする。下手に顔を見せたが最後、御神輿として担がれて街中を一晩中ねり歩くとかやられそうで怖い。だから意地でもあそこには近寄らないことにしている。
「それにしても今度は王都か……、なんだかどんどんと大ごとになっていく」
「じゃの。やはり聖女の噂が一人歩きしておるんじゃろうが、他にも森の活性化やら市場に出回っている品なんぞも関係しておるんじゃろう」とシルバー。
ちなみに市場に出回っている品ってのは、さっきの伝令の人に持たせた素材とかのこと。冒険者ギルドには廃村への人払いの報酬として、それなりの品をそれなりの量だけ渡してある。私は詳しく知らないが、その中には伝説級のモノなんぞも紛れていたらしくって、当然のごとく市場を多いに賑わした。
そして人は他人の景気のいい姿には敏感に反応するので、「なんであそこだけあんなに景気がいいんだ?」と注目を集めているようだ。
村々への施しにしたって、喰い散らかされた子供の死体なんぞ森で見かけたくないという、手前勝手な理由と我が家の倉庫整理の一環でやっただけなのに……。
物や金をバラ撒くだけで聖女だなんてこと、私は断じて認めんぞ!
ああいのは、もっとこう他人のために親身になって、コツコツ頑張って労力を惜しまない人が称されるもんだろうが。少なくとも右から左へポンっと、モノを投げるような奴が名乗っていいもんじゃないと思う。
「で、どうするつもりじゃ、王都に行くのか?」
「行くわけないでしょ! 聖女、誰それ? ってとぼけるに決まってるじゃない。実際のところ、これっぽっちもその気がないんだし、今さらノコノコ顔を出しておいて保護するとか言われても信じられないわよ。だから最後まで知らぬ存ぜぬを貫く」
「まあ、ハナコがそれでいいんならワシらに異存はない」
シルバーがそう言うと、側にいたレッドが「ケーン」と鳴き、シロが「ちー」と賛同の意を示してくれた。
嬉しくなった私は「愛い奴らよのお」と三匹を存分にいじり倒した。
こんなやり取りがあったことすらも、かなり忘却の彼方へと追いやったぐらいに日数が経たある朝のこと。
いつもの日課であるチクワのバラ撒きのために向かった村の広場にて、無様に寝転がっている人間たちを見つけた。
……多いな、五十人ぐらいいるぞ。
のびている連中の格好が統一されており、わりと立派なので、たぶん正式な兵士とかなのだろう。それらに混じって違う格好をしたのもチラホラ。
なんだか勇者パーティーのコスプレ集団みたいな男の子たち。
どうしてそれが分ったのかというと、装備が微妙に馴染んでいないからだ。
社会人一年目の人と、三十年目の人とでは同じスーツ姿でもまったく別物に見えるだろう? アレと同じだよ。スーツに体が馴染んでいないのと同じことが彼らにも起こっている。着ているだけで着こなせていないのだ。こればっかりは時間と手間と経験をかけるしかないので一挙手一投足とはいかない。
すると彼らが私と同時期にこちらに送られたとかいう人たちか……、なんとなく見覚えがあるので、もしかしたら同じ学校の生徒たちなのかもしれない。そして案の定、送られた先でこき使われていると。やっぱりロクでもないね。
周囲で「ホメて、ホメて」と尻尾を振る畜生どもに褒美のチクワを与えつつ、とりあえず手近な魔法使いみたいな格好をした男子を蹴飛ばす。
すると目を覚ました彼はもの凄く怯えて、「ごめんなさい、ごめんなさい、だからどうか殺さないで下さい」と連呼してまるで話にならなかった。
3
お気に入りに追加
2,846
あなたにおすすめの小説
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~
こもろう
ファンタジー
ストルト王国が国内に発生する瘴気を浄化させるために異世界から聖女を召喚した。
召喚されたのは二人の少女。一人は朗らかな美少女。もう一人は陰気な不細工少女。
美少女にのみ浄化の力があったため、不細工な方の少女は王宮から追い出してしまう。
そして美少女を懐柔しようとするが……
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ピンクの髪のオバサン異世界に行く
拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。
このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。
めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜
ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました
誠に申し訳ございません。
—————————————————
前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。
名前は山梨 花。
他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。
動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、
転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、
休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。
それは物心ついた時から生涯を終えるまで。
このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。
—————————————————
最後まで読んでくださりありがとうございました!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる