上 下
250 / 298

250 円盤

しおりを挟む
 
 ユーリスさん懐妊を知って、よろこびに湧く一同。
 そんな中にシレっと混ざっていたナゾの宇宙生命体から、告げられた衝撃の事実。

「ぐはははは、驚いたコッコ? ウソだと思うのならば窓の外をよく見てみるがいいコッコー」

 パームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロの女王オハギ。
 あーん、もうっ! 長くてめんどうくさい! 舌噛むわ!
 以後は「ロボ子くらげ、オハギ」と称する。
 そのオハギに言われて、あわててわたしは窓に近寄ると、カーテンをシャーッと一気に引き開けた。
 飛び込んできたまぶしい陽光に目を細める。
 ほどよく発展した主都の街並み。それらを守るように囲む外壁。壁の向こうに広がるのは小麦畑。黄金色に輝く麦穂の海を渡るかのようにして、ずんずん向こうにまでのびていく街道。その先にあるのはまだ手付かずの荒野。
 そこに超巨大な円盤の姿があった。
 城からでもはっきりとわかるほどの大きさ。ヘタな山なんかよりもずっと大きいぞ。
 が、そんなシロモノが何故だか地面に突き刺さっている。斜め四十五度にてぶっすりと。
 さすがは未確認飛行物体。着陸の仕方が斬新過ぎる。異星人、半端ねえな。
 などと思い込もうとしたのだけれども。
 ……アレってば、たぶんちがうよね。
 気のせいなのかな? わたしの目にはどう見ても墜落しているようにしか見えない。
 しかもよくよく見れば、あちこちに大穴が開いているし、装甲がけっこうべコベコだし、何故だか竹がわさわさ生えているし。

「えーと、侵略者なんだよね?」

 わたしが念のために確認をすると、ロボ子くらげは「そうだ」と胸をはる。「もっとも開戦早々に負けたから、いまではただの居そうろうだけどなー、コッコー」

 形式上は捕虜。だけれども特に拘束されることもなく自由が許されている。
 王城内をふつうに闊歩し、こんなところにまで混じるくらいだもの。扱いとしては客分に近く、すっかりみんなに馴染んでいる。そして城のカオス度のアップに貢献していやがる。
 いったいぜんたいどうなっているの?
 そこのところをルーシーにたずねたら、わたしが眠っている間に起こったことをかいつまんで説明してくれた。



 アマノリンネが深い眠りについて目覚めない。
 最初の三日目ぐらいまでは、ルーシーをはじめとして近習の者らはみな余裕であった。
 だがそれが五日目となり七日目となった頃には、さすがに笑ってもいられなくなる。いまのところ魔力供給は断たれていないが、不測の事態につき、この先どうなるのかわからない。
 もしもの時に備えるために、関係各所は大わらわとなった。
 その間にも医療班による懸命な調査が続けられていたものの、原因究明には至らず。
 リンネ不在の状況を憂いるリスターナ上層部。
 このことは世間一般には伏せられていたものの、王さま、宰相、将軍、姫などの主だった面々の物憂げな様子から、城に務める連中もおぼろげながら異変を察し不安が募り、それが水が上から下へと流れるように浸透していく。
 気づけば城全体がどことなく活気を失っていた。
 かつて亡国寸前の憂き目を経験したことのある多くの民もまた、城の方から漂ってくる暗鬱とした空気を敏感に察知して、「また暗黒時代がやってくるのか?」と警戒し密かに怯えていた。
 結果として主都全体に、どこか漠然とした暗雲が垂れ込めることになり、そこかしこでヒソヒソ話に興じる住人らの姿が見られるようになる。
 十日目には、対女神戦線を組んでいる国にも知られるところとなり、騒動は静かに拡大していく。
 十五日目にもなると、ルーシーをはじめとするリンネ組らの間には、ピリピリとした緊張感が張り詰めており、あの空気を読まないカネコたちですらもが、軽口を叩かず近づこうとせず、カネコカフェにて丸まって引き篭るほど。
 もしかしたらずっとこのままなのかも……。
 そんな最悪の事態すらもが、想定され始めた頃に、ソレはあらわれた。

 眺めているだけで気が滅入って来る、いまにも降り出しそうな曇天の空。
 突如として稲光がいくつも走り、それらが寄り集まって空の中央にて巨大な光の玉となった。
 ギギギギギーというガラスを引っ掻いたときのような、とっても不快で耳が痛くなる高音が発生。
 たまらず主都の住人らが両手で耳を塞ぎ、目を閉じた。
 バリンと何かが砕けたような音がかすかに聞こえたような気がした。
 とたんに巨大な光の玉を中心にして、すべての雲が吹き飛ばされ、真っ青な空となった。
 ずっと上空にあった雲までもが消え失せたせいか、冬のよく晴れた日のように空がやたらと澄んでいる。
 強風が吹き、ご婦人方が髪の乱れやスカートの裾の死守に必死となり、おおくの洗濯物や木の葉、カネコの抜け毛にゴミクズなどが、砂ぼこりといっしょに宙へと舞い上がる。
 それらがどうにか収まり、ほっとしたのも束の間。
 見上げた先には、ちょっとした島ほどもある巨大な円盤が浮かんでいた。

 未確認飛行物体よりペカーと光が放たれ、これまた山のように大きなホログラムを地上に向けて映写。
 見たこともない種族の女性の姿が大きく表示される。

「私はパームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロの女王オハギであるコッコ。ノットガルドの下等生物どもよ。この星は、これより我らが支配下に置くコッコ。抵抗はムダだコッコ。ただちに全面降伏するコッコ。さすれば我らは寛大ゆえに、慈悲と加護を与えるコッコー」

 広大な星の海を渡り、死と静寂が満ちる宇宙空間をものともせずに、他星へと侵略する。
 並大抵のことではない。圧倒的科学力や技術力に抜きん出てこその所業。
 一方的に相手方に押しかけている時点で、チカラの差は歴然。
 実際のところ、もしもパームレスト・エース・レノボニック・クリンクリン・ポリブクロたちが、リスターナではなく、ちがう国を最初に侵略していれば、また結果はちがっていたのかもしれない。
 だが彼らはリスターナを選んでしまった。
 それも、よりにもよって青い目をしたお人形さんの機嫌が最高に悪いタイミングにて。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

私をこき使って「役立たず!」と理不尽に国を追放した王子に馬鹿にした《聖女》の力で復讐したいと思います。

水垣するめ
ファンタジー
アメリア・ガーデンは《聖女》としての激務をこなす日々を過ごしていた。 ある日突然国王が倒れ、クロード・ベルト皇太子が権力を握る事になる。 翌日王宮へ行くと皇太子からいきなり「お前はクビだ!」と宣告された。 アメリアは聖女の必要性を必死に訴えるが、皇太子は聞く耳を持たずに解雇して国から追放する。 追放されるアメリアを馬鹿にして笑う皇太子。 しかし皇太子は知らなかった。 聖女がどれほどこの国に貢献していたのか。どれだけの人を癒やしていたのか。どれほど魔物の力を弱体化させていたのかを……。 散々こき使っておいて「役立たず」として解雇されたアメリアは、聖女の力を使い国に対して復讐しようと決意する。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

 殺陣を極めたおっさん、異世界に行く。村娘を救う。自由に生きて幸せをつかむ

熊吉(モノカキグマ)
ファンタジー
こんなアラフォーになりたい。そんな思いで書き始めた作品です。 以下、あらすじとなります。 ────────────────────────────────────────  令和の世に、[サムライ]と呼ばれた男がいた。  立花 源九郎。  [殺陣]のエキストラから主役へと上り詰め、主演作品を立て続けにヒットさせた男。  その名演は、三作目の主演作品の完成によって歴史に刻まれるはずだった。  しかし、流星のようにあらわれた男は、幻のように姿を消した。  撮影中の[事故]によって重傷を負い、役者生命を絶たれたのだ。  男は、[令和のサムライ]から1人の中年男性、田中 賢二へと戻り、交通警備員として細々と暮らしていた。  ささやかながらも、平穏な、小さな幸せも感じられる日々。  だが40歳の誕生日を迎えた日の夜、賢二は、想像もしなかった事態に巻き込まれ、再びその殺陣の技を振るうこととなる。  殺陣を極めたおっさんの異世界漫遊記、始まります! ※作者より  あらすじを最後まで読んでくださり、ありがとうございます。  熊吉(モノカキグマ)と申します。  本作は、カクヨムコン8への参加作品となります!  プロット未完成につき、更新も不定期となりますが、もし気に入っていただけましたら、高評価・ブックマーク等、よろしくお願いいたします。  また、作者ツイッター[https://twitter.com/whbtcats]にて、製作状況、おススメの作品、思ったことなど、呟いております。  ぜひ、おいで下さいませ。  どうぞ、熊吉と本作とを、よろしくお願い申し上げます! ※作者他作品紹介・こちらは小説家になろう様、カクヨム様にて公開中です。 [メイド・ルーシェのノルトハーフェン公国中興記]  偶然公爵家のメイドとなった少女が主人公の、近世ヨーロッパ風の世界を舞台とした作品です。  戦乱渦巻く大陸に、少年公爵とメイドが挑みます。 [イリス=オリヴィエ戦記]  大国の思惑に翻弄される祖国の空を守るべく戦う1人のパイロットが、いかに戦争と向き合い、戦い、生きていくか。  濃厚なミリタリー成分と共に書き上げた、100万文字越えの大長編です。  もしよろしければ、お手に取っていただけると嬉しいです!

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍化2024年9月下旬発売 ※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

処理中です...