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297 事故物件

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 ケタケタ笑い続ける女神イースクロア。
 背後から追いすがりまとわりついては、不快に響く嘲笑を振り払うようにして、わたしたちは出口へと向かう。
 行きと同様に帰りも案内に立ってくれる黒髪の女性の従者さん。
 わざわざ案内されるほどでもないのに丁寧なお見送り。
 玄関扉をまえにして、「もう、このへんで」とわたしが遠慮したら、黒髪の女性はにっこり笑顔で「まあまあ」
 女神の御座である家の敷地をでて、宇宙空間を移動し、外で待機していた宇宙戦艦「たまさぶろう」の甲板へと着いたところで、「いろいろとありがとうございました」とわたしとルーシーがペコリと頭を下げる。なのに黒髪の女性はにっこり笑顔で「まあまあ」
 ついには「まあまあ」言いながら艦内どころか、艦橋までくっついてきた。
 さすがに行動がおかし過ぎるので、「いったいどういうおつもりですか?」とルーシーが問いただす。
 すると黒髪の従者さんは「だって、あのまま残っていたら、いっしょに吹き飛ばされちゃうんですもの」と言って、パチっとウインク。とてもチャーミングな笑みを浮かべた。
 どうやらルーシーの企みはバレていたらしい。
 なのに止めようとしない彼女。その真意やいかに?

「真意も何も、さんざんババアの繰り言につき合わされて、面倒をみさせられたあげくに爆死で心中とか、ぜったいにイヤだもの。ほらほら、早くしないと勘付かれちゃうわよ」

 やれ急げ、すぐ逃げろと催促するお姉さん。
 ツンと澄ました色白美人さんは、主人の目が届かなくなったとたんに本音全開。「このまま私を連れて逃げて。でないとバラすから」とまで言い出し、こちらを脅す始末。
 半ばごり押しにて、わたしたちはしぶしぶ彼女の同行を許可する羽目に。
 ルーシーがリモコンのスイッチをポチっとな。
 続いて宇宙戦艦「たまさぶろう」が跳躍転移にて、すかさずトンズラ。



 カチコチカチコチカチコチカチコチ……。
 この手の音は、一度気になり出すと、やたらと耳につくもの。
 満願成就にて勝ち誇り、ずっと笑っていた女神イースクロア。気がついたら、部屋には自分一人きり。さすがに疲れて笑うのを止めた。
 すると代わりに聞こえてきたのが、奇妙な機械音。
 どこから聞こえてくるのかと意識を集中すると、どうやら自分が寝ているベッドの下あたりから微かに鳴っている。
 あいにくと自分のカラダは動かないので、従者に確認をさせるために呼ぼうとするも、それは適わなかった。



 無音無抵抗であるはずの跳躍転移の最中。
 背後からグワンと衝撃を受けて、宇宙戦艦「たまさぶろう」が大きく揺れた。
 念のためにと座席にてシートベルトを締めていたのに、ドタンバタンと尻が暴れる。

「ふぅ、少々ムチャをして連続ジャンプを敢行して正解でしたね」とルーシー。

 危機一髪。お人形さんの機転とたまさぶろうのがんばりで、我々は難を逃れた。

「あっ! 頭の中でキンコン鳴り出した」とわたし。

 どうやらイースクロアは無事に爆ぜたようだ。
 でも、狂神ラーダクロアの時みたいに全身が痛くならないし、気も失わない。
 ゴッドスレイヤーも二度目となると、カラダもすっかり慣れたもの。

「これだけ距離が離れているのに……。くわばらくわばら、やっぱり逃げて正解だったわね」

 しみじみそう漏らしたのは、黒髪のお姉さん。
 そんな女神イースクロアの元従者だった彼女、じつは名前がない。文字通りの役目だけのために造りだされた存在にて、こき使うばかりで一切の親愛は注がれなかったそうな。

「そりゃあ、見捨てられもするよね」「ですね」

 わたしとルーシーは主従そろってウンウン頷く。
 とはいえ見目麗しい女人が、いつまでも名無しというのも気が引ける。
 すると彼女が「だったら、あなたがつけてよ」と言ったので、しばし思案の後にわたしは「パール」と名付ける。
 色白美人だから真珠。いささか安直ではあるが、当人が気に入ったみたいなので問題なかろう。
 だが、この名付けという行為そのものが罠であったことが直後に発覚!
 パールはいけしゃあしゃあと言った。

「これでお姉さんも、リンネさまのシモベになったんだから、ちゃんと面倒をみてよね」

 名前を与える。それすなわち主従の契りを結ぶこと。
 そして一度、結ばれた契約は死が二人を別つまで続く。
 テッテレー! リンネはなし崩し的に第四のシモベをゲット。寄生する気まんまんの扶養家族が増えた。

 なにやらだまし討ちにあったみたいでおもしろくない。
 わたしがムクレていたら、パールが「ごめんねえ。でも、こう見えてお姉さんもけっこう必死だったんだから」と言って、事情を説明する。
 神に造られた者。その所有者はもちろん神さまとなる。
 しかしそのご主人さまが何らかの理由にていなくなった場合、造られし者の所有権が宙ぶらりんに。
 もしも他の神さまに拾われたら、そのまま所有権が移行してしまう。
 新たに仕える相手が、どのような人物かなんてわからない。ひょっとしたらイケメンでお金持ちでいい人かもしれないけれども、その確率は限りなくゼロに近い。なにせ他所さまの庭に忍び込んで、落ちているモノを勝手に拾っていくような相手だもの。
 お人形さんに舌なめずりしては弄んだり、手足をもいでは悦に浸るような変態だったら……。
 自身の肩を抱き、ぶるると震えながら、そう話したパール。
 確かに因業ババアの次が変態とか猟奇マニアとか、パワハラとセクハラのオンパレードにて職場環境が劣悪過ぎる。
 ふむ。そういう事情であれば致し方あるまい。
 わたしは懐に飛び込んできた、ちょっとしたたかだけれども、キレイな窮鳥を受け入れることにした。
 ただ先ほどの説明の中で、少しばかり気になったことがある。

「ねえ、パール。ここって他所から神さまが忍び込んで来たりするの?」
「あー、前ほどではないけれどね。でも今後はどうかな。管理者がいなくなったから、またゴミ捨て場に逆戻りしちゃうかも」
「えーと、そこは新たな神さまが派遣されたりとかは……」
「ないない。こんな縁起の悪い事故物件、誰も担当したがらないわよ。でもリンネさまたちにとっては、その方が都合がいいと思うけど」

 ラーダクロア、イースクロア、フォークロア。
 結果的に女神三姉妹を破滅へと追い込んだノットガルド。
 言われてみれば、たしかに怨念渦まく事故物件。

「うーん。そんな場所で生きていくしかないわたしたちって、いったい……」
「べつにいいじゃありませんか。どうせリンネさまはいくら恨まれようが祟られようがへっちゃらですし、神なんていたところでたいして役にも立たないのですから」

 うじうじ悩むのが馬鹿らしいと、バッサリ一刀両断なルーシーさん。
 それもそうかと気を取り直し、わたしたちは帰路を征く。


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