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31 因果は巡るよ生態系。

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 しばらくは穏やかな日々が続く。そんなある日のこと。
 シルバーの背に跨って森を駆けたり、レッドを空へと放って鷹狩りもどきをしたり、シロにお願いして色んな種とかを採取していて、ふと気がついてしまった。

「あれ? なんだか森の緑が濃くなっているような……、もしかして繁殖期とか」

 私たちが住みついている廃村の周辺もそうだが、全体的に陰翳が増している気がする。以前に通ったときには乾いていた地面が、すっかり伸びた木々のせいで陽射しが届かなくなってぬかるんでいるし、空気に混じる青臭さも明らかに濃くなっている。
 なんとなくだが外縁部が、神域の御戸近くの雰囲気にどことなく似てきたような。

「気のせいではないぞ、ハナコよ。オヌシのおかげで森が活性化して隆盛しておるのだ」

 シルバーの言葉に目が点になる私。
 確かにチクワの塔の一件に絡んで、局所的には森の育成に関与したが、全体に何か悪さをした覚えはまるでない。
 小首を傾げているとシルバーが「チクワが原因じゃよ」と言い出した。
 
 大抵の生物は食って出して寝るを繰り返す。
 さて、ここで問題となるチクワだが、このチクワは美味で栄養も豊富でなんだか体にもとってもいい食い物だ。私たちや森の仲間たちもみんな大好きさ。おかげでモリモリ食べている。すると当然のごとくモリモリと出すわけで、それらが植物たちにも多大な恩恵をもたらしているとのこと。
 つまりスーパーな食い物は、スーパーな肥料となり、それを吸収する森もスーパーとなってしまったというのが事の真相のようだ。なお森全体に影響が及んでいる原因は、シロの仲間である黒サイカたちにある。彼らって数が数なだけに普段は森のあちこちに分散して生活しているらしくって、それだけ肥料も拡散されるので、結果としてこうなった。
 みんなどこかで誰かと繋がっているんだ。ははは、自然って凄いや。
 そして処が変われば、そこの住民らにも色々と変化が生じるわけで……。

「この頃、村に顔をだす奴らが、やたらと逞しくなっているような気が、薄々だがしてはいたんだ」

 私は天を仰いで思わず呟かずにはいられない。
 以前からもクマみたいな大型獣がときおり混じってはいたが、どこか可愛げのあるのが揃っていたんだ。だが最近では全体的に大型化が進んでいて、クマぐらいのが標準サイズに格下げされて、より大きな個体がちらほらと。あと小型の連中も数々の修羅場を潜り抜けてきた歴戦の勇士のように、どこか凄味が増していた気もする。
 森が濃くなる。神域の奥地に環境が似てくる。強者が出現して生存競争が激化。ぶつかり合い互いに切磋琢磨することで高めあって超進化。いま丁度このヘンの進行具合らしい。

「ますます神域の森が難攻不落の未開の地として確立していくのぉ」

 フェンリル的には森が栄えるのは嬉しいらしく、彼の声音にはどこか愉快な音色が含まれている。しかも「どうしようか?」と私が相談するも「どうにもなるまい」とあっさり投げだされた。
 今更、チクワをばら撒く行為を止めたところで、ここまで育ったものはどうしようもなく、またこれまで貰えていたものが貰えなくなったら、飢えたモンスターやら獣どもが森の外へと出る可能性すらもあると理路整然と脅された。
 魔族側はわからないが、デカい亀の一匹で右往左往している人類にとても勝ち目はない。

「これはいよいよ森の魔女ならぬ、森の聖女の誕生かの。なんにせよ現在の神域の森において、もっとも強い影響力を持つのはハナコであることだけは間違いあるまい」

 あまりの大ごとに、ぐはっと心にダメージを受けた私はその場で片膝をついた。
 手をついた地面が、ねちゃりとぬかるんでいて気持ち悪かった。


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