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022 石像の怪
しおりを挟むドーム型をした巨大な温室。
なかはちょっとしたジャングル状態。建物を構成している曇りガラスはぶ厚くて頑強。殴ろうが蹴ろうが、石をぶつけようが表面にかすかな傷がついただけ。まるで水族館にある水槽のように丈夫で、とても手に負えそうにない。
空中回廊のときみたいに、どこかに外部へと通じている穴でもないかと、期待して探すも見当たらなかった。
ガーゴイルがいる噴水広場を避けて、周辺の探索を慎重に進めていく。
結果、いくつかのことが判明した。
まず第一に、外へと通じているとおぼしき道は、あの噴水広場の奥の小径だけということ。
探索の過程で、ボクはドームの外縁部分を沿うようにして広場を大きく迂回。
広場の向こう側を目指すも、途中で鉄柵によって進路を阻まれる。
貴族の屋敷を囲うような刺々しい柵は、ところどころに釣り針のような返しがついた物々しさ。まるで鉄のイバラのようであり、とてもではないがよじ登れそうにない。よしんば登れたところで天井近くにまで続いているから超えるのはむずかしい。
反対側からまわり込んでみても同様であった。
つまり小径を守るようにして鉄柵は設置されてあったのである。
先に進むためには、どうあってもあの広場を突破して、ガーゴイルをかわし、小径を抜ける必要があるということ。
次に一番の脅威となるガーゴイルだが、やはり広場に侵入者があると反応するらしい。
試しにギリギリまで広場に近づき、ほんの一歩だけ踏み込んでみたのだが、とたんにあのギョロ目にてこちらを捕捉された。
すぐさま足を引っ込めたのでそれきりですんだが、あの鋭い眼光……。
とてもヤツの目を盗んでだし抜くなんて芸当はできそうにない。
そして肝心の飛行能力に関しても判明している。
その能力たるや最悪のひと言に尽きる。
適当な枝を一本へし折り、これを広場に投げ入れたところ、ガーゴイルはとくにツバサを羽ばたかせることもなく、ほぼ無音で宙を滑空。
投げ込んだ枝が地面に敷き詰められた赤レンガにぶつかり、カツンと乾いた音を立てて跳ねたところを、間髪入れずに足のカギ爪にて捕まえ、たちまちのうちに細切れにしてしまった。
とんでもない反応速度と飛行能力!
獲物に襲いかかる姿は、タカやワシのそれを彷彿とさせる。
とてもではないが駆けっこで勝ち目はない。
たちまち背後から斬り裂かれるのがオチであろう。
唯一の救いはガーゴイルがあくま広場だけを守っているということ。
もしくは噴水の女体像を守っているのか。
「ヤツをどうにかしないと」
方法を模索したとき、真っ先に思いついたのは、噴水のガソリンを利用すること。
さいわいなことに、ボクはブックマッチを所持している。残りの火種は十九。こいつを放り込んだら、簡単に爆散できるのではと安易に考えた。
しかしそれは甘かった。
噴水から吐き出されているガソリン。その一部は気化して周辺に漂ってしており、さらには植物をも浸蝕していた。
緑の中を歩き回っていると、やたらと手にねちゃねちゃした感触がして、刺激臭がついてなかなか消えてくれないことが多々。
だから広場周辺から拾い集めた葉っぱや枝を持って、地下へと通じる階段に潜り実験してみたのだ。
水路のところへ向かい、そこで火をつけてみたらじつによく燃えた。これで残りの火種は十八。
おそらくガーゴイルは倒せる。
でも同時に周辺が燃え盛り、火勢がたちまち広がって、ドーム内が地獄の窯と化す。
生きながら火葬にされるのなんてボクはごめんだ。想像しただけでゾッとする。
「……いや、ちょっと待てよ。地上が燃えている間、ここに避難していれば安全か?」
広場に近づいて火を放つのが確実だけれども、それは無謀が過ぎる。巻き込まれて自分が火だるまになるだろう。
それを避けるためには遠方から火をつける工夫が必要。
となれば必要となるのは……。
「火球っぽいのを投げ入れる……のも危険か。ボクの肩で遠投なんてたかが知れているだろうから飛距離は期待できない。それにここは障害物も多いし。
だとすれば、やはり導火線の類が確実か。
うーん、枯草や蔓でどうにかなるかな」
考えながら地上へと戻ったところで、肩かけカバンの中にあるサバイバル本をとり出す。
参考になりそうなページをボクは探す。
蔓をほどいたり、草を編み込むことでロープを作る方法があった。
ありがたいことにイラストにて、制作工程を順序立てて丁寧に説明してくれている。
これならば見よう見真似でなんとかなりそう。
ボクはニンマリ。しばしそのページにかじりつく。
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