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218 夢追い人

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 トラほどもあるネコ型種族カネコのための憩いの場を装って、カネコ愛好家らから効率よくコインを巻き上げる集金システム。
 カネコカフェがついにオープン。

 体長が二メートルほどもあるカネコたち。だから施設も大きめ。球場ほどもある。
 建造に際して問題となったのは、まず土地。
 主都内はただでさえゴミゴミしているというのに、ここのところの好調な経済のおかげで、敗戦直後の閑散としていたのも今は昔。人口密度は増す一方。おかげでどこを探しても適した土地が見つからない。
 地下はルーシーたちがいろいろとイジっているのでダメ。
 かといって頭上に天空の城を築くわけにもいくまい。グランディアたちは作りたいって言ったけれども、却下。さすがに悪目立ちが過ぎる。
 とはいえまさか区画整理とか言って、強引な地上げや住人らを強制撤去とかをするわけにもいかない。
 都の郊外だとカネコたちが、「通うのが不便にゃ」なんぞとワガママを言う。
 さて、どうしたものかと難儀していたら、シルト王が「いい機会だから」と都の拡張を決断。
 以前から考えていたそうで、宰相のダイクさんも賛成。訓練と称し嬉々として都を囲っている壁をぶち壊すゴードン将軍とその旗下。
 これにより新たに広がった区画の使用許可が下りたので、そちらにドーンとドーム状のを立ててやった。
 内部はカネコと子どもたちが、いっしょになって仲良く遊べる屋内型遊技場のような造りになっている。
 冷暖房完備の全天候型。もちろんイートインスペースも充実。いざというときの避難所も兼ねており、カネコ愛好家のみならず、小さな子どものいるママさん方からも「安心して遊ばせられる。そして自分たちはお茶をしながら存分に井戸端会議に興じられる」と好評だ。
 箱物が完成して、次に問題となったのが人材。
 誰にこの施設を任せるべきか。いつものごとくルーシーズを充てても良かったのだが、あんまり身内ばかりで固めるのもどうかと考えた。
 そこで思案の末に白羽の矢を立てたのが、勇者狩りの一件のときに、救出した三人の女勇者たち。これをまとめて施設長に就任させる。
 能力は並み、性格も並み、容姿も並みにて、わたしが「ジミンズ」と名付けた三人組。
 彼女たちは勇者として争いや謀略に生きるのをイヤがり、聖魔戦線の突然の停戦にて混乱しているどさくさに紛れて、なけなしの勇気を振り絞っての出奔に踏み切る。
 不慣れな旅にて苦労を重ねつつ、互いに身を寄せ合って支え合い、どうにか目的地の手前にまで来たところで、運悪く網を張っていた勇者狩りのマドカの毒牙にかかってしまったと。
 どうしてまた、わざわざリスターナのような辺境の小国を目指していたのかというと、「カップ焼きそばやチョコレートとかの食べ物にも惹かれたんだけど、なにより大都会はちょっと怖くって」という微妙な理由であった。
 事情を聴いたシルト王は三人の移住を快諾。
 謁見の際に美中年から静かに見つめられ「苦労したね。うちでは、なんら強制することもないから。いち住民として自由に過ごしたらいいよ」とやさしく言われて、ジミンズはポーッとしていた。
 このままだとうっかり惚れてしまいそうだったので、わたしはこっそり「アレはやめておけ。その恋路の果てには炎の魔女王との異名を持つ、メスライオンことジャニス女王が立ちふさがることになるから」と囁いておく。
 すると三人は「そんな気は毛頭ないわよ。いい男ってのは遠くから眺めているのが美味しいの。それにうっかりイケメンなんてものを彼氏にしたら、ちっとも気が休まらないもの。じきに嫉妬に狂うのがオチよ」なんて言った。
 なんてこった! 三人は地味な見た目に反して、じつは恋愛経験豊富な肉食モンスターだったのか? と警戒心もあらわにすると、そんなわたしの態度にジミンズはけらけら笑う。

「そんなわけないでしょ」
「恋愛力なんてカケラもないわよ」
「でも妄想力ならば、そこそこ自信があるわね」

 この瞬間、わたしたちはガッチリ肩を組み円陣。心の友となった。
 でもジミンズ入りは丁重にお断りした。

 オープンしたカネコカフェは連日の大盛況。
 あまりの盛況ぶりに入場制限を設けて整理券を配るハメに。
 もっとも配る相手はカネコたちであったけれども。
 いくらタダで飲み食いできるからって、一斉に押しかけすぎなんだよ。
 連中ってば総数が三千と二百二十九もいるんだから。その全員が我も我もとやって来て、入り浸られては、さすがに処理しきれない。
 しかもカネコの辞書に「遠慮」という文字はない。
 それゆえに苦渋の決断。カネコどもにはしばらく運営が軌道にのるまで、辛抱してもらうほかにない。

 従業員たちを叱咤激励しつつ、忙しそうに立ち回っているジミンズたち。ホウキ片手に隙あらば厨房に入り込もうとするカネコどもを追っ払う姿が、早くも板についてきている。
 それを横目にテラス席にて、わたしは優雅にティータイム。
 向かいの席にはショウキチが座っている。
 彼はジミンズたちとはちがい、リスターナに移住することなく一時滞在するにとどめるそうな。そんなわけでここのところ適当にぶらぶら過ごしている。一人で戦勝記念館のところにある遊園地にて、観覧車に乗ったという話を聞いたときには、不覚にもちょっとホロリとしてしまった。

「なぁ、カネコカフェってのはいいとして、どうして従業員らまでネコ耳をつけさせられてるんだ?」
「うーん、なんとなく。なにごともノリだよ、わるノリ」
「そっちのノリかよっ! まったく……、ところで例の返事をそろそろ聞かせてもらえるとありがたいんだが」
「例のって『いっしょに勇者の国へ行こう』って話のこと? あれなら前にも言ったけど、やっぱりパスで。あんたも悪いこと言わないからヤメておいたほうがいいよ。建国とか、カネコカフェをオープンさせるのとはワケがちがうんだから。それに国の運営をあまり舐めないほうがいい。わたしは何人かのえらい人たちを知ってる。だから断言するけど、むちゃくちゃたいへんなんだから。じきにストレスでハゲて、太って、胃に穴が開いて血反吐はきながら、お尻が爆発するのがオチだよ」
「いや、たいへんなのはわかっているさ。それでもやっぱりオレは……」

 そう言って黙り込んだショウキチ。
 どうやら決意は固いようだ。
 ぱっとしない見た目のくせして、やっぱり彼も男の子なんだねえ。出来る出来ないという話ではないのだろう。やれるだけやってみたい。行けるところまで行ってみたい。やらずに燻ぶっているよりも、やって後悔するほうがいい。
 そんな夢追い人に、わたしがしてやれることは限られている。

「まぁ、自分で決めたことなら、これ以上は外野がとやかく言うことじゃないから。なにかあったら連絡しな。協力できることがあったら格安で手を貸してあげるから」

 わたしがそう言うとショウキチは「ありがとう。それで十分だ」と笑顔を見せた。
 ショウキチは三週間ほどリスターナでのんびりと過ごしてから、ふたたび旅立っていった。
 見送りはわたしとルーシーだけ。ジミンズも行くと言っていたのだけれども、それはショウキチが遠慮した。「忙しいんだから、いまは自分のことだけを考えておけ」などという男気を見せる。
 基本的にいいヤツなんだよねえ、ショウキチってば。見せてもらったけれども、弓の腕もそこそこにて使える人材。出来ればリスターナに居着いてくれればよかったんだけど。

「勇者の国かぁ……。本当に実現するのかねえ」

 遠ざかるショウキチの背を見送っていたわたしがつぶやくと、隣にいたルーシーさんは「ムリでしょう」と即答。

「これまでにも異世界渡りの勇者が建国したケースは多々ありました。ですがほとんどが道半ばでとん挫、もしくは一代限りで潰えています。なにせ求心力となる勇者の能力が次世代には伝わりませんので。なお現存しているのはミロナイトだけですよ。それすらも前身となる準国家級の母体があったからこそ。すべてをいちから構築するとなると」

 資金、人材、土地、開発、運営、法整備、流通や経済基盤に住民の確保などなど、クリアすべき問題は山積にて、数えあげたらキリがない。
 ましてや素人集団だけでとなると、成功の確率は限りなくゼロ。
 夢も希望もありゃしない、青い目をしたお人形さんのとってもドライなお話。
 これを聞いて、わたしは「男ってバカだな」とぼそり。
 するとルーシーは「男とは元来そういう生き物なのです」と言った。


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