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020 集落奪還作戦・属性
しおりを挟む疾駆しながら俺は短双剣の刃を打ち合わせる。
「哭け、黒羽」
目に見えぬほどの細かな振動にて震える刃。鋭利な薄刃の縁にほんのりと赤味がさし、小さいながらも絶大な切れ味を有する絶刀へと昇華。この状態になれば岩や鋼どころか慮骸の強靭な体にも通用する。
相棒のメロウと対峙し無防備となっている慮骸ヒトデの背中。
そこに跳びかかった俺は二振りの黒羽を逆手に持ち、思いっきりヒトデの背へと振り下ろす。この慮骸には産毛程度の体毛しかない。肌がむき出しなので短剣の攻撃でも比較的通りやすい。
ヒトデの五指に似た部位、その薬指に相当するところの根元。人体でいえば肩口と言えばいいのか。そこに深々と刃を突き入れたところで、俺は短双剣にぶらさがり全体重をかけいっきに引き下げる。
たちまち二筋の裂傷が発生。
ふつうの生き物であれば痛みのあまりのたうちまわるほどの深い傷。
しかし生体兵器である慮骸は痛覚がかなり鈍い。だからせいぜい鬱陶しがって身をよじる程度。それでも人体における血液に相当する体液は流れる。
傷口より飛び散った体液は赤茶けた錆色。
慮骸の中には酸性の体液を持つ個体もいるが、このヒトデはちがう。
これにより属性が判明した。
属性は赤。
「よし、ついてるぞ。混じりモノじゃない。これならなんとか」
いったんヒトデの背から離れつつ、俺は腰につけている小鞄の中身を素早く確認する。
◇
生体兵器「慮骸」には属性が存在する。
それを手っ取り早く確認できるのが体液の色。
体液が赤ならば火系、青ならば水系、緑ならば植物系といった具合に。
基本を赤青緑の三原色とし、組み合わせにより派生する黄や紫などの体液を持つ個体を「混じりモノ」と呼ぶ。
属性には相性があり、対慮骸戦では相手が苦手とする属性の攻撃をすることが基本となっている。
先ほど俺が「ついている」と言ったのは、目の前のヒトデの属性が単色だから。
これが混じりモノとなると対処がとたんにややこしくなる。
例えば体液が空色だとすれば、緑と青が混ざっていることになる。それすなわち二種類の属性を宿しており、通常個体よりもずっと強い力の有していることを意味しているからだ。
もっとも単色だろうが混じりモノであろうが、人類にとって脅威なのは同じだが……。
◇
赤は緑に強く、緑は青に強く、青は赤に強い。
よってヒトデにすべき攻撃の属性は青。
俺が腰の小鞄より取り出したのは、青い石の欠片と煙玉。
煙玉は文字通り煙幕をはるための道具。ほんの一チア(約一センチぐらい)ほどの直径ながらも、傷をつけて転がすだけで瞬間的に濃い白煙を大量に吐き出す。
「メロウっ!」
相棒の名を呼ぶのと同時に俺は煙玉をヒトデの足下へ向けて放った。
たちまち慮骸の巨体が白煙に包まれたところで駆け寄り選手交代。
俺はすれ違いざま、相棒に青い石の欠片を渡し「頼んだぞ」と声をかける。
青い石の欠片を体内へと取り込みつつメロウが「ぴゅい」と鳴く。
遠ざかる緑のスーラ。その体が薄っすらと変色しはじめたのを横目に、俺は単身にてヒトデへと立ち向かう。
場所が屋外ということもあり煙幕はすぐに風で散らされるだろう。
その前に少しでも手傷を負わせ、メロウの攻撃準備が整うまでの時間を稼ぐ。それがいまの俺が果たすべき役割。
俺は煙にまぎれながら接敵。二枚の黒羽を存分に振るい、たちまちヒトデの体表に大小の裂傷をこさえる。だが流れる体液の量や見た目の痛々しさに反して、たいして損害は与えられていない。
やっかいなことに慮骸には自己再生機能が備わっている。
ゆえに背中の傷ともども、こいつにとっては痛打に値しない。悲しいかな俺の決死の攻撃も蚊に刺されたようなもの。
ついに煙が晴れた。
互いの姿が丸見えとなる。
とたんにヒトデの五指が暴れだす。
親指と小指を足代わりにして、残りの指が各々動いては俺に襲いかかる。
ひとさし指の先にてひと息に踏み潰そうとしてきたとおもえば、中指が獲物を弾き飛ばそうと跳ね、薬指が鉈のように振り下ろされる。
どれもこれも俺にとっては死神の鎌に等しい攻撃。
かすっただけでも当たり所が悪ければ即終了。命懸けの綱渡り。
拡張能力を使っていることもあって、時間の流れがやたらと遅く感じる。
相棒からの合図はまだこない。
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