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20 乙女の一石。

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 適度な食事と適度な睡眠、あとは適度な運動をこなしていれば、大抵の生き物が元気に育つ。植物の場合は動かない分だけ、どこかに栄養が流れて、よりスクスク育つようだ。
 シルバーが全力で何往復もして地面を耕し、そこにシロが呼んだ黒サイカの軍勢が穴をぽこぽこと掘って、上空からレッドに刻んだチクワをバラバラ降らしてもらい、再びサイカたちが穴を埋める。
 この作業をまる十日間も繰り返すことで、どうにか下地の処理を終えた私たち。
 すると土壌開発の効果がすぐに出始めて、一直線に伸びた道のそこかしこから、早くも植物たちの息吹が立ち昇ってきた。
 さすが神域の森の住人たちは根性が違うぜ、と感心していたらわずか二週間ほどで道がジャングルと化した。
 これで道も塞がれ、どうにか戦争の危機を回避できたかと安堵したのも束の間、今度は栄養過多につき植物たちがムキムキに育ちすぎて、なんだか神域の森でもひときわ緑の陰翳が濃い地区が出来上がってしまった。
 さながら神域の御戸の近くみたいな様子につき、嫌な予感がしていたら案の定、あそこを徘徊するクラスの連中がちらほらと住み着くようになって、森の危険度が一気に高まる。
 結果として御戸を中心とした危険地帯を拡大することとなってしまった。

「これでますます神域は何人の手も届かぬ地となったのぉ」
「……なんか、ほんと、すみません」

 しみじみと語るシルバーに私はあやまることしか出来なかった。
 そしてこの異変は早晩のうちにあちこちに知られることとなるワケで……。



 謎の塔の出現に始まった怪現象に頭を悩ませる冒険者ギルド。
 いきなり森の中にそびえ立つ巨塔が現れたとの報告が届いたかと思えば、大地が揺れてすぐに消失したというし、今度は森の奥にどこまでも続くかのようにのびた道が現れたかと思えば、一転して森へと変わり、その地を凶悪なモンスターや獣どもが闊歩しているとの報告が届く。
 かつて開拓村デイビィスに現れ、廃村へと追い込んだ巨大亀ゴルガノドン級の奴の目撃証言が続々ともたらされて、ギルドは一時パニック状態に陥った。
 神域の森にて何かが起こっているのは間違いない。だが調べようにもそんな危ない生物がゴロゴロしているところに人をやるワケにもいかず、とりあえずは慎重に外縁部から調べ直したうえで、危険地帯の選定のやり直しを余儀なくされることとなり、当面はギルドをあげてその作業にかかりっきりとなった。



 ところ変わって、ここは神域の森にほど近い魔族領の砦。

「どういうことだ!」と声を荒げたのはこの地を治める将。
 魔王からの信頼も厚く、勇猛にて鳴らした男である。
 どういうワケか知らないが、不意に人間領に進軍するの適した道が神域の森に出現したという報告を受け、これぞ天の恵みとこの機に乗じて一気に進軍しようと準備していたところであったのに、急に緑が湧いてきたかと思えば異常な速度で成長して、あっという間に道を塞ぐどころか、以前とは比べ物にならないくらいに生い茂り、出現するモンスターらも強力な個体が増えて、まるで別の森へと変貌を遂げてしまう。
 もはや進軍どころの話ではない。
 一刻も早く防衛を強化しないと砦の存続すらも危ういという事態に陥り、これに専念することとなった。



 更にところ変わって、こちらは辺境地区を統括する教会内にて。

「なに、聖女が現れただと? けしからん! 我らの許可もなく名乗るとはいかなる痴れ者か。早急に調べ上げて、ここに引きずってこい。ワシがじきじきに成敗してくれるわ」

 太った体躯をした中年の男がこめかみに青筋を立てて怒鳴り散らす。彼こそが王国に強い影響力を持つ教会の辺境地区を統括する大司祭。
 上司の激情を受けて報告をした部下が、慌てふためいては部屋から逃げるように出て行った。その不甲斐ない後ろ姿を見て、フンっと鼻を鳴らす大司祭。
 いささか傲慢な物言いと態度ではあったが、こと勇者や聖女のことに関しては彼の言葉が正しい。
 それらは異世界より渡ってきた人間の中から、特に能力や人格に秀でた者を教会が認定することで、初めて名乗ることが許される称号なのだ。それを勝手に自称するなんて教会どころか、国そのものに喧嘩を売っているに等しい行為に他ならない。ゆえに断じて看過していい問題ではないのだ。
 かくして大司祭の命を受けて教会の人間らが、辺境周辺に散らばり情報を集めるべく動きだす。

 世間とは往々にして当人の知らないところで動きだすもの。
 こうして山田花子は無自覚のうちに、世界に一石を投じまくって波乱を巻き起こしていたのだが、外界より隔離された廃村にて過ごす彼女と三匹がこれを知る術もなくて、彼女たちは今日も仲良くのほほんとチクワをかじっていた。


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