御者のお仕事。

月芝

文字の大きさ
上 下
20 / 121

020 集落奪還作戦・属性

しおりを挟む
 
 疾駆しながら俺は短双剣の刃を打ち合わせる。

「哭け、黒羽」

 目に見えぬほどの細かな振動にて震える刃。鋭利な薄刃の縁にほんのりと赤味がさし、小さいながらも絶大な切れ味を有する絶刀へと昇華。この状態になれば岩や鋼どころか慮骸の強靭な体にも通用する。

 相棒のメロウと対峙し無防備となっている慮骸ヒトデの背中。
 そこに跳びかかった俺は二振りの黒羽を逆手に持ち、思いっきりヒトデの背へと振り下ろす。この慮骸には産毛程度の体毛しかない。肌がむき出しなので短剣の攻撃でも比較的通りやすい。

 ヒトデの五指に似た部位、その薬指に相当するところの根元。人体でいえば肩口と言えばいいのか。そこに深々と刃を突き入れたところで、俺は短双剣にぶらさがり全体重をかけいっきに引き下げる。
 たちまち二筋の裂傷が発生。
 ふつうの生き物であれば痛みのあまりのたうちまわるほどの深い傷。
 しかし生体兵器である慮骸は痛覚がかなり鈍い。だからせいぜい鬱陶しがって身をよじる程度。それでも人体における血液に相当する体液は流れる。

 傷口より飛び散った体液は赤茶けた錆色。
 慮骸の中には酸性の体液を持つ個体もいるが、このヒトデはちがう。
 これにより属性が判明した。
 属性は赤。

「よし、ついてるぞ。混じりモノじゃない。これならなんとか」

 いったんヒトデの背から離れつつ、俺は腰につけている小鞄の中身を素早く確認する。

  ◇

 生体兵器「慮骸」には属性が存在する。
 それを手っ取り早く確認できるのが体液の色。
 体液が赤ならば火系、青ならば水系、緑ならば植物系といった具合に。
 基本を赤青緑の三原色とし、組み合わせにより派生する黄や紫などの体液を持つ個体を「混じりモノ」と呼ぶ。
 属性には相性があり、対慮骸戦では相手が苦手とする属性の攻撃をすることが基本となっている。

 先ほど俺が「ついている」と言ったのは、目の前のヒトデの属性が単色だから。
 これが混じりモノとなると対処がとたんにややこしくなる。
 例えば体液が空色だとすれば、緑と青が混ざっていることになる。それすなわち二種類の属性を宿しており、通常個体よりもずっと強い力の有していることを意味しているからだ。
 もっとも単色だろうが混じりモノであろうが、人類にとって脅威なのは同じだが……。

  ◇

 赤は緑に強く、緑は青に強く、青は赤に強い。

 よってヒトデにすべき攻撃の属性は青。
 俺が腰の小鞄より取り出したのは、青い石の欠片と煙玉。
 煙玉は文字通り煙幕をはるための道具。ほんの一チア(約一センチぐらい)ほどの直径ながらも、傷をつけて転がすだけで瞬間的に濃い白煙を大量に吐き出す。

「メロウっ!」

 相棒の名を呼ぶのと同時に俺は煙玉をヒトデの足下へ向けて放った。
 たちまち慮骸の巨体が白煙に包まれたところで駆け寄り選手交代。
 俺はすれ違いざま、相棒に青い石の欠片を渡し「頼んだぞ」と声をかける。
 青い石の欠片を体内へと取り込みつつメロウが「ぴゅい」と鳴く。
 遠ざかる緑のスーラ。その体が薄っすらと変色しはじめたのを横目に、俺は単身にてヒトデへと立ち向かう。

 場所が屋外ということもあり煙幕はすぐに風で散らされるだろう。
 その前に少しでも手傷を負わせ、メロウの攻撃準備が整うまでの時間を稼ぐ。それがいまの俺が果たすべき役割。
 俺は煙にまぎれながら接敵。二枚の黒羽を存分に振るい、たちまちヒトデの体表に大小の裂傷をこさえる。だが流れる体液の量や見た目の痛々しさに反して、たいして損害は与えられていない。
 やっかいなことに慮骸には自己再生機能が備わっている。
 ゆえに背中の傷ともども、こいつにとっては痛打に値しない。悲しいかな俺の決死の攻撃も蚊に刺されたようなもの。

 ついに煙が晴れた。
 互いの姿が丸見えとなる。
 とたんにヒトデの五指が暴れだす。
 親指と小指を足代わりにして、残りの指が各々動いては俺に襲いかかる。
 ひとさし指の先にてひと息に踏み潰そうとしてきたとおもえば、中指が獲物を弾き飛ばそうと跳ね、薬指が鉈のように振り下ろされる。
 どれもこれも俺にとっては死神の鎌に等しい攻撃。
 かすっただけでも当たり所が悪ければ即終了。命懸けの綱渡り。
 拡張能力を使っていることもあって、時間の流れがやたらと遅く感じる。
 相棒からの合図はまだこない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

秋津皇国興亡記

三笠 陣
ファンタジー
 東洋の端に浮かぶ島国「秋津皇国」。  戦国時代の末期から海洋進出を進めてきたこの国はその後の約二〇〇年間で、北は大陸の凍土から、南は泰平洋の島々を植民地とする広大な領土を持つに至っていた。  だが、国内では産業革命が進み近代化を成し遂げる一方、その支配体制は六大将家「六家」を中心とする諸侯が領国を支配する封建体制が敷かれ続けているという歪な形のままであった。  一方、国外では西洋列強による東洋進出が進み、皇国を取り巻く国際環境は徐々に緊張感を孕むものとなっていく。  六家の一つ、結城家の十七歳となる嫡男・景紀は、父である当主・景忠が病に倒れたため、国論が攘夷と経済振興に割れる中、結城家の政務全般を引き継ぐこととなった。  そして、彼に付き従うシキガミの少女・冬花と彼へと嫁いだ少女・宵姫。  やがて彼らは激動の時代へと呑み込まれていくこととなる。 ※表紙画像・キャラクターデザインはイラストレーターのSioN先生にお願いいたしました。 イラストの著作権はSioN先生に、独占的ライセンス権は筆者にありますので無断での転載・利用はご遠慮下さい。 (本作は、「小説家になろう」様にて連載中の作品を転載したものです。)

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

ELYSION

スノーマン
ファンタジー
女神エリュシオンの加護の下、人と亜人が暮らすホワイトランド。 主人公ジークは、旅の途中で自分の名前と少しの事を除き、 記憶の大半をなくしてしまう。 ある人の紹介で傭兵団に入る事にしたジークは、 個性豊かな仲間や不思議な少女フィアと出会い、世界を巡る戦いに巻き込まれてしまう。 人間性と喪失、再会のコメディ&ダークファンタジー! 暴力・薬物・残虐表現がある為、R15にしています。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...