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245 高校生活

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 体育の授業は隣のクラスと合同で行われる。
 本日はバスケットボール。班ごとにチームを組んでのトーナメント戦。
 うちのチームは順当に勝ち進んでいく。
 決勝戦ではメンバーの半数以上が経験者というチームと対決。これを相手にして、スリーポイントシュートをバンバン決めたわたしの活躍もあって、どうにか辛勝する。
 チームメイトらに「やったね、リンネ!」ともみくちゃにされつつ、手荒い歓迎をうけていたら、そこに近寄ってきたのは隣のクラスの男子。

「アマノさん。あとで話したいことがあるから、昼休みに体育館の裏にまで来て欲しい」

 サッカー部のエースにてプロも注目しているという、校内屈指のイケメンの彼からそんなお誘いを受けたので、周囲の女どもは騒然となった。
 早々にお弁当をやっつけたわたしは、クラスの女子から向けられる好奇な視線を受け流し、教室を出るとそのまま約束の場所へと向かう。

「ずっとあなたが好きでした。アマノさん、ボクと付き合って下さい」

 面と向かっての告白。差し出された手がかすかにふるえている。
 若干照れながらも真剣な眼差しにて、その態度からも彼がけっして安易な気持ちで、この場に臨んでいるわけじゃないのは、ひと目でわかった。
 しかしわたしは「ごめんなさい」と断り、その手を取ることはなかった。

「ひょっとして他に好きな人でもいるのかな? もしかして迷惑をかけちゃったかな?」

 差し出した手のやり場に困り、頭をぽりぽりかきつつ、彼はそう言ったけれども、わたしは慌てて首をふる。

「ううん。ちがうの。いまはまだ自分のことで精いっぱい。恋愛に向ける気持ちの余裕がないだけ。告白してくれたことはうれしかった。ありがとう。でも……」

 理由はどうあれ告白は失敗。
 気まずい沈黙が二人の間に降りる。
 すぐに立ち去ればよかったのだが、タイミングを逃したわたしは、どうしていいのかわからずに、その場でうつむいたまま。それはたぶん彼も同じことなのだろう。
 しばらくして彼が先に口を開いた。

「そっか。どうやら今回は焦りのあまりボクの勇み足だったみたいだ。なにせアマノさんを狙っているヤツは多いからね。でもそれなら、まだボクにもチャンスがあるってことだよね? わかったよ。今回はおとなしく引き下がる。キミを困らせたくはないから。アマノさんがその気になるまで、待つとするよ。だからどうかキミを想っている男がいるってことだけは、覚えておいて欲しい」

 彼の言葉にわたしはコクンと小さくうなづく。
 颯爽と遠ざかっていく彼の背中を見送りながら、わたしは「ほぅ」とタメ息ひとつ。
 好意を向けられるのは素直にうれしい。けれどもこれを受け入れるだけの勇気が、いまの自分にはまだない。そのせいで相手を悲しませることになる。誰がどう悪いわけじゃなくって、タイミングの問題。でも後に残る罪悪感にも似た重たい感情だけは、何度、経験しても慣れるものじゃない。
 が、感傷にゆっくりと浸ってもいられない。
 なぜなら、ずっと物陰からのぞいていた女友達らに、すぐに囲まれてしまうから。

「あーん、もったいない。あんなイケメンを」「またか、難攻不落のリンネ城を落とす猛者はいずこ」「きー、あんたばっかし! 少しはこっちに回しなさいよね」

 彼女たちの明るさに触れて、しんみりとした心のモヤがゆっくりと晴れていく。
 自分のことを理解してくれる友人がいる。それは何ものにも代えがたいものだと、わたしはしみじみ噛みしめずにはいられない。



 放課後のホームルームにて。
 先生が「今月末に聖クロア教会のバザーがある。みんな家にある不用品があれば参加して盛り上げてくれ。もし忙しくて個人参加がムズカシイのならば、学校に持ってきてくれ。こちらでまとめて出品するので」と生徒らに告げた。

「あたしんちは結婚式の引き出物でもらった食器セットを出すって言ってたけど、リンネはどうするの?」
「うーん、わたしは……」

 隣の子に話を振られて考え込む。
 自宅の納戸や自室のクローゼットの中などを思い浮かべて、「何かなかったかなぁ」と悩んでいると、反対側の隣の子が話しに参加してきた。

「私は昔遊んでいたオモチャを出すわ。お人形とかヌイグルミとか。他にもゲームセンターでとった景品がけっこうあってね。なんとなく捨てづらくって置いてたんだけど、いい機会だから。オモチャたちだってずっと押し入れの中にいるよりも、小さな子らに遊んでもらったほうがうれしいと思うしね」

 その意見を聞いて、わたしが思い浮かべたのは自室のベッドの枕元にある青い目をした人形らの姿であった。



 特に代わり映えはしないけれども、平穏で充実した日々が続く。
 気づけば早や月末を三日後に控えていた。
 学校から帰宅したら、お母さんと妹がリビングに雑多な荷物を広げており、足の踏み場もない状況。

「えっ、何ごと? もしかして夜逃げの準備とか」
「バカ言ってんじゃないわよ。バザーよ、バザー。ほら、今週末に聖クロア教会で開かれるでしょう。マンションの自治会からも品物を持ち寄って参加することが急に決まってね。それで何か出すモノはないかと吟味していたのよ」
「そうだよ、お姉ちゃん。助け合いの精神なんだから。みんなが欲張らずに余っている分を誰かに差し出せば、それだけで世界はハッピーになるの。だからお姉ちゃんも協力しなきゃダメだよ」
「ほら、あんたもぼけっと突っ立ってないで、部屋から着れなくなった服とか持ってきなさい。いっしょに出しちゃうから。あとはそうねえ……、あの枕元の人形。アレもついでだからまとめて出しちゃいなさい。もう、いい歳なんだから、今さらお人形遊びでもないでしょうに」

 お母さんにそう言われても、なおも決心がつかずに、わたしは煮え切らない態度のまま。
 すると妹がダンボールの空箱を手に言った。

「もういいんじゃないの? 充分に遊んだんでしょ? たくさんの想い出があるから手放したくないっていう気持ちもわかるけど、それでずっと棚の飾りじゃあ、あのオモチャたちがかわいそうだよ」

 妹のもっともなご意見に「それもそうか」と納得したわたしは、差し出された空のダンボール箱を受け取った。


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