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26 乙女、空を飛ぶ。

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 ファイアーバードのレッドの成長が著しい。というか残りの二匹の外見がまるで変化しないので、嫌でも彼の変化が目立つ。
 普段はハトかタカぐらいのサイズにて、私の周囲をうろついているので気づかなかったのだが、ほんの気まぐれにて元の姿になってもらって、しこたま驚いた。
 鳥が立派な怪鳥になっていた。
 紅い羽毛溢れる胸元に抱き着いたら、ポフンとこっちの体が優しく包まれてそっと沈んだ。
 その時、私は心の底からこう思ったんだ。
 
 「もしも死ぬならこの胸の中がいい」と。
 
 悔しいが私の造り出すチクワソファーやチクワベッドでは到達しえない楽園がそこにはあった。あっちの世界でもなんだかんだと色んな新素材が乱立していたけど、やっぱり羽毛だな! と思い知らされたよ。
 いつの間にやら最高の抱き枕が、最高のベッドになっていた。
 惜しむらくはこのサイズのベッドを我が家に持ち込めないこと。だってレッドってばすでにウチのリビングよりもずっと大きいんだもの。

 ここまでスクスクと育っているレッド、シルバーによれば不死鳥一歩手前ぐらいらしい。
 そのせいか翼のチカラもぐんぐんと増しており、私を掴まえて空を飛ぶぐらい朝飯前。それでちょっと空の散歩としゃれこんだのだが、初めて自分たちが住む神域の森を上から眺めた私は、自分でも気がつかないうちに涙を流していた。
 
 見渡す限りの緑の大地がどこまでも続く。
 そこにはただただ力強い生命が溢れていた。
 人の手の入っていない自然とはかくも雄大なのか。これほどまでに美しいものなのか。
 これが元の世界の人々が自ら破壊し、永遠に失ったモノ……。
 そう思った途端に胸の奥が締め付けられ、内より溢れてくる寂しさに心が悲鳴を上げる。でもそれと同時に、そんなモノの中に自分が含まれていることを知って、止めどもなく沸いてくる無情の喜び。それが高らかに叫んでいた。
 
「私は、いま、ここで生きている」と。
 
 なんとなくいい話っぽいだろう? でもそんな異世界素敵エピソードはここまでだ。
 すっかり忘れていた。ここが神域の森であるといういことを。それは下界だけの話ではない。その上界でもまた熾烈な生存競争が繰り広げられていたのである。
 私をぶら下げたレッドを見て、翼を持つ他の連中の目にはどのように映るのか?
 答えは「美味そうな獲物を持っているな、この野郎」である。
 獲物を持っているということは、すなわち足のかぎ爪が使えないだけでなく動きがかなり制限されている状態にあることを意味する。
 自然界ではこれをカモと呼ぶ。
 カモがネギ背負ってやってきたぜ、ヒャッハー! と興奮した連中が襲い来る。相手が不死鳥一歩手前であろうとも関係ねぇぜと向かってくる空の猛者ども。
 
 ここに私をボールに見立てた空中ラグビー大決戦が幕を開ける。
 トライ先はうちの廃村、しかしこんな連中を引き連れて真っ直ぐに戻ったら、せっかくマシになってきた住環境が木っ端みじんになってしまう。
 しようがないので逃げて連中を撒こうと頑張るレッド、それを逃がすものかと追跡する面々。
 地上のラグビーならば平面のタックルだけ躱せば済むけど、ここは空の上だから四方八方から敵が突っ込んでくる。
 そんな激しすぎる超次元ラグビーに巻き込まれた私は早々に意識を手放した。
 だってGがエグ過ぎるんだもの。
 こんなのたぶんベテランの戦闘機パイロットでも宇宙飛行士でも無理だからっ!!


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