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265 お茶会問答
しおりを挟む質問その一。どうしてわざわざわたしをお茶に誘ったの?
答え。リンネという女勇者に興味があったから。
質問その二。もしかして溢れんばかりの知性と美貌にクラクラして、異性として意識しちゃった?
答え。ちがう。たんにそのチカラ、生き方、在り様が興味深かったから。
質問その三。それはどういう意味?
答え。聖騎士を退けるほどのチカラを持ちながら、増長も暴走もせず、ふつうに暮らしている。異物が日常に埋没する。それはとても奇異なこと。じつに不可解であり、愉快でもあり、憐れでもあり、滑稽でもある。
質問その四。……ふーん。ところでなぜ貴方たちは、世界に死と混乱を招くようなことを繰り返すのか?
答え。すべては女神イースクロアの御心のままに。
質問その五。女神イースクロアの真意とは?
答え。世界を浄化し、歪みを正すこと。
質問その六。浄化?
答え。不浄なるものを破壊し、いったんノットガルドを更地にしてから、新たに作り直すこと。
質問その七。歪み?
答え。無軌道な発展の末に世界はおかしくなった。このままではノットガルドに未来はない。ゆえに世界をあるべき元の流れに戻す。
質問その八。女神の御心と破壊活動には、どのような関係が?
答え。死は解放。解き放たれた魂は天へと還り、肉体は地へと還り、内包されていた魔力と生命力はノットガルドに還る。多くの死は世界をより濃密な状態へと押し上げる。
質問その九。押し上げることが、浄化と歪みの矯正?
答え。ちがう。世界の状態を一時的にだが押し上げることで、ある条件が満たされる。
質問その十。ある条件とは?
答え。神が降臨するための条件のこと。遥か高みより、崇高なる存在が降りてくるのには、下界はあまりにも粗末すぎる。貴賓を迎えるには、それ相応の準備が必要になるのと同じこと。
質問その十一。神とは、女神イースクロア?
答え。ちがう。ノットガルド最古の神である。
質問その十二。ひょっとして前神である女神フォークロアだったりするの?
答え。ちがう。降臨なされるのはラーダクロアである。
質問その十三。誰だソレ?
答え。…………。
こちらの問いかけに、ペラペラと答え続けていたゼニス。
あんまりにもスラスラ答えるものだから、せっかくグリューネが用意してくれたお茶を飲むヒマもありゃしない。
なのに十三番目の話題になったとたんに、饒舌だったゼニスが急に黙りこみ、彼は目を閉じて何ごとかを思案し始める。
その隙にカップへとすばやく手をのばし、わたしはゴクリとひと口。
お茶はすっかり冷めていた。しかもちょっと渋味が舌に残る。香りはそこそこ。茶葉は上等らしいのだが淹れる者の腕がいまいち。「ふふん、勝った。お茶に関してはうちの鬼メイドの圧勝だね」とわたしはひとりほくそ笑む。
考え中のゼニスを尻目に、わたしとルーシーはヒソヒソ内緒話。
「ヤバイぞ、ルーシー。世界の浄化とか神の降臨とか、中二病全開だよ。こいつら完全にイッちまってるよ」
「みたいですね。性質の悪いカルト教団の終末思想丸出しです。ですが彼の話を聞いているうちに、おぼろげながらも女神が直接こちらに手を出せない理由がわかったような気がします」
高い山に登れば登るほどに空気が薄くなって、苦しくなり、動けなくなる。
深い海の底に住む生き物は、うっかり水深の浅いところに浮上したらえらいことになる。
おそらく神にとっては下界がコレに相当するのだろう。
高次元生命体は、卓越した存在であるがゆえに、低次元下にての活動がままならない。
だから自分では手を下さずに、手駒を操って、活動条件を整えていた。
三千人の勇者召喚もその一環。勇者らは生きて世に混乱をもたらし、死して世界の糧となる。女神の魂を削って造られたギフトもまた肉体に内包されていた魔力らと共に、ノットガルドへと還ることで、計画の一翼を担う。
ルーシーの話に、わたしもウンウン頷いて同意。
そうとわかれば話は簡単!
聖騎士どもをやっつけて、ラーダなんちゃらとかいう神の降臨を阻止しちゃえば、当面の間は安泰。なにせ女神さまはこっちにちょっかいを出せないからね。
またぞろ新しい駒を用意するかもしれないけれども、それはその都度モグラ叩きの要領にてポコポコ潰していけばいい。
というわけで早速、と行動を起こそうとしたら、そのタイミングでゼニスが目を開けた。
ゼニスの赤い瞳が静かにこちらを見つめてくる。
澄んでおり、とってもキレイ。一切の淀みがなくわずかな迷いも浮かんではいない。その点は公園ではしゃぐ子どもたちと同じ。なのにゼニスのそれは、向けられたこちらの心をどうにもざわつかせる。
「ふむ。やはりいい機会だからキミたちにも聞かせてあげよう。この世界のことや、かつて起こった悲劇について。このことを知るのはノットガルドでもごく限られた者だけだ。おそらくは十指にも満たないだろう」とゼニスは言った。
世界でもほんの数名しか知るものがいない秘密。
アカシックレコードの非公開領域にて、厳重に秘匿されてある情報。
神々にまつわる記録。
ルーシーがピクリと肩をふるわす。
わたしもテーブルの下にて、ゼニスの股間に向けていた左人差し指式マグナムの照準をそっとはずした。
ぶっ放すのは話を聞いたあとからでも遅くはない。
「少し長い話になるから、先にお茶のおかわりを用意しておこうか」
ゼニスが手をパンパン鳴らすと、すぐにグリューネが姿をみせた。
お茶会が始まってから、ずっと給仕役に徹し殊勝な態度を見せている希代の悪女。
そんな彼女にわたしは尊大ぶった物言いにて「これこれ、せっかくの茶葉が泣いておるよ。もう少しお湯の温度と淹り時間に気をつけてくれたまえ」とイヤミを言ってやったら、射殺さんばかりにめちゃくちゃにらまれた。
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