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204 第二の聖騎士のチカラ

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 空気を圧縮することで爆発的なチカラを生み出す。
 ジョアンの不可視の盾が見えない防御とするのならば、ラドボルグのそれは見えない攻撃。
 ただし汎用性においては、比べものにならない。
 なにせラドボルグの空気圧縮は、攻守どころか移動にも大活躍。
 足下などで発生させてこれを応用しての高速移動。おそらく弾丸のように空も飛べ、自由に軌道をも変えられるはず。
 身にまとい打撃力を上げたり攻撃の速度を増したり、間合いを広げるだけでなく、トラップやら飛び道具としても使用できちゃう。
 たぶんだけど直接耳の穴とか口に、圧縮した空気を押し込まれたら、とっても恐ろしいことになるにちがいあるまい。
 でも、これはラドボルグの三つあるうちのチートの一つに過ぎない。
 残り二つについては、先ほどのルーシーさんの言葉がヒントになった。
 お人形さんは確かにこう言った。「動きが緩慢にて、ぼけっとしている」と。
 わたしは戦闘において、それなりに一生懸命に動いていた。
 けれどもはたから見ると、もっさり見える。そしておそらくはそちらがまごうことなき事実。
 感覚と現実にズレが生じている。
 それこそが、ラドボルグのチカラの正体その二。

「ずっと閉じられていた瞼が開いている。開いたとたんにこの展開。ということは、そいつはただのオッドアイじゃない。この迷探偵は誤魔化せないよ。あんたのソイツは魔眼だ!」

 再びビシっと指をかざし、わたしは得意げに胸を反らし、「どうだ恐れ入ったか」と鼻の穴を膨らましフンスカ。
 が、これを受けても犯人役はまたしても塩対応。

「いや……、それも今更だろう。我がことながら、こんなモノ、ひと目見ればわかるだろうに」呆れ、タメ息を漏らすラドボルグ。「ふぅ、まぁいいだろう。どのみちお前はここで始末するから、あの世への土産がわりに教えてやる。ご指摘のとおり、私のこの目は魔眼だ。ただし左右にて働きが異なるがな」

 緑色をした右の魔眼。そのチカラは未来視にて、ほんの数分ほどだけだが先を見通す。
 黄色をした左の魔眼。そのチカラは思考遅延にて、対象の思考速度を遅らせる。
 この二つを同時に使用することで、相対する者はすべてが緩慢となり、自分は常に相手の数手先を行くことが可能となる。
 これにより同じ場所に立っているのにもかかわらず、片方だけが数分とはいえ未来を歩いているかのような状況が発生する。
 こいつがわたしの身に起きていた感覚と現実とのズレの正体。
 あれよあれよと判明したラドボルグのトリプルチート。
 能力についての情報を惜し気もなく晒す。これすなわち、それだけラドボルグには絶対の自信があるということ。
 それもそのはずだ。
 わたしとラドボルグとの戦い。
 将棋でいったらとっくに投了して勝負がついたあとに、あらためて記録に従って差し直しているようなもの。
 しかもこちらは持ち時間がゼロどころかマイナスなのに、あっちはたっぷり。常にじっくり次の一手を考えてから行動できる。
 どおりでひょいひょいわたしの攻撃を避けるはずだよ!
 完全にカンニングじゃん! こんなの相手にどうしろっていうのよ!
 マジでまいったね、こりゃあ……。一対一なら無類の強さだ。あらゆる攻め手が封じられて、防御も回避をも意味をなさない。しかもこうやって一生懸命に頭を使っているのすらもが、実際には左の魔眼の影響にてのんべんだらり、ほぼほぼ役に立たないとは。思考スピードを落とされるのって、とてもやっかいだ。初見殺しもいいところである。
 ルーシーがアレ以来、まったく顔を見せずに引っ込んだまま。
 おそらくは出たくても出られないんだ。右眼の魔眼にてどこから出てくるのかがバレている。うっかり頭を出したらすぐさまポカンとモグラ叩きされちゃうから。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 あせるばかりのわたしとちがって、ラドボルグの野郎は余裕しゃくしゃく。
 まったく、なんでわたしはこんなことをしているんだ? シリアスバトルなんて柄じゃないってのに……、って改めて考えてみればそれもそうか。
 なんで、わたしってばマジメにやってるの? いや、もちろんノノアちゃんのため、自身の平穏のためではあるけれども、だからって少年マンガみたいにバカ正直にタイマンを張る必要なんてないような……。
 時と場合によるけれども、今回に限っては大切なのは結果であって過程ではない。
 しかも現状においては、誰はばかることもない。
 ふむ。どうやらアルバやみんなとの修行でしごかれているうちに、物の見方や考え方が脳筋寄りになっていたようだね。
 いったい何を勘違いしていたんだろう? これは試合でもなければケンカでもない。殺るか殺られるか。いわば生き残りをかけた生存競争のようなもの。あらゆる手段を行使して、最終的に生き残った者が正義。
 ここのところ、ちまちまと色々ムズかしく考えて小さくまとまっていた。そんなのちっともわたしらしくない。
 おっ! なんだか頭の中がいい感じにスッキリ、グルグルうねうね回り始めてきた気がする。
 それにともない気が楽になって、表情にも余裕が戻って来る。
 相手の土俵にわざわざのって、相手のやり方に合わせてやる必要なんて、これっぽっちもないじゃない。
 向こうが詰め将棋でくるのならば、わたしは掟破りのちゃぶ台返しで応じてやる。
 ずんずん湧く湧く、知恵の泉ならぬ悪だくみの油田。
 バブル到来にて脳内フィーバー。
 自然と口角が歪み「にへら」と、いやらしい笑みが浮かぶのを止められない。
 これに反比例するかのようにして、みるみる顔色が悪くなっていくラドボルグ。
 はてさて、彼の右目の魔眼には、どんなデンジャラスな未来が視えていることやら。


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