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274 カウントダウン

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 八枚の光翼。そのすべてを失ったゼニスが、どうにか立ち上がろうとするもうまくいかない。
 片足が完全に壊れており、踏ん張りがまるで利かないから。
 肩も外れているらしく、右腕がぶらんぶらんとチカラ無くゆれている。
 首の角度もおかしい。明らかに折れていると思われる。
 なのにゼニスはもがいている。
 赤い瞳より生命の輝きがとっくに失われているというのに。
 わたしはそんなゼニスに左人差し指式マグナムを向ける。ただし照準は顔でも心臓でも腹でもなく、その頭上の何もない空間。
 こちらの意図に気がつき「やめ……ろ」と死体がしゃがれた声を発する。
 けれどもわたしはかまわずぶっ放す。

 何もないはずの場所にヒビが入った。
 亀裂は四方へと広がり、やがてガラスが割れるかのように砕け、これまで隠されていたモノを白日の下へと晒す。
 真っ黒な箱のような空間が奥にはあった。
 暗闇に浮かぶのは銀の球体。
 それは星読みの一族が持つ第三の眼と呼ばれるシロモノ。
 これこそがゼニスの正体。彼は意識を完全に第三の眼に移すことで、肉体を操り人形と化し、不死身足り得ていたのである。
 これがいくら頭を吹き飛ばそうとへっちゃらだったカラクリ。

「何か言い残したいこと、ある?」

 銀の球体はじっとわたしを見つめているだけ。返事はない。
 だから「あっ、そう。じゃあね。バイバイ」と撃つ。
 マグナムの銃弾はゼニスの本体、ど真ん中を貫き、確実にその命脈を断った。
 でも最期の最期、着弾する直前に、球体表面の目が細まり、ちょっと笑ったように見えたのが、妙にわたしの心に引っかかった。


 頭の奥にてキンコンと音がした。
 ちょっとだけレベルが上がったみたい。
 それだけゼニスの存在がヤバかったということか……。
 地面にひっくり返り「つかれたー」とわたしは叫ぶ。「でも勝ったぞー」
 すると亜空間より、青い目をしたお人形さんが姿をみせて「おつかれさまでした」と労いの言葉をかけてくれた。

「情報ありがとう、ルーシー。マジで助かった。もしもアレがなかったら延々と殴り合いをするハメになっていたよ。ったく、なんだよあの翼。インチキにもほどがある」
「ええ。触れたら対象を消滅させるだけでなく、自身をも再生する能力。リンネさまの攻撃だからこそ通ったものの、おそらくそれ以外では魔法もギフトも効かなかったことでしょう。まるでノットガルドに生きる者たちの天敵のような男でした。もしもリンネさまがいなかったら、どうなっていたことやら」
「うん。健康スキルがあってもダメージを喰らっていたからね。びっくりだよ」
「ですが、これで聖騎士どもも一掃されたことですし、あとは……」

 そこでルーシーのスマートフォンっぽい通信端末がぷるぷる。
 会話を中断したルーシーが応対するも、表情がすぐに曇った。

「えっ、あっ、はい。それで反応は……完全にロストですか。わかりました。では地面の穴を適当に埋めてから帰還して下さい。では」

 通信を切ったルーシーがわたしに告げたのは「青い心臓」と「赤い心臓」が何処かへと消えてしまったということ。
 こちらが戦いの場所を変えたあとも、宇宙戦艦「たまさぶろう」と乗組員たちはガラスの平原上空に留まり、ずっと竪穴を監視下に置いていた。
 念を入れて、二つの石碑にもしっかりマーキングをつけて。
 しかしこちらの戦闘が終了したのと前後して、突如として二つの石碑がまばゆく輝きはじめる。
 青と赤。二つの光は一つとなりて、そのまま竪穴の外へと飛び出すと、上空にてしばし明滅をくり返してから、ふいにゆらいで水に溶ける氷のごとく、空の青さへとにじんで忽然と消えてしまう。
 マーキングの反応も完全に途絶しており、痕跡は皆無。
 乗組員たちも思いつくかぎりの手段にて探してみたが、どこにも反応を確認できなかった。

 報告を聞いてルーシーは悔しがっていたけれども、わたしはこのことを平然と受け入れていた。
 ゼニスの最期、アレはやっぱり笑っていたんだ。
 あいつはわたしに「自分と戦ってくれ」と言った。それって戦いの結果うんぬんよりも、そのこと自体に意味があるということだったのかもしれない。
 ゼニスは確か、こうも言っていた。

『死は解放。解き放たれた魂は天へと還り、肉体は地へと還り、内包されていた魔力と生命力はノットガルドに還る』

 それって、つまりゼニス自身も例外ではないということ。
 でも、ちょっと待って。それだけじゃあないはず。何だ? ずっと何かが引っかかっている。
 えーと、えーと…………っ!

『キミのおかげでようやく起きてくれた』

 何が起きた?
 目覚めたのは「青い心臓」や「赤い心臓」と呼ばれていた石碑。
 どうして石碑は目覚めたのか?
 それはわたしたちが派手に攻撃を繰り返したから。
 それってつまり?
 魔力や生命力とかだけじゃなくって、それ以外のモノにも反応するということ。
 とどのつまり攻撃で発生したエネルギーなんかも、風呂上りの牛乳よろしく、腰に手を当てグイっとね。
 このことに考えが至り、わたしは真っ青となる。
 なんてこったい! ばっちり滅びのカウントダウンが始まっちゃってるよ!

「ねえ、ルーシー。もしかしたらなんだけど……、やっちまったかもしれない」
「もしかしなくても、二つの心臓が消えた時点で大問題ですよ。ですが、まぁ、本番前の予行演習には丁度いいのかもしれませんね」
「本番? 予行演習?」
「もちろん女神イースクロアに一発かますことですよ。最古の神ならば前座としては申し分ありません」

 これからのことを想像してビビるわたし。
 でもルーシーは「ジャイアントキリングを起こして大幅レベルアップ。堕神風情がなんぼのもんじゃい」と強気発言にて、神さまを喰う気まんまん。
 おいおい、マジかよ。
 うちのお人形さんってばタフネスするぜ。
 とってもステキ。


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