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02 愛と勇気と知恵だけでは足りない。

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「ヘンテコな能力に見知らぬ場所、これが噂の異世界転移という奴か……、だったらあのオッサンが神様とか? それにしては仕事が雑すぎる」

 接触時間一分にも満たないって、手抜きにもほどがあるだろうが!
 自分で出したチクワをかじりつつ、私は地の底で不満をぶち撒けた。
 どうしてくれるんだよ!
 バイトのシフトに穴を開けちまったっ! せっかく日頃の頑張りが評価されて時給が上がりそうだったのに。
 家の方は、まあ問題ないだろう。どうせこれ幸いとオヤジが愛人でも引っ張り込むに違いない。
 くそっ、どうせ異世界に送るんならあっちを送れよ。いてもいなくても世間的に問題ないんだから。少なくとも私がいなくなったら、バイト仲間や社員さんに迷惑がかかるんだぞ。

 一通り不満をぶち撒けたら小腹が空いたので、またチクワを出した。
 それをモグモグしながら周囲を改めてじっくりと調べてみる。
 穴の底は、まさに蟻も這い出る隙間がないほどのピッチリとした見事な造りだった。たぶん蟻どころか紙すらも通らないほど精緻に組まれた石材同士。壁や床に仕掛けがないかとそれっぽくコンコンと叩いてみたが、そんな気の利いたモノはどこにも見当たらなかった。押したらへこむ床とか、忍者屋敷みたいに回転する壁も、石材が引き抜けそうな箇所もなし。
 わかったことといったら私の絶体絶命指数が、限界値を超えたということ。
 
 これはどうかんがえても自力脱出は無理だ……。
 
 探索がてら地の底をぐるっと一周回ってみた感覚だと、外周で百メートルぐらいもある巨大な円筒の穴倉。
 私以外には何もない。ぺんぺん草の一本どころか苔すらも生えちゃいない。床にうっすらとホコリは積もっているが、さすがにこれは勘定にいれたくない。
 とりあえずチクワがあるので当面の食糧はいいが、問題は水である。チョロチョロと湧き水でもないかと期待したのだが、どこにもない。

「よわったな、こんなことならチクワじゃなくて水って言えばよかった」

 そう、人はチクワはなくても生きていけるが、水がないと死んでしまうのだ。
 しかもチクワってそれなりに塩分を含んでいるハズだから、後で猛烈な喉の渇きに晒されることになるとういのに。こんなことなら調子に乗って五本も食うんじゃなかった。
 ……などと言いながら、六本目をかじる。
 だって歩き回ってお腹が減ったんだもの。
 後のことは後で考えよう。私は目先の欲望に忠実に生きる。

 ゴロンと少しだけ冷たい床に身を委ね、チクワをかじりつつ、現状についてぼんやりと思いを馳せる。
 よくある漫画やアニメとかのお話とかならば、どんなショボい能力でも創意工夫と愛と勇気とハーレムで難局を乗り越えたり出来るんだろうけど……。

 さすがにこれは無理じゃね?
 だってチクワだよ?
 これで私に何をどうしろと?

 特殊能力には違いないけれども出オチ感が酷すぎる。あと私をこんな目に合わせたあのオッサンは、今度見かけたら絶対に殴る。もぐもぐ、ごっくん。
 腹が満ちたので私は不貞寝を決め込んだ。



 で、目を覚ましたら、なんか小っこいのがいた。


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