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259 お見合い大作戦
しおりを挟む「ははうえサマーの命令だ。オハギと結婚しろ。そして婿養子として先方に赴くのだ」
「断じて否。あえて名を持たず、生の奴隷と落ちぶれぬを信条とする我が、女房の尻に敷かれることなどあってはならぬ。本末転倒、ほんまつてんとう。おのれをつらぬいてこそのおとこなりー」
義母の立場を悪用して、勢いのままに婿入りさせようとするも失敗。
さすがにいささか強引が過ぎたか……。わたしは「ちっ」と小さく舌打ち。
すると今回の「女王オハギと黄色いオッサン婚姻計画」に賛同し、説得の場に同行していたルーシーが「でも超逆玉ですよ。あなたの台詞を借りれば『千載一遇、盲亀浮木、曇華一現』あたりが妥当でしょうか」と言った。
千載一遇、せんざいいちぐう。二度とはお目にかかれないチャンスでラッキー。
盲亀浮木、もうきふぼく。めちゃくちゃ珍しい目に遭遇してラッキー。
曇華一現、どんげいちげん。めったに起きないことが起きてラッキー。
これらの四文字熟語には、それぞれにもっとキチンとした小難しい意味があるものの、要約するとこんな感じ。
とどのつまり、スーパーウルトラハッピーにラッキーということだ。
ルーシーから四文字熟語を突きつけられたら、黄色いオッサンが急に黙り込んだ。「ふむふむ」唸っては腕を組んでの思案中。
なるほど、この珍妙な生命体を説得するのには四文字熟語が有効であったのか。
さすがはルーシー、苦手な相手だというのにしっかり研究をして対策を講じてくるとはね。
そしてこの流れに乗らぬ手はなかろう。
わたしは先ほどの命令口調を改めると、ネコ撫で声にて「さすがにいきなり結婚しろはなかったな。とりあえずお見合いデートをしてみないか? なにより互いに相手のことを知らなければ始まらないだろうし。ほら、一期一会って言葉もあるんだから」
「うーむ」と悩んでいた黄色いオッサン。最後の四文字熟語が効いたのか、ついに「そこまで言うのであれば」と頷いた。
お見合いデートの場所はリスターナ主都郊外にある遊園地。
「デートと言えばやっぱりここでしょ」との安易な理由で決定。
というか他に適当な場所が思いつけなかった。
そもそもリスターナにおいては選択の余地がなかった。
豊かな自然を活かし、古風にハイキングデートというプランも計画段階で持ち上がるも、こちらは却下。
いきなり二人っきりで森の奥やら山の上は、さすがに難易度が高すぎるとの判断ゆえに。
遊園地デートは完全生中継にて、わたしたちの監視下で実施される。
なお本作戦の成否如何によっては、リスターナの今後も大きく左右されかねないので、シルト王以下全面協力のもと、ことに当たっている。
当日の遊園地は対外的にはメンテナンスのため休園とし、貸し切り状態。
なのに施設内には多数の客の姿と従業員たち。みな協力者である。もろもろすべてが仕込みという徹底ぶりからして、国側の本気度もわかろうというもの。
仕込みの中にはリリアちゃんやマロンちゃんたちが変装して混じっている。
これは仲良くなった女友達の切ない恋心を知った二人が「自分たちも協力したい」「彼女の想いを叶えさせてあげたい」と自主的に手をあげたから。
乙女たちの友情にリンネお姉ちゃんも感動。マイシスターたちの心意気に胸がじーんと熱くなったよ。
何度も打ち合わせをし、リハーサルもばっちり済ませ、準備万端を整えてから、いざ「お見合い大作戦」スタート。
遊園地の正門前にある噴水広場が待ち合わせ場所。
三十分前には到着していた黄色いオッサン。女を待たせないという意外な紳士ぶりを披露し、カメラ映像越しにわたしたちは「おー」と感心する。
しばらく待っていると、やや遅れて向こうから「お待たせしたコッコー」と女王オハギが登場。
ロボ子くらげは、いつもと同じメカメカうねうねしたアンバランスな姿。
だが頭の角にリボンが結んである。おそらくあれがパームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロ流のオシャレなのだろう。デート相手に合せた黄色というのが、なんともいじらしい。リンネちゃん、ちょっと胸きゅん。
月並みな挨拶を交わしてから、二人は遊園地へ。
が、入場するなり「パンパカパーン」と派手ファンファーレで迎えられ紙吹雪が舞う。続けて「おめでとうございます。お客さま方が当園百万人目の来場者です。お二人には記念にこちらをどどーんとプレゼントしちゃいまーす」との係のお姉さんの声。
抱えきれないほどの大きな花束、遊園地の永久フリーパスペアチケット、ペアで行く宇宙戦艦「たまさぶろう」豪華クルーズ・ギャバナへの旅、永遠の愛の証ペアリング、新婚生活もコレで安心な最新魔導家電セットがずらり。
たまたま居合わせた客らから、幸運なカップルを祝福する盛大な拍手が鳴り止まない。
初っ端からとんでもないペアのごり押し。
リハーサルの時には景品はフリーパスまでだったのに、知らないうちに特盛りになっていたよ。
モニター越しに見ていたわたしが呆れて「さすがにちょっと演出過剰じゃないの?」
するとルーシーは「ツイてる。楽しい。そういった愉快な出来事と記憶が結びつくと、必然的にいっしょに体験し時間を共有した相手への印象もプラスに作用するのです。多少はオーバー気味でも、深く心に楔を打ち込むためには、過剰なぐらいでちょうどいいのですよ」
いっしょに買った宝くじが大当たりをしたら、絶対に相手のことは忘れないけれども、それがアイスの当たり棒では効果がまるで期待できない。お人形さんはこんな感じのことを言いたいようだ。
まぁ、わからぬではないが、初手でコレか……。
この分ではわたしの知らないところで、いろいろとプランが変更されている可能性が高い。
現場のノリやら、よくわからないテンションにてかまわず突き進んでしまっていたが、改めて冷静になってみると、とっても不安になってきたよ。
だって、よくよく考えてみたらリンネ組で、まともな恋愛観を持ってるヤツなんて一人もいやしねえもの。わたしを含めて恋愛偏差値が極端に低い。経験値に至っては、ほぼゼロ。そんなトーシローの集まりが、勢いで恋の大海原に乗り出してしまった。
うーん。これは、やっちまったかもしれん。
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