15 / 54
14 運命の出会いとは錯覚である。
しおりを挟むみんなで食べる分や大量に畑に撒いたりして能力を酷使していたら、気がついたらチクワ能力のレベルが5まで上がっていた。
始めは三本パック入りのチクワが、皮つき高級チクワとなり、長さやサイズが選べるチクワを経て、チーズ入りやピリ辛などの味付きチクワへと進化し、ついに両手からドバドバとチクワを滝のように大量に出せるようになる。
チーズ入りなんて食べたとき、感動のあまり私は思わず自身の頬を伝う涙を止めることが出来なかった。レッドはピリ辛なのが気に入ったらしく、ずっとソレばかりをおねだりしてくる。シルバーは大きくて太い方が食いであっていいと尻尾を振り、シロはなんでもござれだった。
毎回、出したモノをかじるだけの食事も味気ないので、チクワ料理にも色々と挑戦する。
刻んで潰して練って団子にしたり、刻んで潰して練ってハンバーグもどきにしたり、刻んで潰して練って麺っぽくしたり、途中から同じ調理法しかしていないことに気がついて、急遽、衣をつけて油で揚げてみたりもした。
油は森のそこら辺に生えている花の種を潰すと採れた。小麦っぽいのは廃村内に残っていた畑跡にて逞しく自生していたのを拝借した。野菜とかはうちの畑にチクワを撒いておけば勝手に育つ。
なにせこっちにはシルバーという歩く百科事典がついている。おかげで森は我が家の食糧庫状態、ゆえに私の辺境ライフはかなり安定しつつある。
近頃では森の仲間たちが、ちょろちょろと廃村に顔を出す。
いろんなモコモコや毛玉やケダモノにモンスターどもが広場に集結。彼らの目的は私のチクワだ。もちろん快く分け与えてあげる。
「みんなお食べー」と笑顔でばら撒く。
それにハムハムと群がるアニマルどもの姿を眺めてはひとり悦に浸るのが、私の密かな楽しみだ。そんな遊戯をしていたらお礼のつもりなのか、ときおり返礼品が家の前に届くようになった。
これだけ聞いたらメルヘンチックに感じるかもしれないが、現実は御伽話のように素敵に綺麗なことなんてない。
ウチの玄関先に転がるのは小動物や虫などの死骸の山である。
畜生どもの考える恩返しなんぞ所詮はこんなもんだ。そういえば家猫も似たような真似をすると聞く。飼い主に対する想いの現れのようだが、これを粗略に扱うと途端に拗ねると聞いたので、迂闊に捨てるわけにもいかず私は返礼品の処理をシロに一任している。
彼ならば号令一下、仲間を集めて適切に処理してくれるから。
こんな風に辺境の廃村にてご機嫌に過ごすこと半年あまり、ついに恐れていた事態に直面することとなる。
いつものように三匹と森の中を適当にぶらついていたら、上空にて警戒に当たっていたレッドが「ケーン」と鳴いた。これは何かを見つけたという合図だ。
で、行ってみたらソレが転がっていた。
あちこちに傷をこさえて血を流して倒れている冒険者風の格好をした男。
思わず「げっ!」と声をあげた私。
しかし見つけてしまったものは無視できない。とりあえず調べてみると悪運が強いのか、まだ生きていた。ちっ! こうなっては放っておくわけにもいかないので、とりあえず村まで運ぶことに。
男は歳の頃は二十半ばぐらいの金髪の偉丈夫。彫りは深めでわりといい男なのだが、ひっそりと隠遁生活を送る身の上としては、あまり喜ばしい遭遇ではない。だから適当に治療を施したら、とっとと放り出す予定である。
家に運び入れて男の傷の手当をする。
廃村の中には医者の家もあったので、そこそこの薬瓶が残されてあった。
当初はラベルになんて書かれてあるのかまるで読めなかった私も、みっちりとシルバーに読み書きを習ったおかげで、今ではこちらの世界の文字が普通に読める。なにせ田舎の夜はすることがない。寝るか勉強するぐらいしかないので、おかげで学習はすこぶる捗った。
男の鎧を引っぺがし、丸裸にして傷口を水でキレイにしてから塗り薬をベタベタつけて、後は包帯でぐるぐる巻き。
男の裸は平気なのかって? ああ、酔っ払って帰宅したオヤジの着替えなんかをしょっちゅう手伝っていたせいか、特に何も感じなくなったよ。どんないい男だって一皮むけばみんな同じだからね。それよりもむしろ、いい歳こいた大人がお漏らしをするという事実の方が私を驚愕させたわ。酔うとどうしても下半身が緩くなるらしいのだが、後始末をさせられるこっちはたまったもんじゃない。
だから私は異性に夢をみない。あんなのはただのデカくて可愛げのない赤ん坊だ。
傷の手当がちょうど終わったところで、ううんと男が意識を取り戻す。
薄っすらと瞼を開けてこっちを見て「ここは? それに君はいったい……」と呟いたので、とりあえず顔面にパンチを入れて黙らせた。
のびている男に手早く服と鎧を着せると、シルバーに頼んで森の外の安全なところに捨ててくるようにお願いした。
男をくわえて廃村を出たシルバーは、駆け足にて森の外縁部よりかなり離れた草原まで行くと、そこで荷物を放りだした。だがいささか動作が乱雑だったせいか、衝撃にて男が再び目を覚ます。そして自分の目の前に立つ巨大な銀狼の姿に絶句した。
金色に輝く両目に睨まれて思わず呼吸をすることすら忘れる。
「事情は知らぬが、次はないと思え。あの場所はチカラなきものを拒む」
銀狼から発せられるは荘厳なる声。
それだけ告げると銀狼は森の方へと向かって駆けていってしまった。
取り残された男はその後ろ姿を黙って見送ることしか出来ない。
「言葉を話す狼……、伝説のフェンリル!? それにあの御方はいったい……」
男の呟きは草原に吹く風にかき消されて、自身の耳にすらも届かなかった。
19
お気に入りに追加
2,853
あなたにおすすめの小説
新人神様のまったり天界生活
源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。
「異世界で勇者をやってほしい」
「お断りします」
「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」
「・・・え?」
神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!?
新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる!
ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。
果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。
一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。
まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”
どたぬき
ファンタジー
ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。
なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。
3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜
I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。
レベル、ステータス、その他もろもろ
最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。
彼の役目は異世界の危機を救うこと。
異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。
彼はそんな人生で何よりも
人との別れの連続が辛かった。
だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。
しかし、彼は自分の強さを強すぎる
が故に、隠しきることができない。
そしてまた、この異世界でも、
服部隼人の強さが人々にばれていく
のだった。
魔力0の俺は王家から追放された挙句なぜか体にドラゴンが棲みついた~伝説のドラゴンの魔力を手に入れた俺はちょっと王家を懲らしめようと思います~
きょろ
ファンタジー
この異世界には人間、動物を始め様々な種族が存在している。
ドラゴン、エルフ、ドワーフにゴブリン…多岐に渡る生物が棲むここは異世界「ソウルエンド」。
この世界で一番権力を持っていると言われる王族の“ロックロス家”は、その千年以上続く歴史の中で過去最大のピンチにぶつかっていた。
「――このロックロス家からこんな奴が生まれるとは…!!この歳まで本当に魔力0とは…貴様なんぞ一族の恥だ!出ていけッ!」
ソウルエンドの王でもある父親にそう言われた青年“レイ・ロックロス”。
十六歳の彼はロックロス家の歴史上……いや、人類が初めて魔力を生み出してから初の“魔力0”の人間だった―。
森羅万象、命ある全てのものに魔力が流れている。その魔力の大きさや強さに変化はあれど魔力0はあり得なかったのだ。
庶民ならいざ知らず、王族の、それもこの異世界トップのロックロス家にとってはあってはならない事態。
レイの父親は、面子も権力も失ってはならぬと極秘に“養子”を迎えた―。
成績優秀、魔力レベルも高い。見捨てた我が子よりも優秀な養子を存分に可愛がった父。
そして――。
魔力“0”と名前の“レイ”を掛けて魔法学校でも馬鹿にされ成績も一番下の“本当の息子”だったはずのレイ・ロックロスは十六歳になったこの日……遂に家から追放された―。
絶望と悲しみに打ちひしがれる………
事はなく、レイ・ロックロスは清々しい顔で家を出て行った。
「ああ~~~めちゃくちゃいい天気!やっと自由を手に入れたぜ俺は!」
十六年の人生の中で一番解放感を得たこの日。
実はレイには昔から一つ気になっていたことがあった。その真実を探る為レイはある場所へと向かっていたのだが、道中お腹が減ったレイは子供の頃から仲が良い近くの農場でご飯を貰った。
「うめぇ~~!ここの卵かけご飯は最高だぜ!」
しかし、レイが食べたその卵は何と“伝説の古代竜の卵”だった――。
レイの気になっている事とは―?
食べた卵のせいでドラゴンが棲みついた―⁉
縁を切ったはずのロックロス家に隠された秘密とは―。
全ての真相に辿り着く為、レイとドラゴンはほのぼのダンジョンを攻略するつもりがどんどん仲間が増えて力も手にし異世界を脅かす程の最強パーティになっちゃいました。
あまりに強大な力を手にしたレイ達の前に、最高権力のロックロス家が次々と刺客を送り込む。
様々な展開が繰り広げられるファンタジー物語。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる