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280 とっておきその二
しおりを挟む赤茶けた土色に占められたなだらかな丘陵地帯。
中央部分が真っ平な盆地となっており、遮蔽物は一切ない。
天然の闘技場のごとき地形にて、こここそが対狂神戦にて用意された決戦の地。
わたしのギフト「人形召喚」による三つのシモベ。
ルーシー、富士丸、たまさぶろう。
各々が所有する亜空間世界の一部を分離し、つなぎ合わせることで造られた第四の亜空間。
第四の亜空間に通じる穴へと落とされたラーダクロアが、中央の盆地、そのど真ん中に出現するのと同時に、周囲より一斉に砲撃が開始される。
待ち構えていたルーシー率いる、アーミードールズの戦車部隊による猛攻。
本来の戦車よりもギュッと圧縮されデフォルメされたデザインは、なんともポップにてオモチャ感が満載だが、機動性と破壊力は実物をはるかにしのいでいる。
放たれる砲撃は、月を抉り次元の壁をも粉砕するリンネの魔導砲を模したモノにて、威力は凶悪そのもの。
四方八方より破壊光線の洗礼を受けて、ラーダクロアの全身が炎に包まれ激しく燃え上がる。
蒼白い炎の中で巨大な影が悶え苦しんでいる。
ついには片膝をついたので、「このままイケるか?」と期待したのだけれども……。
「ガアァァァーッ!」
ラーダクロアの柴犬頭が天に向かって吠えた。
女神の咆哮にて、焔がたちまち霧散。
ゆらりと立ち上がる。ダメージは軽微。
これを見たルーシー「安定性を求めるあまり、出力を抑えたのが裏目にでましたか」とつぶやく。
富士丸の擬装神剣リンネカイザーのように、究極電池から直にエネルギーを取り込むタイプに比べて、回線をつないでの供給方式だと、どうしてもパイプの長さや太さ強度の影響を受けてしまう。瞬間的に発揮できるチカラに差が生じてしまうのである。
このまま包囲攻撃を続けても効果が薄いと判断したルーシーが、すぐさま部隊に命じて自陣の配置を動かす。戦車らを集め攻撃を局所に集中するために。
しかしそれは敵にとってもバラけていた相手が一か所に固まるということ。
わらわら動き集結しつつある戦車隊に鼻先を向けて、舌なめずりをしたラーダクロアが駆け出す。
段々となった丘陵の斜面に分布しているルーシーたちよりも、平地を走るラーダクロアの動きの方が速い。
このままだと配置が完了する前に接近を許してしまう。
させまいと富士丸が剣を手に間へと割り込む。
猛るままに銀爪をくり出すラーダクロア。
二合、五合と打ち合ううちに、「ピキリ」とイヤな音がした。剣の表目に細かいヒビが走る。
八合目にて、擬装神剣リンネカイザーがついに砕けてしまう。
手元でポッキリ逝ってしまった愛剣。あせる富士丸。にやりと柴犬頭が笑う。
そして砕けた剣の残骸ごとくるくると宙を舞うことになったのは、電池としてはめ込まれていたわたし。
「クソッタレがっ! これでも喰らいやがれ!」
叫ぶなり左手首がパカンと開いて、射出されたのはロケットランチャー。
至近距離にてラーダクロアの顔面に着弾。
爆発が起こり「ぎゃうん」と狂神が悲痛な声をあげる。
ヤケクソ気味にて放たれた一撃が円らな瞳に直撃。
そこに富士丸が追い打ちをかけ、振り抜かれた拳が完璧に柴犬頭を捉えた。
殴り飛ばされ、地面に転がったラーダクロア。
潰れた左目を抑えながらよろよろと立ち上がるも、指の間からは黒い血が溢れて、ぼたりぼたりと落ちていた。
鼻の先にシワをよせて、ガルルと牙をむくラーダクロア。
毛を逆立て、めちゃくちゃ怒っている。
富士丸は視線を外すことなく、しゃがんで足下を手探り。
メカメカした手で掴んだのは、その辺に転がっていたわたしのカラダ。
拾うなりポイッと空中に放り投げた。
これをパクンと呑み込んだのは上空にいた宇宙戦艦「たまさぶろう」の鮫口。
喰われたわたしは、どこをどう通ってか艦橋へと送られ、そのまま艦長席にストンと座らされる。
とたんに「ジャキン」と不穏な音がして、気づけば両手両足、首に胴まで拘束具にて、がっちり座席に固定されていた。
「えっ!、えっ!、ええーっ!」
驚くばかりのわたしにはおかまいなしに、今度は座席のリクライニングが一気に倒れて、艦長席が艦長ベッドに早変わり。
ベッドはそのままズンズンと後ろの壁の奥へ奥へ。
火葬場にて放り込まれる棺のごとく運ばれていくわたしを、ビシっと敬礼にて見送る乗組員一同。
これまたどこをどう通ったのか、わからないままに気づいたら甲板中央部にて、我が身が固定されていた。
「ドクンドクン」と脈打つ音が背中越しに伝わってくる。
これはたまさぶろうの鼓動。そのリズムに合わせるかのようにして、わたしのカラダから魔力がものスゴイ勢いにて吸い上げられていく。
ここにきてようやくわたしは悟る。「どうやら、とっておきその二が発動されるらしい」ということに。
宇宙戦艦に強大なエネルギーとくれば、なんとなく想像がつく。
だからてっきり「なんちゃら砲、発射!」とかするのかと思いきや……。
たまさぶろうが前かがみとなり、尾っぽを丸め、その魚々した全長にて丸を描く。
意外な柔軟性を披露。背びれをピンと立てつつ、ゆっくりと前転運動を開始。
その場に留まりながら、じょじょに加速していく回転速度。
「うっぎゃー」という、わたしの悲鳴と涙と垂れ流される鼻水をも巻き込んでの高速回転にて、やがて「ブゥン」と重低音を放ちながら、たまさぶろうの身が巨大なチップソーのような状態となる。
ちなみにチップソーとは丸のこや芝刈機などで使われる、円形ノコギリ刃のこと。
これこそが、とっておきの第二弾「千々裁断リンネカットソー」
たまさぶろう専用の超決戦兵器である。
基本的な仕組みは富士丸の擬装神剣リンネカイザーと同じ。
わたしをカチッとはめて、エネルギーを直に摂取することで、モロモロの過程をすっ飛ばして攻撃に注力する。
切れ味こそはリンネカイザーに劣るものの、突進力や破壊力に関してはこちらが上。
触れればただではすまない、恐るべき千々裁断リンネカットソー。
空飛ぶ凶悪な円刃がラーダクロアへと襲いかかる。
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