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223 伝説の女
しおりを挟む「リリアさま、敵の正面にぼんやり立たない。すぐに移動する。マロンさまは攻撃が単調になりがちですよ。刺突なども織り交ぜるように」
「はい!」「わかった!」
ルーシーの指示を受けながら、剣を手に懸命に敵モンスターと戦うリリアちゃんとマロンちゃん。
現在、小ダンジョン内、第七階層にて黒いオオカミっぽいモンスターのガロンの群れと交戦中。
一対一ではなく、常に二対一にて数の優勢を保ちながら、慎重にモンスターを片づけていくリリアちゃんたち。
それを見守り援護しつつ、ルーシーがその他の敵勢を牽制して、戦いの場と流れを組み立てる。
リリアちゃんが注意を引きつけている隙に、横からマロンちゃんの突きが繰り出され、剣の切っ先が首筋を貫き、最後の一頭が倒れた。
八頭もの群れを駆逐することに成功した二人は「やったー」「やったね」とハイタッチ。
ルーシーの的確な指示と助言により、リリアちゃんらのパーティーは快進撃を続けている。
いかにダンジョン内のモンスターの強さが調整されて、難易度が下げられているとはいえ、初めての実戦形式と考えれば、これはなかなかのもの。
そんな乙女たちの勇姿を撮影し、ライブ中継していたのはパーティーに付き添っているセレニティのカメラマン。
みんなの楽しそうな冒険風景を、一人さみしく眺めているだけのわたしはダンジョンの外。文字通りのカヤの外状態。
だって、出入り禁止なんだもの。
受け付けのお姉さんから申し訳なさそうに、そう告げられたときのショックたるや。
まさか一度も立ち入ったことのない出来立てホヤホヤの施設から、入場を拒否されるとは思わなかった。
ゴネようとしたけれども、なにせ本日は新生タワーダンジョン公開初日につき、満員御礼。受付周辺も大混雑。周囲の目もあり、そんな空気の中でゴネられるほど、わたしの肝は太くない。
だからおとなしく引き下がり、ルーシーに任せて二人を送り出したんだけど……。
「ふぅ、なんという疎外感。これは地味にこたえる」
施設敷地内にあるカフェテラスの片隅。
スマートフォンっぽい通信端末に届く和気あいあいな冒険風景に、切ないため息をもらしていたら、つつつと近寄ってきたのはミランダさん。
頬を膨らましムクれてわたしはソッポを向く。だってわざわざ招待しておいての、この仕打ちなんだもの。怒って当然だよね。
「ごめんねえ、リンネちゃん。どうか機嫌をなおして。ほら、だってリンネちゃんの攻撃ってば、リュウジくんの結界をかんたんに壊しちゃうって話だったから。ここのタワーダンジョンは基本的に似たような仕組みなのよ」
つまりわたしがうっかりぶっ放すと、ダンジョンの壁に大穴が開き、床が抜け、天井も崩れ落ちる。
その気になれば一階から天に向かってショットを放てば、そのまま最上階まで一直線に貫通しちゃう。
初代タワーダンジョンの根元を蹴りでへし折って倒壊させた富士丸くんとは、ちがう意味での危険な存在。
そんな人物にダンジョン内をうろつかれたら、二次被害がちょっと怖い。あとリュウジくんが修理に奔走するハメになり、たぶん過労死する。
これはまずいとの運営側の判断らしい。
悔しいけれども、いちいち思い当たる節があるので、反論できないのがまた悲しい。
「だからって、わざわざパンフレットにわたしの名前まで書かなくても」
事情を聞いて、それなりに納得するも、まだ少しムクれはとれない。
その頬を指先でツンツンしながらミランダさんが「まあまあ、それよりもこれを見て」と、とり出したのは一枚の粘土板。
「これにリンネちゃんの手形が欲しいの。なんといってもあなたは人喰いの塔の問題を解決し、この新生タワーダンジョン施設設立の立役者なんだもの。その功績を称えて記念に英雄の手形を園内に飾ろうとおもってね。じつはそれもあって招待させてもらったのよ。ほんとうは挨拶もしてもらいたかったのだけれど、リンネちゃんはそういうのをイヤがるだろうと思って諦めたんだから」
立役者や英雄などという美辞麗句を並べられて、わたしの耳がピクピク動く。
こうまで言われては正直悪い気はしない。
フフン。しようがないね。そこまで言われては、曲がったへそも戻すしかあるまい。
すっかり機嫌を直したわたしは、ミランダさんからの要請に応じ、快く粘土板をムニュっとして手形を押した。
ライブ中継にて、映像の中のリリアちゃんたちは、ただいま十七階層目へと到達。
小ダンジョン内限定のコインもずいぶんと溜まっており、冒険は順調。
彼女たちはここでいったん休憩をとるようなので、わたしも席をたち、少し施設内を見て歩くことにする。
行く先々にて、なにやら周囲がざわざわ。
やたらと視線を感じるし、何ごとかと顔を向けると目を逸らされる。
身の回りをささっとチェックするも、どこにもヘンなところはなし。うっかりズボンをはき忘れて、パンツ丸出しとかいうこともない。
コンパクトをとり出し鏡の中を覗いてみるが、寝起きで頭が爆発していることも、口元にチョコレートがべったりなんてこともない。
おかしいな? 気のせいだったか。
だからふたたび歩き出すも、今度はそれとなく周囲の雑踏に耳を傾けていたら、聞こえてきたのは「あれがウワサの出禁の女か」「いや伝説の女だろう」「出禁で伝説になった女じゃないのか」といった声がヒソヒソ。
それを聞いて「ひょっとして、さっきの受け付けでの一件を見られたか。でもいくらなんでも伝説は大袈裟だろうに」ぐらいに考えていたわたしは、半ば呆れつつ気にしないことにした。
すると、いち段と見物客で人だかりが出来ているところを発見。
近づいて見れば建物の壁を利用した巨大壁画。
宗教画を思わせる荘厳にて微細なタッチ。色彩豊かに描かれてあったのは、わたしと富士丸くんの姿絵と千階層にも及んだ試練の塔にまつわる物語を、それっぽく脚色した簡略エピソード。さっきミランダさんに頼まれて押した手形も飾られてあった。
かくして虚実が入り混じり、わたしは伝説の出禁の女となったのである。
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