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242 終焉の黄

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 歩くこんにゃくゼリーみたいなモンスター「スーラ」が、いろいろあって変異した特殊個体「黄色いオッサン」
 分裂やら合体をくり返しては、リスターナの主都を騒がしているコイツをどうにかするために、街をあげての鬼ごっこ大会を開催。

 リンネ組から鬼ごっこに参戦したのは、わたしことアマノリンネ、鬼メイドのアルバ、ルーシーズ、オービタルやセレニティたち。
 見た目が節々したセミ人間なグランディアたちは、その見た目ゆえにかえって騒ぎを助長するかもしれないと、自主的に参加を控え裏方に回ることに。
 完璧なる布陣で臨んだ鬼ごっこ。
 が、開始早々にオービタル、セレニティら優良種であるハイボ・ロードたちが脱落するという、まさかの事態に!
 オービタルたちは、そのバカみたいに鍛えあげ続けているチカラにて、「捕まえた」とうっかり掴んだだけで、黄色いオッサンの分裂をポンポン招く凡ミスを連発。
 セレニティたちは、お色気フェロモンのせいで、本来の趣旨とはちがうピンク色な大人の鬼ごっこが随所で誘発。その対処にまで追われることになった警邏隊から厳重注意と抗議を受け、失格となる。
 わたしとアルバは役立たず。いいように振り回されては、オタオタするばかり。
 わたしは生来の雑さにて、アルバはそのカラダのサイズが邪魔をして、うっかり狭いところに逃げ込まれたら手も足も出ない。
 カネコにまたがったルーシーの分体たちが特殊電磁タモ網を手に奮闘するも、こちらも大苦戦。
 なにせ小型化した黄色いオッサンたちの思考パターンが、あまりにも支離滅裂すぎて、行動予測がまるで立たない。
 論理的思考と効率化を重視する青い目をしたお人形さんにとっては、相性最悪。天敵みたいな存在であることが発覚する。

 捕まえても捕まえても減らない黄色いオッサン。
 ようやく捕まえたと思ったら、いつの間にやら逃げ出している黄色いオッサン。
 イラ立った参加者らが、おもわず手を上げたら、とたんに増える黄色いオッサン。
 そして街に響くは「画蛇添足、がだてんそく。むだむだむだー」という黄色いオッサンのうざい声。

 鬼ごっこ開始当初こそは、参加者らはみんな張り切っていた。
 だが日をまたいだあたりから、集中力が切れ、疲労困憊にて脱落する者が続出。
 敵勢はなおも健在だというのに、味方陣営に大幅な戦力低下を引き起こす。
 このままではマズいと判断したルーシーからの提案により、急遽実施されたのが、捕獲道具一式と、黄色いオッサンの扱い方をまとめたマニュアル小冊子の無料配布。それから捕獲数に応じた報奨金の支払い。
 一体捕まえただけでも、家計が大助かりになる金額にて大盤振る舞い。
 これに都中の奥さま方が目の色を変え俄然やる気を燃やし、ヘロヘロになっている旦那の尻を蹴っ飛ばしムリヤリ立たせて鼓舞。
 おかげで傾きかけていた形勢が一気に盛り返して、逆転。
 三日目の正午過ぎ、ようやく最後の一体の捕獲が完了。
 主都は歓声に包まれ、鬼ごっこ大会は興奮冷めやらぬままに閉幕した。

 ムダに盛り上がった鬼ごっこ。
 その余波と手に入れたあぶくゼニに浮かれて、どんちゃん騒ぎをしている街のみんなを尻目に、わたしたちは眉間にしわを寄せ、ムズカシイ顔をしていた。
 わずかなすき間でもあれば、そこからにゅるんと抜け出す黄色いオッサン。
 だから専用のフタつきビンを作成し、これに一体一体閉じ込めることにしたのだが、それらがずらりと目の前に並んでいる。
 総数二千と三十二という、圧巻の光景。
 ビン詰めされた小さい黄色いオッサンたちが、中でドンドン壁を叩きながら、何ごとかをわめいているが、密閉遮音設計なのでこちらには届かない。

「さて、どうしたものか……。うざいけど実害はないんだよねえ」わたしは困り顔。
「ええ、精神的ストレス以外には」とはルーシー。
「なにかを壊したとか、盗んだという話もありません」そう言ったのはアルバ。「むしろカネコどもの被害の方が多くて頭が痛いと、母も零しておりました」

 そう。いっそのこと乱暴狼藉でも働いてくれたのならば、容赦なく断罪できるのだが、そうじゃない。
 しかもなまじ知性があり、言葉を発する存在である以上は、安易にモンスターとして処理するのもためらわれる。

「……しょうがない。ムダかもしれないけど、とりあえず黄色いオッサンの言い分を聞くだけ聞いてみようか」

 とはいえ、小型の黄色いオッサンのままでは話にならない。
 これは鬼ごっこの最中に判明したことなのだが、このオッサン、どうやら分裂するほどに阿呆度が加速するようだ。
 だが合体すると阿呆度が緩和される。
 だから一つのビンに二体の小型の黄色いオッサンをぶち込んで、鬼メイドのアルバが担いでぶんぶんシェイク。
 すると一体の黄色いオッサンが出来上がり。
 これを三十回ほど繰り返して、ようやく会話が成立しそうなぐらいには、阿呆度が下がったところで、尋問開始。

「で、なんだってわざわざリスターナくんだりにまできたのよ。途中にも立派な国はいくらでもあったでしょうに。やっぱり復讐目的なの?」

 わたしがたずねたら、黄色いオッサンは意外な言葉を口にする。

「否。ワレ、ははを求めて三千世界」

 モンスターとて生き物。
 親がいて子がある。だからお母さんがいても、なんらふしぎじゃない。
 光の剣の残骸を喰べ知性が芽生えたことで、ついに慕情にも目覚めたのか。
 しかしこいつのお母さんがリスターナにいたとは、ついぞ気がつかなかったな。国内でスーラを見かけたことなんてなかったけれども、もしかして下水道か井戸の底にでも篭っているのかな?
 なんてことをぽわぽわ考えていたら、黄色いオッサンがわたしを指差し「会いたかったぞ、ははうえサマー」とかほざきやがった。
 これにはたまらず吹き出し、「なんでそうなる!」と叫ばずにはいられない。

「えっ、そうだったの?」「まだ若いのに」「ずいぶんとお盛んなこと、ぽっ」「未婚の母ね」「若気のいたり」「まぁ、なんて健気な」「生まれた我が子を置き去りに? ヒドイ」「でもこんな時代だから」「そう、すべては時代のせい」「言われてみれば破廉恥具合がそっくり」「生き別れた母と息子の感動の再会ね」

 黄色いオッサンの発言をたまたまた耳にした通りすがりのご婦人連が、こっちを見てヒソヒソ。
 やめて! 誤解だから。お願いだからそんな目で、わたしを見ないで!
 あらぬ濡れ衣を着せられ、とり乱す女主人とは対象的に、隣にいた青い目をしたお人形さんは「ふむふむ、そういうことだったのですか」と独りごちている。そしてあろうことか黄色いオッサンの言葉を肯定しちゃう。

「いえ、あながち的外れなことでもないかと。なにせスーラに手ずから光の剣を与えたのはリンネさま。これすなわち黄色いオッサンを世に産み出したのは、リンネさまということに他なりません」
「そんなバカな!」
「というわけで、二度と今回のようなことがなきよう。『ははうえサマー』には、これからは育児と教育をしっかりお願いしますね。なお子どもの不始末は親の責任。よって今回の大会にかかった諸費用は、リンネさまのお小遣いから差っ引いておきますので、あしからず」
「っ!!」

 かくして未婚の母? となったわたしことアマノリンネ。
 なんとなくめんどうだから丸投げされ、押し付けられた感がアリアリだけれども、なってしまったものはしようがない。
 そんなわけで次回からは、肝っ玉母ちゃん異世界育児日記が始まるよ。


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